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【小説】顔のみえないおくりもの

夢の中の物語

夕暮れの公園。13歳の少女、リナは秋風に揺れるスイングにひとり揺られていた。彼女の瞳にはぼんやりとした哀しみが浮かんでいた。

「また一人でスイングしてるの?」そこには誰もいない。でも、その声ははっきりと聞こえてきた。

リナは驚きつつも答えた。「うん、でも、私は一人じゃないよ。あなたがいるから」

顔の見えない誰かとの会話は、数週間前から始まった。最初は恐ろしく、リナはその声を避けていたが、声は優しく、温かく、毎日のようにリナのそばに現れては、悩みや楽しみについて語り合った。

「今日は何をしていたの?」顔の見えない誰かが尋ねる。

「学校で友達と楽しかったよ。でも...」リナの言葉は途切れ、顔の見えない誰かにはその後が読み取れた。

「あの悩み、まだ解消されてないのね」

リナはうつむいた。「うん、人には言えない悩みがあるんだ。でも、あなたには何でも話せる気がする」

「私は何でも聞くよ。その悩み、教えてくれない?」声は穏やかで、リナの心を包み込むようだった。

少しずつ、リナは口を開いた。母親が亡くなってからの家庭の状況、学校での孤立感、それらが重なって内に秘めていた感情を語った。

「でも、あなたと話すとなんだか楽になるんだ。何でだろう?」リナは不思議そうにつぶやいた。

「私たち、どこかで会ったことがあるんじゃないかな?」その言葉にリナは驚いた。確かに、その声と話すたびに、どこか懐かしい気持ちになった。

日が過ぎ、季節が移り変わっても、二人の関係は深まるばかりだった。リナの悩みは、顔の見えない誰かの言葉によって少しずつ解消されていった。

しかし、ある日突然、顔の見えない誰かが言った。「明日、私たちの最後の日だよ」

「え?どうして?」リナの目に涙が溢れた。

「すべてのものには終わりがくる。でも、最後に君に一つのおくりものをしたい」

次の日、公園で待っているリナの前に、一枚の写真が現れた。それは、小さなリナと若かった母親が笑顔で写っている写真だった。リナは涙を流しながら写真を手に取った。

「これは...」

「君が失っていた大切なものだよ。これで、私たちの約束は果たされた」

その後、顔の見えない誰かの声を聞くことはなかった。でも、リナはその写真を胸に抱きしめ、再び前を向いて歩き始めた。彼女は知っていた。顔の見えない誰かが、実は彼女の心の中にずっといたことを。そして、その「誰か」が彼女に最も必要だったもの、母親の愛を思い出させてくれたことを。

リナは再びスイングに乗った。今度は、心からの笑顔で。

あとがき

こんにちは!調査員スズリです。
今回はちょっと違ったお話。
「夢の中の物語」。いわゆる妄想小説ですが。笑
ちょっと不思議な気持ちになる、簡単に読めるミステリー、
思いついたときにちょっと更新していければなと思っています。
楽しんでいただけたら幸いです!

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