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「反脆弱性」講座 10 「ブラックスワンの衝撃を活かす」(反脆さの獲得法)

ルキウス・アンナエウス・セネカは、ローマ帝国でいちばん裕福な哲学者でした。彼はストア派という哲学の流派の実践者であり、伝道者でもありました。彼は、なんと今から2000年前に反脆さの問題を解決しました。

#セネカ は有言実行の人であり、  #ストア哲学 の実践的な側面を重視していました。他の哲学者の多くは実践より理論を重んじて、理論から実践に移しました。 #アリストテレス#プラトン も同様です。彼らの特徴は、彼らが科学と呼ぶプロセスにより、いちばん複雑でいちばん応用性のない問題に着目するのです。

セネカはたいへんな財産を保有する大金持ちでした。従い、矛盾するところなのですが、ストア哲学は俗物的な富を絶えず批判し続けています。そして彼らは贅沢を軽蔑し、災難という苦難をあえて求めるようになります。

このように見てくると、ストア哲学の考え方は頑健そのものだというのが分かります。良くも悪くも外的な環境の影響を受けないし、運命の下した決断に対しても脆くなく、頑健なのです。

セネカの著作を直接読むとわかりますが、実はセネカ流のストア哲学というのは運命に対して反脆いところがあります。運命の女神による #ダウンサイド はないが、 #アップサイド はたくさんあるのです。

成功は非対称性を生み出します。得るものより失うものが多くなり、脆い状態になります。たとえば、金持ちになると、もっと富が増える喜びよりも、財産を失う痛みのほうがはるかに大きくなるので、ある意味で常にプレッシャーを受けながら生きるはめになります。

このような脆さを打ち消す実践的な方法として、セネカは財産を頭の中で帳消しにするというやり方を取り入れました。そうすれば損をしても痛みを感じないですみます。知的な生活とは、痛みを感じなくてすむように感情を位置づけることなのです。そうすれば、世界がいくら変動しても悪影響を受けることはないのです。

セネカは社会的な行動についても、善行に力を注ぎなさいと説いています。セネカは、富は賢者の奴隷であり、愚者の主人なのだ、と言います。そしてその考えで、富を手元に残したのだと言えます。彼以前のストア派哲学者は富よりも貧困のほうが望ましいと説いていました。セネカは貧困より無害な富を選んだということなのです。

彼は、さらに善行についてこう言ってます。「善行の帳簿はきわめて単純にできている。全項目が支出なのだ。誰かがお返しをくれれば、紛れもない利益になる。お返しをくれなくてもそれは損失ではない。もともとあげるつもりだったのだから」と。これは費用便益分析をもとにした戦略のようなものです。

セネカは運命にちょっとひねり加えただけです。それにより、善を手元に残して、悪を捨てます。ダウンサイドをなくして、アップサイドをつくります。つまり運命から害を取り除いて、利益だけはちゃっかりと手元に残しておくわけです。

ここにダウンサイドとアップサイドの非対称性が存在します。これこそが反脆さの原型なのです。

ここで非対称性の法則を導いてみましょう。運命の出来事から得るものより失うものの方が多い場合、そこには悪い意味での非対称性が存在します。

本書で最初に引用した普通の「小包」は、衝撃に弱くて脆いわけです。これは、衝撃でまったく得るものがなく、とても脆くて、非対称的です。

一方で、反脆い小包は、衝撃により失うものより得るもののほうが多いわけです。いい意味での非対称的になります。

得るものより失うものが多い場合、つまりダウンサイドよりアップサイドのほうが多い場合、 #変動性 は好ましいものであり、#反脆い 状態ということになります。またその逆は、脆い状態になります。

また、ダウンサイドよりアップサイドのほうが多い場合、変動性やストレスがないことで害をこうむる可能性があるのです。

では、この考え方を実践にするにはどうしたらいいのでしょうか?答えは #バーベル戦略 ということになります(次回)。