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ウロボロスの遺伝子(37) 第7章 MADサイエンス研究所・再び②

 次の瞬間、近くのモニタの電源が入り、モニタ画面に小森の映像が現れた。
「ワクチン研究所の退職者リストなら、サーバをハッキングしてダウンロード済みだよ。すべての退職者について次の職場を調べて現住所を確認したけど、住所が不明な人はいなかった。それから、僕なりにその人たちの経歴を調べたけど、人見さんの犯人像に該当するような人物はいなかった」と小森が言った。
「福山所長への個人的な恨みでなければ、日本政府への不満でしょうか?」黒田が赤城に聞いた。
「私には心理分析はできないけど、これまでの犯人たちの行動や脅迫文から判断すると、犯行を実行しようとする明確な意思は感じられるけど、偏った思想や信条は感じられないわ」と赤城が答えた。

「ちょっと待って。まだ続きがあるんだ。福山の経歴を詳しく調べると、所長になる前は北関東医科大学の教授を兼任していたことがわかったんだ。そこで、北関東医科大学のサーバから人事情報を覗(のぞ)くと、ひとりだけ未だに定職についていない住所不定の元・助教を見つけたんだ」
「その該当者の名前は山根公典(やまねきみのり)で、年齢は現在三十歳。退職後は予備校の非常勤講師で食いつないでいたようだけど、その予備校も三週間前に辞めてるみたい。北関東医科大学ではゲノム配列、要するに遺伝子の研究をしていて医学の博士号も取ってるよ。でも、論文に使おうとした研究データの捏造(ねつぞう)が発覚して、大学をクビになったみたいだね」と小森が訥々(とつとつ)と説明した。
「その山根が所属していたのが、福山の研究グループだったの?」と赤城が聞いた。
「その通りだよ。山根は共同研究の関係で、ワクチン研究所を何度も訪れているから、犯行現場の土地勘も十分あると思うよ」と小森が言った。
「自分の解雇を根に持って、福山所長を逆恨みしているんでしょうか?」と黒田が赤城に聞いた。
「犯行動機については、まだ何とも言えないわね」赤城が答えた。


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