見出し画像

「犬と街灯」を一年やってみた感想

北摂の下町・庄内で「犬と街灯」というお店をはじめて1年とちょっとが経った。金土日の、それも僕が遊びに出かけてなくて、店番できる日だけオープンするという気ままな営業スタイルだ。売っているものは、主に本。それもいろんな人が個人制作したZINEとかリトルプレスとか同人誌とかミニコミとか言われるヤツが中心。ときどき絵の展示や朗読会、トークイベントなんかもやっている。

本屋としての品数は決して多いとは言えない、というか非常に少ない。お店のレイアウトは気まぐれに変えたりするけど、いつも綺麗にしているわけじゃない。おしゃれな音楽もかかっていない。人見知りの店主はパソコンでツイッター見ながら焼酎をすすっていたりする。ツイッターで知ってわざわざ来てくれた人を落胆させてしまいそうで、実はいつも内心で申し訳ないような気持ちがある。

そもそも、本屋かもと思い始めたのはここ1、2ヵ月のことだ。それまでは本屋と勘違いして来る人を失望させたくなくて、開店以来「ギャラリーと本とかの店」というふわふわした肩書きでやってきた。本屋だなどと名乗ると本物の本屋さんに失礼なのではと思っていた。だけど、何かのはずみで立て続けに本が売れたりすると、「もしかしてここは本屋なのでは?」という錯覚に陥る。本が置いてあって、本を求める来る人が来て、本を買っていく。現象を並べてみると、なるほどまるで本物の本屋みたいだ。本屋なのか?

本は原則として、作者から直接仕入れる。はじめはものづくりが好きな友達やイベントで偶然知り合ったご近所の人たちに声をかけて、本や雑貨を預かって(もちろん、自分で作ったものも)並べることから始めた。そのうち、ネット経由や時にはお店まで足を運んでくださって委託したいと声をかけてくれる人が現れた。そんなわけで、今店頭に並んでいる本は、意図的に集めたというより自然と集まったという印象が強い。だからこそ愛着が強かったりする。最近はネットで見つけて一目惚れしたZINEを買い取って販売してみたりもしている。

せっかく預からせてもらっているのに、売れないと申し訳ない気持ちになる。長く並んでいる本がある日とうとう売れるとホッとする。心の中では万歳三唱で送り出している。正直なところ、預かっている全部の本を隅々まで読めているわけではないので、それもまた申し訳ない。全ての本を「これオススメです!」と送り出してやりたいと思うけど、それはそれで傲慢なのかもしれない。お店としては本の内容には関知せず、ただ場所をお貸ししているだけという意識も半分ぐらいはある。本にとって自由な場であるために、そういう突き放した態度も必要……いや、これは言い訳なのかな。

本の内容はどんなものでもいい。本を作っている人が好きだし、みんなもっと勝手に本を作ればいいと思っている。作ったら売る場所があった方がよい。即売イベントは機会が限られていて参加費や遠征費もかかる。実物を手に取れない通販はなかなかハードルが高い。だからいつでも誰でも足を運べる場所があるに越したことはない。その人にしか作れないものを健全なやり方で作って売るという、自分が生きていくための甘っちょろい経済のあり方を具現化するための場所が必要だった。

「手作りの本はオリジナル通貨である」。これは最近思いついたいい感じの比喩。自分の知識や視点、想像力を本という形に固定・複製して流通させることで、貨幣経済とは別の価値の経済圏に参加することになる。もちろん、形としては貨幣経済を間借りしているわけだけど。本屋として預かった本を売った場合、手元に残る利益は定価の3割(うちの場合)だけど、定価以上の経済を回したという確かな手応えが残る。お金を介することで可視化できるたしかな価値の流れに勇気づけられる一方で、お金を軽やかにすり抜ける熱と閃光の交感もまた、ある。

お店には案外いろんな人が来る。いつもの常連さん、名刺交換した人、何かを見て来てくれたっぽい人、通りすがりにふらっと入ってくる地元の人。一見すると何をやってるのかわかりづらい変な空間にわざわざ入ってきてくれる時点で気の合う友達と言って差し支えないと思っていて(同時に「こんな店でごめん」という申し訳なさもある)、隙がある人なら精一杯の勇気を振り絞って話しかけてみたりもする。店主は顔覚えが非常に悪いので、この人どこかで、と思いつつ話しかけそびれる事も多々あって、それは本当にすみません。

何か作ってる、作ることに興味がある、今にも作り始めそう、そういうおもしろいお客さんが最近多くて、話し込むことが増えた。店番中の長話は大歓迎で、お茶とお菓子ぐらいお出ししたい気持ちはあるけど、時期的にややこしいのがもどかしい。たまにお店を閉めてご飯に行ったり遊びに行ったりすることもある。これって、トモダチ?

イベントとかを通してお客さんや作家さんどうしで自然に交流が生まれることもあって、そういう微笑ましいやりとりを遠巻きに眺めているのが好き。本が売れた時と同じくらいに、お店をやっててよかったなとしみじみ思う瞬間。そんなこんなで、なんだか最近この場所の存在を肯定してもらえてる感じがする。もうちょっとがんばってみようかな。

お店の準備やら何やらであまりお金がありません。おもしろかったら、何卒ご支援くださると幸いです。