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お爺ちゃんと女子プロレス

 すでに鬼籍に入っていますが、母方の祖父の話です。

 小学生の頃、夏休みになると母の実家に帰省していました。その頃祖父は、小さな借家で一人暮らしをしていました。帰省した時は従兄弟たちがいる母の姉の家にお世話になっていましたが、時々、祖父の家に挨拶に行きました。祖父は70代くらいでしたが、毛がフサフサしていて、白髪も殆どありませんでした。

 祖父の家に行くと、決まって一緒に散歩に出かけました。祖父は無口な人なので、一緒に散歩に行ってもちっとも楽しくないのですが、散歩に行くとお菓子が買ってもらえたりするので、渋々散歩に同行していました。

 特別に何をすることもない、極めて普通の散歩です。祖父はほとんど喋らないので、目的も無くただただ歩くだけでした。ある時、近所の錆びれた商店街を散歩していると、祖父の足がピタリと止まりました。どうしたんだろうと祖父を見ると、商店の壁にある張り紙を見ていました。それは、写真付きのポスターで、大きく「女子プロレスリング」と書いてありました。

 この頃は、ジャイアント馬場やアントニオ猪木の時代で、男子のプロレスは大人気でしたが、女子プロレスはまだまだマイナーな時代でした。タイトル図のビューティペアーが登場して、女子プロレスが脚光を浴びるのは、これからずっと後のことでした。

 祖父は、2-3分くらい食い入るようにポスターを眺めていました。プロレスが好きなのか、女子プロレスラーのコスチュームが好きなのかはわかりませんが、なんとなく気恥ずかしくて、早くそこから立ち去りたい気持ちになりました。この時の感情はうまく説明できませんが、祖父と女子というのが結びつかなかったのかもしれません。

 たぶん、祖父は女子プロレス観戦には行かなかったと思いますが、本当に好きだったのなら、行かせてあげたかったなぁと思う、今日この頃です。


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