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世界を見るメガネを着替える|#3 VUCAな世界の住人たち

こんにちは、デザインエスノグラフィです。
私たちは、未来に向けた企業の事業開発やブランディングを支援しながら、そこで役立つナレッジの開発を行っています。その一つとして、パンデミックを経た新しい時代の欲求リスト「VUCAを生きる30のマインド」(VUCA MIND 2021)を公開しています。

noteでは、30のマインドへの理解を深めるシリーズとして、いくつかのマインドを取り上げて例を交えながら解説をお届けしています。

第3回となる今回取り上げるマインドは「ノマディッシュ」「半径数メートル」です。

5回目記事カード

理想を叶える。幸せを手に入れる。そのための行動の積み重ねが人生を作っています。社会変化とともに理想も幸せの基準もどんどん変わっていく中で、“自分にとって”の理想や幸せにもう一度向き合う。そんな時に現れるこの2つのマインドはどんなものなのでしょうか?

激変する世界に光を見いだす

ある平日の朝、病院の待合室に座っていると、テレビから軽快なリズムが聞こえてきた。テレビに目をやると、それはEテレの番組「ミミクリーズ」で、子供にもわかるようにトポロジーを歌った「トポロジーのうた」がちょうど流れていた。音楽に合わせてダンスする人、カラフルな図形がくねくねと変形していくご機嫌なアニメーションだ。

例えばコーヒーカップとドーナツ。まったく違う形を持つ2つの物がある位置から見るとぴたりと同じ形になる。「実は同じ形の物」がリズムに乗って心地よく明かされていく映像から目が離せず、これから親知らずを抜く憂鬱も忘れて(病院に来た目的はそれ)、トポロジカルに物を見るという新鮮な体験にすっかり魅了されていた。

新しい物事の見方を獲得することはセンセーショナルな体験である。それ以前と世界が違って見え、生まれ変わったような気にさえなる。それはまるで新しいメガネをかけた時の気分だ。

新型コロナウイルスの流行は急激な社会変化を呼び、それまでの「当たり前」はあっという間に通用しなくなった。今までのメガネがまったく使い物にならなくなったのだ。その代わりに人々は新しいメガネを手に入れ、世界の見方を変えることで、不安な日々をポジティブに生き抜こうとしている。

ノマディッシュ——何ものにも縛られない理想を追いかける

「好きな時に好きな所で働けたらな……。」
「好きなことをして生きられたらな……。」
「いろんな仕事で活躍できたらな……。」

全部それが「だったらな」なのは、「仕事は会社でするもの」「好きなことはお金にならない」「仕事は1つに専念するもの」、そういった時間や場所、収入や所属の制約があるからだ。ところが、多くの働く人を縛ってきた最大の制約が、コロナ禍で図らずもぶち壊されることになった。

「出社する必要ってなかったんだ!!!」

これは世紀の大発見である。そうとなれば、通勤に便利な都心に住む必要もなければ、なんなら定住している必要もないかもしれない。それまでもギグワークや副業など働き方の多様化は進んでいたものの、この大発見は「制約を外して人生を見つめ直す」というマジカルな体験を多くの人にもたらした。

制約を取り払って見てみると、驚くほど人生の可能性が広がる。地方移住すれば、今の収入のままでも夢に見た暮らしが実現できるかも!食いつなぐためにお金が必要なら、自給自足すれば自由が手に入るかも!一生叶わないと思っていた夢が、たちまち手の届く目標になったではないか。

コロナ禍の絶望と裏腹に人生の夢が膨らんだという人もいるかもしれない。真面目に会社に勤め、堅実に暮らしてきた人でも、コロナ禍の1年ちょっとの間に車を買ったり、郊外に引っ越したり、転職を考えてみたり。ものの見方ひとつで、それまで踏み出せなかった一歩をいとも簡単に飛び越えることができたのだ。

「ノマディッシュ」というマインドは、社会の制約に縛られずに自分の生き方を見つめるメガネを与え、不安だらけの時代の中でも私たちを今ふたたび夢追い人にしてくれる。

ノマディッシュ_72

半径数メートル——すぐそこにある幸せに目を凝らす

コロナ禍で私たちの行動範囲はぎゅっと制限されることになった。旅行はもちろん、気ままに出かけることも、人に気軽に会うこともままならない。制限下にある生活では、はじめは「できない」ことへのフラストレーションが募るばかりだった。

しかし、この生活が長期戦になると分かってきた頃には、私たちはちゃんと「できる」ことに目を向けられるようになり始めていた。いろんな物を手間ひまかけて作ってみたり、植物を育ててみたり。「おうち時間」を楽しむために新しい趣味を見つけたという人も多いだろう。

新型コロナが大流行するまでは、最新のものを追いかけ、流行りのお店に行ってインスタに写真をアップして、人々の気持ちは先へ外へと向かっていた。そしてそれに疲弊してもいた。あっという間に移り変わっていく世の中で先端に居続けるのはしんどいものだ。

外に出られない代わりにと思って始めた「おうち時間」だったかもしれない。でも、それはずっとそこにあったのに今まで目に入っていなかっただけ。身近な所からも喜びや幸せを見出だせるということを、外ばかり見ていた人がついに発見したのだ。それに、不確実な世の中にあっても自分や近くにいる人を確実に幸せにできる方法を、外から守られた半径数メートルの世界に持っているということは、こんなにも心強いのだと知った。

パンデミックが収束に向かえば、私たちはまた外の世界に多くを求めるようになるのかもしれない。そうだとしても、外に疲れたらいつでも頼れる身近な幸せがあることを、私たちはもう知っている。

「半径数メートル」というマインドは、近くがよく見えるメガネとなり、足元に転がっている幸せの輝きをこれからも私たちに見せてくれるのだろう。

半径数メートル_72

社会を介さずとも見えるものを頼りに

自然災害、デジタル・ディスラプターの登場に、SNSの流行り廃り……。思えばパンデミックに限らず、VUCAと呼ばれる時代に突入してから、私たちは移ろいやすい社会に振り回されっぱなしだった。それは、自分という人間も、自分の人生も、社会というフィルターを通して見ていたからなのかもしれない。

パンデミック以降は、社会の当たり前が崩れ、再構築されようとするさまを毎日目の当たりにしている。社会の制約に散々とらわれ、社会基準の幸せを追いかけていたのに、自分たちが拠り所にしていた社会はこんなに脆いものだったのだと思い知らされたのである。

コロナ禍にはその変化が急激すぎるあまり、ついに社会が不在かのような状態にさえなったが、その結果として、人々は自分の人生にピントを合わせて理想を描き、社会の干渉を受けない領域の幸せに目を向け始めている。

変化する社会に影響されることなく理想や幸せを描くことは、VUCA時代を幸せに生きるスキルとも言える。「ノマディッシュ」「半径数メートル」というマインドは、そのスキルを人々に授けるべく、パンデミックによる社会の混乱とともに現れたのかもしれない。

[文]及川結理 [イラスト]山本茂貴


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