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古代エジプトのかけ算 〜エジプト算法:2倍法〜

 前回のお話では「農夫のかけ算」の計算方法をご紹介しました。今日は歴史をさかのぼって、古代エジプトではどのような方法でかけ算をしていたのかを見てみましょう。
古代エジプト人のかけ算の方法は、「農夫のかけ算」と原理は同じなのですがやり方が少し異なります。n×m のかけ算を、前回と同じ42×123を使って、つまりn=42、 m=123として説明しましょう。エジプト式かけ算では以下のような表を使って計算をします(表1)。

006-2_図1

 4つの列があります。最初の欄はㇾ印を記入する欄で、これをチェック欄と呼びます。次の欄を左の欄、右端の欄を右の欄と呼びます。真ん中の赤字で書かれた欄を作業欄と呼びます。この欄は出土したパピルスには書かれていません。
農夫のかけ算」では  1行目に「 n 」を書き、2で割っていったのですが、エジプト式かけ算では「 1 」を2倍していきます。実際にやってみましょう。
左の欄の一番上に1と書き、2倍した数を下の行に書き込んでいきます。2倍、2倍…を繰り返してn=42 を越える直前でやめます。

006-2_図2

nとmが変わっても左の欄にはつねに同じ数列1, 2, 4, 8, 16, 32…が書かれます。右の欄は一番上にmを書き、「農夫のかけ算」と同様に2倍していきます。

006-2_図3


次に作業欄の一番下に n=42 を書き込みます。
左の欄と右の欄ができ上がったら、作業欄を使って左の欄の和が42になるように選んでいきます。
下の図を見てください。一番下の行から上に向かって、作業欄の数から左の欄の数が引けるかをチェックします。42 から 32 は引けますから、チェック欄にㇾを記入し、引いた結果 10 を上の行に記入します。10 から 16 は引けませんから、そのまま 10 を上の欄に記入します。10 から 8 は引けます。チェックを入れ上の欄に引いた結果の 2 を記入します。2 から 4 は引けませんからそのまま 2 を上の欄に記入します。2から2は引けますから、チェックを入れ、上の欄に0を記入します。

006-2_図4

この操作が終わると、チェックを入れた行の左の欄の和が n=42 となっていいます。

006-2_図5


チェックを入れた行の右の欄の和は n×m つまり 42×123 となっているはずです。これを確かめてみましょう。

006-2_図6

チェックを入れた行の右の欄の和が42と123の積になっており、この算法がうまく働くことがわかります。この古代エジプトの算法を「2倍法」と呼ぶことにします。

 〔完全数のお話〕で、〔完全数の定理〕が正しいことを証明しました。しかし古代の人はどのようにしてこの定理を思いついたのでしょうか。おそらくこれは古代エジプトの2倍法が関係しているのではないかと思われます。
「2倍法」では、左の欄には決まって、

006-2_図7

という数列が書かれます。また、古代エジプト人は計算するたびにこれらの数の和を計算していました。何度も計算するうちに、現在の表記で

006-2_図8

と表される公式にたどりついたのではないでしょうか。n=4 とし、M を

006-2_図9

とおきましょう。古代エジプト人は表2 のような計算表をたくさん残しています。

006-2_図10

もちろん、古代エジプト人が作った計算表には、M, 2M, 4M, … のような記号ではなく実際の数値が書かれていました。また一番下の「計」の行は考えません。右の欄一番下の16M に注目しましょう。古代エジプト人は、この 16M がこの表のこれ以外の数値の和となっていることに気がつきました。つまり、次が成立するのです。

006-2_図11

古代の人は、こういった不思議な現象に興味を持つものです。またこのたぐいの計算は古代エジプト人にとってはお手の物でした。
左の欄の 1, 2, 4, 8, 16 は16M の約数です。右の欄の M, 2M, 4M, 8M も 16M の約数です。もし M が素数なら、16M の約数はこれ以外にありません。したがって 16M は完全数です。

 〔完全数の定理〕を発見した人は誰であるか分かっていません。『原論』にある、とても複雑で精緻な証明は、おそらく古代ギリシア人によるものだと思われます。しかし、厳密な証明を与えた人が必ずしも発見者とは限りません。〔完全数の定理〕の発見者は、古代エジプトの2倍法に熟練した達人だったような気がします。
 今回は n=4 で説明しましたが、n=3 の場合、つまりM=1+2+4=7 の場合、古代エジプトの書記学校の生徒は、表2のような表に何度も出会っていたのではないかと思われます。次回はこれに関連したお話をしましょう。


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