「盗作」

「盗作」
おれは小説のアイデアに煮詰まっていた(正確な日本語ではないことはわかっている。ちょっと黙っていてもらいたい)。締め切りは2日に迫っていた。そこでおれは盗作することにした。しかしながらおれの遵法精神は小説家らしからぬほどあったので(両親が公務員なのだ)、他人様から盗作しようなどとは思わない。おれは、自分から盗作することにした。ところで、文系科目の鉄の掟を知っているか?「やればやるほどうまくなる」これが文系科目の鉄の掟だ。さて、文学も立派な文系科目である。で、あるから、過去の自分から盗作しても、すでに今の自分の方が優れているわけだから、良いものは書けない。
だからおれは、未来の自分から盗作することにした。タイムマシンに乗って、未来に行く。未来のおれが出かけている隙に、パソコンを開き、ワードファイルを開く。こいつめ、パスワードを変えないでいやがる。不用心な奴め。ファイルの一覧を見ると、おうさすがに5年も経っているとよりどりみどりだ。へえ、なかなか面白いことを考えやがる。部屋を見渡すと、今のおれが軽蔑しているドストエフスキーやらカミュやらが並んでいることに気が付く。ん?なんだこれは、ラテンアメリカ文学?へえ、結構なものに手を出してやがる。さて、これとこれと、これがなかなか長文で書いていて、気に入っていると見える。へへへ、頂いていくぜ。おれは現在に戻ってきた。未来のおれが書いたものを締め切りギリギリに間に合わせ提出した。編集部からのウケはかなりよかった。今まで書いてきたものとは一味も二味も違う著者の急激な進歩に担当者も世間も驚いた。おれは小説家としての地位を盤石なものにした。さて、時は(残酷にも)流れ、5年が経った。おれが5年前におれから盗作した時期と同じ時期だ。過去のおれがやってくる。こいつに成功してもらわないと今のおれはないので、出かけたふりをして原稿を盗ませる。よし行ったようだ。さて、どうするか。おれは悩んだ。悩んだがいいものは書けそうにない。おれはさらに未来のおれに頼ることにした。
しかしそこに来訪者が現れた。「未来から来たんだ」なんと、来訪者はさらに未来のおれだった。「老けてるな」おれは呟いた。「今何を考えている」「え?」「と、とにかく、今考えていることを話せ、締め切りが迫ってるんだ」「何を言っている」「小説のアイデアに詰まったのだ」

何のことはない、おれの全盛期は今だったのだ。

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