見出し画像

赤いドラキュラとハートのLIKE

浪人生の頃から憧れていたアートディレクター石岡瑛子氏の個展を先月見に行った時のこと。
「ドラキュラ」という映画の衣装デザインを彼女が手がけた時のことを説明するキャプションの中に、その言葉はひっそりと存在した。
『あらゆる固定観念を嫌う瑛子は、・・・』
胸を鋭利な何かで鮮やかに突かれたような気がした。

日々仕事をしていて感じるのは、UIUXデザインというのは、ほぼ固定観念で成り立っているデザインなのではないかということである。
例えば「LIKE」の概念は「フォロー」とは違う、という感覚は、ソーシャルメディアを少し使用している人にとってはスッと入ってくるだろう。
アイコンの見た目も「LIKE」といえば「ハート」である、という共通認識がなんとなく存在する。
それらは決してこうでなくてはいけないと誰が決めたというわけではなく、昨今のSNSやwebサービスからユーザーが使用し慣れている考え方を引き継ぎ引き継がれ、形成された概念である。日々誕生する新しいサービスを、わたしたちはその固定観念から紐解いて自然と使用することができるのである。

全てのデザインは多少の固定観念を包括しているだろう。そうでないと誰かの生活に入り込むことは非常に難しいからだ。でもプロダクトデザインやグラフィックデザインなど、他のデザインには表現の余力がある。デジタルデバイスにおけるUIUXデザインはまだ20年そこそこの歴史しかないし、その余力はまだまだ少ないと思っている。そしてその余力の少なさに、甘えている自分がいるのも事実だ。

「ドラキュラは黒い」という固定観念を嫌って衣装を赤くした石岡瑛子がUIUXデザインを手がけるなら、どんな世界を作るだろう。家に帰ってもお湯に浸かってもベッドの中でも『あらゆる固定観念を嫌う瑛子』が、脳内でじっとわたしを睨んでいる気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?