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訪問歯科症例2 口腔ケアとの向き合い方

(事前情報)
・ 患者 女性 80代 1割負担 介護度4 意思疎通可
・ 主訴 口腔内をきれいにして欲しい
・ 既往歴 認知症 寝たきり
・ キーパーソン ご主人 
・ 口腔内    義歯なし、虫歯あり 経口摂取


前回同様に電話やFAXの事前情報のみでは、現場でスムーズに行うためには情報が足りない。


追加で現場で確認したい情報として

1 最後に歯科にかかったのはいつ頃か
2 日頃の口腔ケアは誰がどのようにしているか
3 口腔ケアの頻度は?訪看やヘルパーは関与しているか
4 誤嚥性肺炎の既往歴はあるか。既往歴があれば気をつけていること


以上をヒアリングし、主訴である口腔ケアについての説明と主観により必要かと思われる全ての治療内容(歯周病治療や虫歯治療)を伝え治療計画を立てていく。そして、それら必要な治療と並行しながら、歯科衛生士による専門的な口腔ケア、口腔リハビリに移行することになるかと思われる。

そこに到達するまでの準備として、口腔ケアに関してのご主人の意識の一致も求められる。保険制度上歯科衛生士は月4回しか伺えない。それ以外の口腔ケアはご家族や医療介護職スタッフのサポートが必須になる。

口腔ケアは毎日しなくてはいけない。誰かどのようにどれくらいの頻度で毎日行うかを歯科医師が関与しているのであれば把握し、できていないのであれば影響力を発揮しなくてはいけない。発信し連携することが必要だ。

ただ理想を言ったとしても、物理的に難しいのが現場であるので、可能な限り理想に近づける事をイメージでも良いときもある。プレッシャーになり互いにストレスになると続けられなくなるので、無理ない範囲を一緒に考えることも必要だ。


訪問中は、口腔内の知識についての話をご家族に行い意識を高めていく。

1 口腔ケアの道具について(歯間ブラシ、舌ブラシ、スポンジブラシ等)
2 口腔ケアの頻度
3 口腔ケアの道具の使用法を説明し実践してもらう
4 口腔ケアの好循環や全身疾患に密接な繋がりがあること
5 口腔ケアによって免疫力の向上もみられること


以上数回に分けてご主人に学んでもらう。ご主人が全く介入することが望めないのであれば、ケアマネージャーに相談し医療介護スタッフとの連携を行っていく。


誤嚥性肺炎の既往があるようであれば、治療や口腔ケアの注意事項例として


1 タービンから出る水量を減らし、休み休み行う。バキュームで水分を全て徹底的に吸い取る。常に誤嚥のリスクを考える
2 水を出さずに行う場合は、熱を持つので短時間のみ。機械が壊れやすくなる、また患者がやけどするリスクを考える。スケーラーは手用で行う。3 体の体勢 ベットであればジャッキアップする。頭部前屈30度が一般的
4 サクションがある場合はいつでも使える準備をしておく
5 胃ろうの場合は、逆流し危険な為、直後30分の口腔ケアをしない
6 歯ブラシやスポンジブラシは、濡らした後、絞って水気をなくして使用


誤嚥性肺炎のリスクがある場合は、訪問エリアに内視鏡を使える嚥下の専門医がいれば一度精査してもらう事を考えることをオススメする。

そして口腔ケアの専門は歯科衛生士であるので、口腔ケアに関しての全般を任せ、歯科医師は全てを把握した上で、包括的に治療を行うべきかと思われる。




介護職関係の方へ、

口腔ケアは、間違いなく重要である。もし要望や主張しているにも関わらず要望通りのケアを提供してくれないケースがあった場合は、すぐにケアマネージャーに相談し歯科を変えるべきだと思う。歯科医師も人なので、要望や主張をはっきりしないと通じないことも多い。言いづらい方も多いと思うが、歯科医師以外のスタッフか電話受付またはケアマネジャーに間に入ってもらい要望を伝えても良いと思う。

またコロナ禍の緊急事態宣言時、患者や家族、介護職員から口腔ケアは急ではないので、コロナが落ち着くまで中断キャンセルしてほしいという問い合わせが相次いだ。

確かにコロナの恐怖は理解できる。

しかし口腔ケアが急ではないということに関しては、少し違うように感じる。介護職員や家族による口腔ケアができてい流のであれば、専門的な数回の口腔ケアは急を要しないかもしれない。

しかし日々の口腔ケアができていない、誤嚥性肺炎を既往にもつ方に関しては、休む期間が長引くほど、リスクが高くなる、生命の危機にもつながる。

物事は重要度と緊急度によって優先順位を考えるが、口腔ケアの重要度は高いということは理解できると思う。しかし緊急度に関しては初めは少し低かったものが時間の経過と共に高くなっていくということを理解して欲しい。

半年間中断でその間の口腔ケアが適切に行えていない事を思うと、今までしっかり治療してきたことや改善した事がまた元に戻るのではないかと心配に思う。歯科治療や口腔ケアの中断やキャンセルの背景は大いに理解できるが、歯科治療や口腔ケアをしないリスクも考えた上で、予防装備の徹底や、時間の短縮、訪問人数を減らす、回数を減らすなど工夫できることはある。

コロナの恐怖と口腔ケアをしないことのリスク、その双方を考えた上で、歯科医院と相談しながら、安心し理解できる環境で、共に前に進んでほしいと思う。




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