高齢者を対象とする聞き取り調査で注意すべきこと・その1
日本伝承文化保存会(京都古布保存会)の活動で得た知見は、可能な限り共有したいと思います。2008年の法人設立以来、様々な場面で聞き取り調査を行ってまいりました。良い結果を得られたときもありますし、残念な結果に終わったこともあります。そうした反省を含め、上記のテーマで注意事項をまとめてみました。
聞き取り調査の際の注意(一般向け)
まずは一般の方(具体的には60歳以下)の方の聞き取りをする場合の要点です。
1 聞き取りを始める前に、何の目的で、何を知りたいのか明らかにする
2 本題と関係ないことを聞かない
3 相手が乗り気でないとわかったら早く終了する
4 調査は手短に。可能なら30分以内におさめる
5 一人の人から聞き取りをするのは3回までとする。但しその人以外に調 査の目的を達成できない場合は例外とする。
このような内容で聞き取りを進めてゆきます。なぜ5の項があるのかというと、親しくなるとかえって聞き取りを進めにくいからです。2の「本題と関係ないこと」が多くなり、調査記録にノイズが混入します。たまにはノイズも新しい情報を引き出す力となりますが、雑談に発展することの場合が多いのです。
この1から5の原則を守ることで、短時間で多くの成果を上げられます。
聞き取り調査の際の注意(高齢者向け)
では、これが高齢者であるとどうなるのでしょうか?
1聞き取りを始める前に、何の目的で、何を知りたいのか明らかにする
は年齢に関係なく同じです。理解されない場合もありますが、家族の方や同伴者が聞いている場合もあるので、デフォルトとして説明します。
2 本題と関係ないことを聞かない
もできるだけ守りたいところですが、記憶が引き出されるまで時間がかかる場合もあります。その場合はゆっくりと聞き取りを行います。しかし、聞き取りで、家族や他人の批判・愚痴などが出てきた場合は話をできるだけ本題に戻します。
3 相手が乗り気でないとわかったら早く終了する
これは大切なことです。体調の悪い場合もありますし、質問に対し、言いたくないこともあります。同伴者の期限を損ねる場合もあるので、長引かせないことは大切です。
4 調査は手短に。可能なら30分以内におさめる
同じ観点から、これも大切です。
あらかじめ同伴者と先に相談するのも良いでしょう。
5 一人の人から聞き取りをするのは3回までとする。但しその人以外に調 査の目的を達成できない場合は例外とする。
これも難しいところです。聞き取りはあくまでデータを集めるという調査なので、対象の方と友達になることが目的ではありません。筆者の経験からも、3回以上お会いすると親しくなりすぎ、相手の事情も知ってしまうのでここは避けたいところです。
また、補足として、認知が始まっている方などはデータとして正確さを欠く場合がありますので、早めに終了します。同様に自己に都合の良い情報への記憶の上書きは調査を行う上で避けたいところです。
6 できれば同席者(聞き取り調査を行う方の親族・施設の担当者など)がいることが望ましい
言ったことの内容が後で違っていたりすることがあります。特に寄贈が関係する場合、同席者は必要です。
良い方との出会いが良い展示につながる
下記の写真の方は2008年の展示準備の様子です。この女性は当時で80代後半でしたが、大変記憶もしっかりしておられました。
昭和初期の記憶に基づき、着物と帯の取り合わせを行いました。他団体や個人の展示によっては、所有者の判断や好みで取り合わせを行っている例が多いのですが、京都古布保存会ではこうした方のアドバイスによって構成をすることができました。
このように、良い方とのお出会いで展示や調査の内容は各段に良くなります。先に述べた原則を参考に、調査をされることをおすすめします。
【追記】この画像の定永貞子様は一昨年97歳で永眠されました。最後までしっかりした記憶で、私どもの活動にもご理解いただきました。ご冥福をお祈り申し上げます。
似内惠子(特定非営利活動法人京都古布保存会 代表理事)
(この文章の著作権はNPO法人京都古布保存会に属します。無断転載・引用を禁じます)
その2・その3も掲載しておりますので、御覧ください。
https://note.com/denshoubunka/n/ne2b96990db3e
【関連サイト】
NPO法人京都古布保存会HP
http://www.kyoto-tsubomi.sakura.ne.jp/
NPO法人京都古布保存会FB
https://www.facebook.com/kyoutokofu
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