外腸骨動脈内線維化症になった話

お恥ずかしいくらいここ半年くらい騒いでいたので、知っている人もいるかと思いますが、実は年明けからずっと不調続きで悩んでいました。

お散歩ペースの出力すら辛くてペダルを回し続けられなく、不調なんて言葉じゃ言い表せられない位の弱体化が突然訳もわからず起こり、メンタルもボロボロでした。

縁あって知り合いに、サイクリストの職業病ともいわれている血管の障害の事を教えてもらい、その症状が自分の状況とそっくりだった為、5月頃から病院を転々とし、最終的に外腸骨動脈内線維化症という障害の診断がようやくおりました。

自分の為の備忘録という部分が大半ですが、世間ではほとんど認知されていない故に情報が少ないにも関わらず、熱心なサイクリストなら誰しも罹患する可能性がある障害なので、同じように理由もわからず悩んでいる誰かの為になるんじゃないかと思い、記しておきます。

外腸骨動脈内線維化症とは

”iliac artery endofibrosis”という英語名を直訳した名称で、正式な日本語名はないそうです。日本語でググってみてもほとんどヒットしない位症例が少ない様ですが、プロ、アマ問わず『長時間かつ高強度で自転車に乗る若いサイクリストが罹患する血管障害』とのこと。

調べてみると、オリンピアンの與那嶺選手や元那須ブラーゼンの小野寺慶選手、海外の選手だとボブ・ユンゲルス選手等有名な方も罹患している様でした。トライアスロンの選手にも多く見られるようです。
小野寺慶元選手がこの障害についてとても分かりやすく書いて下さっているので是非見てみて下さい。(https://kei-onodera.github.io/

英語での論文によると、年間走行距離が8,000 ~ 35,000 km、総走行距離がおよそ150,000 kmの選手の罹患率が多いとのこと。
長時間のエアロフォームとペダリングによる繰り返される屈伸運動が原因と見られており、外腸骨動脈という腸骨付近を通る動脈ががネジ曲がったり筋肉で圧迫されたり内膜が線維化(細くなる)し、脚に血液が送り込まれず、窒息したような状態になると言われています。
ただ根本的な原因というのはまだわかっていない様です。

この障害の症状の特徴としては
・高強度運動の際に起こる片足の窒息する様な痛み、痺れ、虚脱感
・1分ほど休むと痛みが引く
・安静時は症状がない
・症状が出る場所は、臀部、太ももから脹脛まで人により場所は違う
・進行すると低強度でも症状が起こる
・特に登坂時になると顕著に発生する
・たいていは片脚のみ(稀に両脚の症例も)

上記に加えて私に起こった症状は
・階段を昇る、ランニング、スクワットでも症状が出る
・障害のある側の体幹部の筋肉が使いにくくなる
・即ちペダリングがギクシャクしてくる
ただ、これらは個人的に感じた事なので、障害との直接的な関連性はないかもしれません。とにかくサンプルが少ないので、医師に聞いても「そういう可能性もある」としか答えてもらえませんでした。

治す方法ですが
自転車を降りるか手術するか の2択の様です。
人によっては自転車のポジションを変えることで少し良くなることも有るようですが、あくまでも気休め。
究極すぎる2択に最初は怯えましたw

振り返ってみると

私にその症状が出たのは、覚えてる限りでは2021年3月の白石峠TTだった気がします。
頑張った分だけ速くなれるのが楽しくなり、追い込んで走るようになってから2年ほど経った頃でした。
峠の後半で、右脚が痺れるような、窒息する様な感覚になったのですが、その時は追い込んで走ると皆必ずどこかに苦痛を感じるものだし、それを我慢した者が強いのだと思い()特に気にしていませんでした。
脚の左右差もあったし、ペダリングが上手とは言えなかったと思うので、体の使い方の問題とも思っていました。

クリート位置を変えてみたり、漕ぎ方を意識してみたり、なんとなく誤魔化し誤魔化し過ごしてきていましたが、
去年2022年の7月のJBCF石川ロードレースでは最初の1分ちょっとの坂で6倍出された所から右脚が完全に息をしなくなり、左脚だけでなんとかペダルを回してる状態になりました。
その後の東京ヒルクライム奥多摩ステージ、檜原ステージでも途中から症状が出てスイッチが切れたように全く踏めなくなり、動かなくなった右脚を庇いながらなんとか左脚だけで堪えるという状況でした。
その時は疲労が溜まっているんだと思い、週1くらいだったレスト日を週2位に増やすなど、意識的に多く休養を取りました。

ところが、今年の年明け位からは峠のタイムがベストから6分以上遅くなったり、今までこなせていたワークアウトができなくなったり…
調子が良いと感じる時よりも明らかに、身体が思うように動かない事の方が多かったです。

流石に鈍感な私でも、ようやくここで明らかにおかしいと感じました。
オーバートレーニング症候群を疑い、思い切って2週間ほど完全レストを取ることにしました。
休むと弱くなるんじゃないかと不安になるので、以前はなかなか休むことができませんでしたが、既にこれ以上弱くなり様がないくらいに弱かったので、抵抗なく休めました。

2週間の休息の間は、鍼に行ったり、スポーツマッサージに行ったり、身体を入念にほぐしてもらい、疲労の全くないフレッシュな身体という物を本当に久しぶりに体感しました。右脚の太ももが、他の部位よりも異様にガチガチだったのが印象的です。

ところが休養明け、いざ走ってみると期待していたよりも脚が動きません。休養明けは心肺機能が弱っているものなので、2週間、3週間と様子を見ていましたが、いくら経ってもL4以上のパワーを維持することができませんでした。日によってはL2を維持することすら顔がゆがむくらいキツかったです。

楽しみにしていた山岳ブルべも序盤でリタイアし、
普段のグループライドですら、いつものペースやコースについていけずに苦しくなって途中離脱することが多くなりました。
標高600mup程度の山すら、ちゃんと登れるか不安に感じない日はありませんでした。大袈裟でなく、この峠を登って向こう側に降りてしまったら帰れなくなるかも、という考えすら頭をよぎるのです。

以前なら坂とも認識してなかったような坂が、まさに「立ちはだかる壁」に見えてくるから人の心理って不思議。

今までできた事、積み上げてきた事が突然理由もわからず理不尽に全部リセットされ、こんな状態で純粋に自転車を楽しむことなんてできるわけがなく、荒んで荒んで荒みまくりました。
いい年して、毎回ライドの度にペダルを回しながら泣いていましたwアイウェアあってよかった~!

病院探し

そんな失意の中、知人が件の血管障害の事を教えてくれた事で一筋の光が見えました。
日本語のサイトはほとんどないので、海外の情報サイトを沢山読み漁り、情報収集をしました。先述した、小野寺慶元選手のブログの記事にあった簡易的な血圧測定もしてみることに。勘違いだったら困るしね。
家庭用血圧測定器を使用し、安静時の足首の血圧と、ローラーでもがいて症状を出した後の足首の血圧を比べてみるというものです。

安静時
もがき後(右脚だけ血圧が下がっている)

その後、苦労したのが病院探しです。
整形外科なのか内科系なのか、何科に診てもらうのが一番良いのかもわかりませんでしたが、いてもたってもいられず、地元の有名なスポーツ整形外科にとりあえず行ってみました。

右脚がおかしいこと、オーバートレーニング症候群を疑ったが、休んでも改善しなかったこと、家で血圧を測ったら異様な数値が出たので、もしかしたら血管障害かもしれない事を伝えましたが、
検査はレントゲンのみ(レントゲンで血管は映らない)。
触診をして
・右側体幹部から脚にかけての動きが鈍い
・左脚に比べて右の脚が張っている
事を指摘され、リハビリ等の対処療法だけしか提案してもらえませんでした。

もしや、ただ自分の身体の使い方が下手だっただけなのかしら?と少し恥ずかしくなりました。
こんなに大騒ぎして思い通りに走れなくて悩みまくってた原因が、実は単なる自分の筋力不足やケア不足だったとすると、それはそれでショックでした。

その後ツイッターでつぶやいたところ、外腸骨動脈内繊維化症で手術を受けた知人がいるとのことで、複数人から情報をいただくことができました。本当感謝してもしきれません。
手術を受けたという病院が大学病院だったので、そこへスムーズに紹介してもらえるよう、一般病院でもこの障害を知る医師はいないかと得意のネットストーキングで調べ上げました。

幸運なことに、障害を知っていそうな整形外科の医師が都内にいらしたので、すぐさま駆け付けました。

それからは血液検査、エコー検査、造影剤投与でのCTスキャン、トレッドミル負荷後の血圧検査、ヘルニアの可能性もあるので腰椎と股関節のMRI、レントゲン、ありとあらゆる検査を経て、ようやく大学病院のスポーツ整形外科に紹介してもらえるようになりました。
通常の検査では異常なしと見られてしまうくらい診断がかなり難しい障害だし、誤診もあり得るのでスムーズにいかないのもわかりますが、長かった…

紹介してもらった大学病院のスポーツ整形外科では、医師の指示で自転車とローラーを持参し、医師と看護師が見守る中、ペインレベル10(これ以上ない耐え難い痛みの事らしい)まできっちりもがき、汗だくで荒い息のままベッドに横になり、血圧を測ってもらいました。

結果、やはり血管が原因とのことでいよいよ血管外科に通されることになりました。血管のスペシャリストとのことなので期待大です。
そして先日血管外科の先生と話し、手術の為の詳しい検査をする事になったので、このままいけば恐らく順調に手術まで行くと思います。

手術か自転車を降りるか

手術をするか否かですが、言ってしまえばたかだか趣味の為に身体を切り開く価値はあるのか自分でも悩みます。
ですが、もはや自転車なしの人生は考えられないし、おそらく進行性のものなのでこのまま放置して自転車でない運動をしても、症状はどんどん悪化していくんじゃないかと思っています。
明確なエビデンスがあるわけではありませんが、私個人の感覚としては、以前よりも明らかに駅の階段を上るのがキツくなったり右脚でのスクワットがキツく感じるようになっているからです。

日常生活に支障があるわけではないし、完全に運動をしないと決めた人生なら多分問題ないんでしょうけど、人生のQOLの為にもやはり手術はしておきたいなと思いました。

動脈いじってる手術中の写真を見たらあまりにも痛々しかったので、めっちゃ怖いですけど!!骨折すらしたことないから手術とか想像もできない。

手術以外でやれる事

病院に通い始めたのが5月の初めから。
治療するまでずっと自転車に乗れないなんて状況は私には耐えられるはずもなかったので、色々試行錯誤しながら自転車に乗っていました。

・ポジション変更
股関節を屈曲させるエアロポジションがよくないとのことだったので、アップライトなポジションにするためにサドルを上げ、前に出しました。ハンドルも高くしたかったのですが、すでにコラムカット済だったのでハンドルを少ししゃくりました。

・とにかく休む
疲労がたまると全く走れなくなるので、日々の走行距離をぐっと減らし、常に脚がフレッシュな状態でいられる様努めました。もちろんzwiftは解約。

上記を変えただけでも、一番最悪だった時よりもだいぶ良くなり、100㎞1000mup位なら完走できるようになりました。
それでもちょっと強度を上げたり長い登りがあると結局症状が出るので、常に痛みを我慢しながら、またいつ痛みが出るか恐れながら乗っています。それでも乗っちゃう自転車の魔力!痛みに勝る楽しさがあるからやめられないんですよね。

終わりに

手術をしたとしても100%元通りに戻るわけではなさそうだし、過度な期待は禁物だけど、また元通り走れるかもしれないという希望が持てるようになったのは本当に良かったと思います。

原因がわからなかった時は、精神力が弱いからとか、努力が足りないからとか、とにかく自分が悪いような気がして来て精神的にもすごく辛かったのが、医師の診断がついた事によって心が軽くなりました。
エントリーしていたレースを全部DNSしたり、ブルベやイベントをDNFし続け、その度にこれは逃げなのか、負けなのかと毎回自問自答し続け心をすり減らし続けてきたけど、
まあ身体がおかしいんだもん、負けじゃないよね、寧ろよくここまでやったねって自分を労えるようになりました。

走れなくなった現実が嫌で嫌で仕方がなくて病みまくりましたが、
例え手術を受けて元通りに走れるようにならなかったとしても、ここまで色んな人に支えていただけ、自分でもやれる事をやり尽くしたら現実を受け入れられそうな気がします。多分。
今はとにかく、また元通りに山を登りまくったり、仲間と切磋琢磨したり、色んな挑戦をしたり、見たい景色を見に行けるように、やれる事を全部やりたい。

今回の経験を通して感じたことは、
残念ながら血管には恵まれなかったけど、様々な人たちに支えられてここまで運よく漕ぎつくことができた私は、本当に人に恵まれた人生だと思います。いつも励まして下さる方、情報を下さる方、一緒に走って下さる方遊んで下さる方、見守って下さる方々には感謝してもしきれません。


またその後があれば、書かせて下さい。

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