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政府主導で日本企業の DX を達成するには - 1

答えから書こう。

Teams や Slack みたいなコラボレーションツールをデジ庁が開発して国内の企業に無償提供する。そして,開発者コミュニティーで作られ完成度が上がってきた無料のオフィス・ソフトウェアをデジ庁が標準として推奨する。

これでどんなメリットがあるかは,以下の説明をお読みいただきたい。

日本企業の生産性が悪いと指摘されている。OECD 加盟 38 カ国中 28 位,先進国中最下位の一人当たりの労働生産性というデータ [1] も出ている。そしてこれを改善する最も効果的な方法が DX (Digital Transformation) と言われている。確かに,海外と仕事をするときには,様々なデジタルツールを活用する。リモートワークを始めて最初の1年くらいは,なるほど,こうやって使うんだという発見も多かった。ただ,筆者は,幸運にもリモートワークを進めることがきる環境にいたので,この2年半の期間に,多分,欧米と比べても遜色のない DX を行うことができたと思っている。一旦,DX してしまうと,もとのやり方で1件こなすのに必要な時間で,5件,10件も作業をこなすことができてしまう。イライラしてしまうので,もう元のやり方には戻れない。最近では,欧米人の仲閒でも,ちょっと DX が足りないんじゃないかと感じる人が出てきた。

でも重要なのは,私のようにたまたまリモートワークを進めることができた人たちではなく,いまだに,毎日,満員電車で出勤してアナログな仕事をこなしている多くの人たちの仕事をどうやって DX するかである。こうなると,デジタルツールに疎いおじさんたちの後ろ向きな態度が議論になりやすいが,私は,それより先に,この国の企業の大部分を占める中小企業が DX のための費用を捻出できないことを解決する必要があると考えている。デジタルツールに疎い人たちの後ろ向きな態度については,一旦,DX が進み始めれば,キャンペーンなり何なりで解決できる。

中小企業が DX のための費用を捻出できない問題をどうやって解決するのか。そのためには,まず,中小企業にどの程度の DX を達成させたいのかという観点が重要となる。もちろん,先進的な大企業であれば,ビジネスインテリジェンスツールの活用やデータのサイロ化の解決に取り組むだろう。でも,中小企業にそんなことを求めるのか。現状,メールと電話でやりとりをしていて(さすがに未だファックスを使っているのは省庁くらいではないか),何か申し込んだり報告する時にも,所定のフォーマットのワードやエクセルがあって,それに必要事項を書き込んで送る。受け取った人もそれを解凍して,開く。複数の人からの報告の場合には,受け取った人は,いくつものワードやエクセルのファイルを解凍して開いて,それを1つのファイルに転記していく。パソコンを使っているのに何とも「人力」の作業である。とりあえずは,この作業を自動化したい。これだけでも欧米の生産性には追いつく。そのために必要なツールを考えてみよう。

  • Teams や Slack などのコラボレーションツール

  • オフィス・ソフトウェア

実は,これだけでできる。Teams や Slack のチャットに所定のフォーマットのワードやエクセルを貼り付けて,複数の人に記入してほしいと連絡する。メールじゃなくてチャットだから,実は,「いつもお世話になっております。」とか「よろしくお願いします。」といった社交辞令は不要。それだけでも作業が効率的になる。連絡を受け取った人は,貼り付けてあるファイルに直接必要事項を記入する。みんなで同じファイルを編集しているから,最後の人が入力を終えれば,ファイルは完成している。転記なんか必要ない。

でも,Teams や Slack,そしてオフィス・ソフトウェアを使うには,それらを提供している会社に,従業員1人当たり,それなりの料金を支払わなければならない。そして,中小企業は,その支出に躊躇している。

そこで,解決策である。まず,コラボレーションツールについては,国,特にデジ庁が開発して国内の企業に無償提供すればいい。コラボレーションツールの仕組みは実は簡単である。Microsoft も Slack を買収できないと知るや否や,突貫で Teams を完成させた。ELECTRON

と呼ばれるアプリ開発環境を使えば,マルチプラットフォームおよびブラウザで動作するクラウドアプリを簡単に構築できる(Teams も ELECTRON で作られている)。チャットやその他よく使うものについては,いくつものオープンソースのコードを利用できる。やはり,日本の国が作るなら "jTeams" かな。そして,オフィス・ソフトウェア。The Document Foundation が作った LibreOffice

がある。このソフトがどういう生い立ちで作られたのかは
https://www.libreoffice.org/about-us/who-are-we/
を読めば分かる。開発者コミュニティーで開発され,十分実用に耐える完成度に達している。

これまで中小企業は,デファクト・スタンダードに従うしかなかった。でも,スタンダードが,国から無償で提供されれば,どんどん普及するように思う。日本では,デファクト・スタンダードよりも「国謹製」の方が喜ばれる。中小企業が,コラボレーションツールとオフィス・ソフトウェアを使いこなすようになると,この国の DX は飛躍的に進む。そして,中小企業は,それらのために支払っていた 料金 × 従業員数,相当な額! を別の目的に使うことが可能になる。

この計画を成功させるには,(1) デジ庁が「良い」コラボレーションツールを開発すること,そして,(2) 政治家が,現在デファクトスタンダードとなっているツールの開発元(そしてその国)からの圧力をはねのけることである。

私は web3 が大好きだ。でも,この国にはその前にやるべきことがある。

[1] https://www.jpc-net.jp/research/detail/005625.html

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