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働く人に読んでほしい電話健康相談エッセイ3選

2022年に募集した「私の電話健康相談エッセイ」から、働く人に読んでほしいエッセイを3作品ご紹介します。

私の心のよりどころ 相談室 
(明日香 京都府 63歳 女性)


長い教員時代は、とにかく毎日が多忙だった。

休むこともままならず、病院にもなかなか行けない。特に担任をしている時はなおさらだ。

身体の不調を感じながらも無理を押して勤務を続け、仕事が終わると保育園のお迎えが待っている。学校では生徒のこと、家に帰ると子供のこと、夕食後は持ち帰り仕事と、いつも時間に追われながら日々を過ごしていた。病院に行く時間がなかなか取れそうにない、でも続く難聴がずっと心に引っ掛かっていた。

今まで、健康相談に電話をしたこともなかった私だが、その日、職場でもらった「24時間電話健康相談」というパンフレットをふと手にした私は、思い切ってそこにかけてみることにした。

「どうされましたか?」

恐る恐る電話をした私に、最初に優しく語りかけてくれたこの一言がどれほど私の気持ちを和ませてくれたことか。

こんな深夜に私の気持ちに寄り添って話を聴いてくれる人がいる、そんな思いがこみ上げた。それから、私の症状や今の状況について一つ一つ丁寧に聞いて下さった。

「そうだったんですね、大変でしたね。」

見ず知らずの私に投げかけてくれた言葉が私の心に沁みた。私を安堵させてくれたのは、気持ちだけではない。

もちろん「健康相談」なので、病気の診断をしてもらうわけではない。

しかし、私の話から、このような可能性があるというケースを分かり易く説明して下さる。そして、どのような専門分野を持つ耳鼻咽喉科を受診すべきか助言していただいた。私は適切なアドバイスをもとに、それに合った耳鼻科を受診し、おかげで難聴も少しずつ回復していった。

それ以後も、電話相談を利用させていただく度に、「どうされましたか?」の最初の一言にはいつも安心感を与えてもらっている。

今振り返れば、子育てと仕事と、時には老親の世話に追われながらも定年まで勤めることが出来たのも、多くの人の支えがあったからだし、その中にはこの「電話健康相談」の存在が大きかったことは否めない。

最後に私の気持ちを、この場を借りて伝えさせて下さい。「あの時は本当にありがとうございました。お陰様で定年後もまた次の職場で元気に教壇に立っています。これからも私の心と体の支えとしてどうか相談にのってください。どうぞよろしくお願いします!」

電話がつないだ命
( りな 東京都 34歳 女性)


長年、「体力だけが取り柄」と自負していた私が最初に心身の不調を感じたのは、社会人二年目を迎えた時のことだった。 

当時私は教師になるという長年の夢を叶え、初めて中学2年生の担任を持つことになり、張り切っていた。ところが、日々の多忙な業務に加え、クラスでは次々と問題が起こり、私はその対応に追われ、次第に疲弊していった。

「自分の指導力不足なのだろうか…。」と悩むうち、鬱々として夜も眠れなくなり、出勤前になると腹痛や吐き気、動悸がするようになった。

上司の先生に相談したこともあったが、「そんなことでメンタルをやられていたら、教師としてやっていけないよ。」と言われ、やはりすべて自分が悪いのだと、さらに落ち込んでしまった。

しかし、メンタルの不調が身体症状にも現れるほど、私は限界に達していたのだと思う。一人暮らしで実家の両親には心配をかけたくなかったため、誰にも打ち明けられなかった。そんなとき、ネットで電話健康相談の存在を知ったのだ。

当時、私は自分の症状が病気と呼ばれるものなのか判断できず、この程度のことで受診してよいものなのかどうか迷っていた。そして、私は思い切って電話をしてみることにした。対応してくださったのは、ベテランの女性医師だった。自分の状況や症状について一通り説明し終えると、その先生は「それは辛かったですね。でもよくここまで耐えて頑張りましたね。」と言ってくださった。その瞬間、張り詰めていた私の心は解放され、自分だけで抱え込んでいた辛さを共感してもらえたことで、とても温かい気持ちになった。 

その後、心療内科の受診を勧められた私は「適応障害」と診断され、何度かカウンセリングも受けた。あの時相談していなければ、さらに無理を重ねて自分自身を追いつめ、症状も悪化していたかもしれない。私にとってこの電話相談は、そんな暗闇から抜け出す第一歩となったのだ。 

心身の健康といったデリケートな悩みを相談する際、面と向かって話すことも大切だが、電話のように顔の見えない方がかえって安心して話せる場合もある。辛さや苦しさを吐き出し、共感してもらえるだけでも心は救われるものなのだろう。

特に、私のように気軽に相談できる人が身近にいない場合、このような窓口があると知っているだけで、心の支えになるものだ。 その後、私は半年ほどの休職・治療を経て完治し、今は元気に仕事に復帰できている。親身に相談に乗ってくださった女性医師には本当に感謝している。あの時勇気を出して掛けた一本の電話が繋いでくれた命を大切に、これからも生きていきたい。

看護師だって自分の子供は不安なんです
(M 島根県 42歳 女性)

私は看護師をしながら3人の子供を育てています。今は元気いっぱいの小学生になった子供たちも、3歳ごろまではそれぞれに急な発熱や発疹、嘔吐でハラハラさせられました。そんな時、母子手帳をもらうと同時に教えてもらった県の小児救急電話相談に、何度も救われた経験があります。

私の職場にも救急外来がありますが、夜間・休日の救急外来の医療者の忙しさは大変なものです。大変さは分かっていても、私自身、子供の病気の知識が全くなく、病気の我が子を前にしてどの程度まで様子を見てよいのか、迷う時もたくさんありました。

そんな時、短縮ダイヤル(今でも覚えているくらい覚えやすいものでした)を押すと、落ち着いた声の看護師さんが、子供の様子を的確に聞き取ってくださり、直ぐの受診の要・不要をアドバイスくださいました。

私の印象では、自宅でできる対処法をアドバイスしてくださることが多く、あまり受診を促されることはありませんでした。

そのお陰で安心できたと同時に、幼い兄弟もいる中で、また翌日仕事に行かなければならない中で夜間に準備して出ていく必要がなくなり、本当に助かりました。

同じ医療従事者として、電話でアドバイスするのはプレッシャーが多いものです。電話口の医療従事者の努力や頑張りに敬意を表しつつ、システムのおかげで救われた一人として、感謝申し上げます。


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