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石が転がり続けるように、自立の方向に向かわせる手助けができれば。

学校法人 電波学園
あいち造形デザイン専門学校 専門課程科長
吉田 信治 先生

授業中も学生に積極的に声を掛ける。

コンピュータとどう向き合っていけばいいか、分からない時代。

電波学園に奉職して26年。教員になった時の事を振り返っていただいた。
「美術大学のデザイン学科を卒業して、恩師に紹介されて教員の道を志しました。最初は、高等課程、その後専門課程に配属されて現在に至ります。奉職当初は、姉妹校のあいちビジネス専門学校でPOP制作の授業をやったり、名古屋工学院専門学校でデッサンを指導したり、いろんな事をやっていました。初めて担任を持ったのは、広告デザイン学科(旧科名)2年課程です。非常に一体感のあるクラスで、2年次にあったパリ研修にもほとんどの学生が参加するほどでした。
今でこそ、コンピュータを使ったデザインが当たり前ですが、当時はコンピュータをどう教えていいか、どう向き合っていけばいいか分からない時代でした。コンピュータがメインになるんだろうけど、台数も少ないし、まだレタリング(視覚的効果を考慮して文字をデザインすること)で烏口(からすぐち:均一な太さの線を引くためのペン)をやっていましたから(笑)」

お互いが切磋琢磨して、響き合いながら成長できると良い。

昔のグラフィックデザインは手描きだった。失敗したらやり直しが当然だったと思うが?
「今の子達は、失敗が気にならない子もいます。まさに写真がそう。スマホで簡単に撮れて、何度も撮り直しがききますから。以前、リバーサルフィルム(現像した際に色や明るさがそのまま映し出されるフィルム)を使ってポスターのメインビジュアルを撮ろうとする学生がいて、撮影したら露出が合っていなくてダメになった事がありました。こちらもアドバイスするのですが、どんな結果になるのかは、デジタルと違って現像してみないと分からないし。いざ、現像が上がってきてフィルムを見ながら、「やっぱりそうだったね」、「あれ、失敗してゴメン」、「先生、全然違うじゃん」とか、学生とのそんなやり取りも楽しかったですね。今は、結果がすぐに分かるので、ドキドキ・ワクワク感は無くなりました。そういう点でのさみしさはありますね。
デジタル時代になっても、手で描くことは大切で、本校では入学してすぐに「Basic Study(入学後の1か月間、デッサン力、色彩力などに関する基礎的な技術や知識を集中的に学ぶ授業)」を取り入れて、基礎からスタートさせています。高校時代にやってきた学生と、初めてデザインを学ぶ学生のスタート位置がずれてしまって「どれだけ頑張っても追いつけない」ではいけないので、基礎からていねいに教える事で、良いスタートが切れていると思っています。お互いが切磋琢磨して、響き合いながら成長できると良いですね」

自分の想いを貫くことの大切さを学生から学ぶ。

失敗したエピソードがあったら。
「グラフィックデザインを学んでいた学生が、「似顔絵師」になりたいと言ってきた事がありました。グラフィックの学生は、デザイン事務所や印刷会社に就職する子が多かったので、私も最初はそちらへの就職を紹介していました。三者懇談でも、保護者の方と一緒に会社への就職を推していたら、突然泣き出してしまったんです。良く聞くと、うちの学校を選んだのは、似顔絵の授業があり、「似顔絵隊」の活動もあるため、自分でも似顔絵技術をブラッシュアップしたくて選んだとの事。最終的には、似顔絵師として東海エリアの大型ショッピングモールで活動し、東京へ進出して結婚式場などで活躍しています。学生の事を考えて会社を勧めていたものの、その子は自分の想いを貫いて今頑張っているので、その当時の自分のアドバイスは間違っていたと深く反省しています」

デザイン事務所の社長さんに勧められて始めたピンホールカメラ。

プラス思考の繋がりが、学生生活の深みに。

今の学生はチャレンジ精神は持っているのか?
「こちらの持って行き方だと思います。無理やり「これをやれ」だと嫌になってしまう。例えば、うちには学生会「Chouette(シュエット)」があるのですが、学生会の活動以外に、企業と連携して制作活動をする産学連携など「やってみない?」と声を掛けてみる。すると、学生会の活動が楽しいので、その延長線上で「いいですよ」と引き受けてくれる。楽しい繋がりというか、プラス思考の繋がりで、いろんな成長に結びついて、学生生活の深みに入っていけている気がします。重い石を動かすのは、最初は労力がかかりますが、止めずにちょっとずつでも動かし続ければ、いずれうまく転がっていく。転がすための出だしが大変なんですけどね(笑)。人間でも同じだと思います。転がり方は人それぞれですが、「あの子がやるなら自分も一緒に!」という学生も出てきてくれています」

学生会「Chouette(シュエット)」のメンバーと。

マイナスからプラスへの化学反応。変わるきっかけ作りができれば。

普段、学校生活の中で大事にしている事は?
「手のかかる学生との関わりを重視しています。マイナスからプラスへの化学反応というか、変わるきっかけ作りができると良いなと思っています。自分の中での教育の原点、「何のために自分は教員をやっているのか」の部分ですね。できる子は、転がしていけば自分でやっていける。でもちょっと立ち止まってしまっている子をどう動かしていくか、いかに前に進んでいけるようにするか、学生生活という短い時間の中で、少しでも自立の方向に向かわせる手助けができれば良いですね。担任時代は、出席率の低い学生に朝6時から電話連絡するなどしていましたよ。正直、できていない子の方が可愛いというのはありますが(笑)。
私は大学を出ているので、2年間で社会に出る事を「すごい」と思っています。だからこそ、短い期間で社会の歯車と学生が上手く噛み合うように自立させてあげたい。「しっかりした挨拶」「時間を守る」「片付け・掃除」、当たり前の事をきちんとできるようにする事が大切だと思っています」

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