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ウロボロスの遺伝子(41) 第7章 MADサイエンス研究所・再び⑥

 青山は、手元のタブレット端末を見ながら続けた。
「仙石所長からの許可が、いま出ました。それではヘリコプターを使って空から現地へ向かいましょう。おやっさん、久しぶりの出動です。ヘリポートのドームを開けてください」と青山が『おやっさん』こと、大矢大作(おおやだいさく)に声をかけた。

 大矢はサイエンス研究所の技術職員で、通常はサイエンス研究所での実験に使う測定機器や工作機械の保守と点検を担当している。また、研究員の依頼があれば、研究用の様々な電子基板や機械部品を製作する。ほかのメンバー同様、仙石所長からスカウトされた古株のメンバーである。大矢は、研究所の開設当初は名前通りに『おおやさん』と呼ばれていたが、いつの間にか、おおやさんが訛(なま)って『おやっさん』と親しみを込めて皆から呼ばれるようになった。

「青ちゃん、任せとけ。こいつを飛ばすのは久しぶりだが、いつものようにメンテナンスはバッチシだ。燃料も満タンにしてある」と大矢が応えた。
「あまり無茶をしちゃいけませんよ」白鳥が微笑みながら青木に向かって言った。
「心得ています」と青木が応えた。
「ヘリコプターは研究所の最上階から発進します。お二人は私の後から付いて来てください」青山が赤城と黒田の二人に指示をした。
「あなたがヘリコプターを操縦するんですか?」赤城が聞いた。
「心配いりません。ヘリコプターのライセンスは持っています」青山がいつものように平然と答えた。

 大矢を含む四人が、エレベータを使って研究所の最上階に到着した。すでに屋上のドームは解放されて、鉛色の雪雲が天井を覆っていた。外の空気は肌を刺すように冷たく、少し前から降り始めた雪が、屋上のドーム内にも降りこんできた。そのヘリポートの中央には、赤城がこれまでに見たことがないような細長い形をしたヘリコプターが置かれていた。そのヘリコプターは、高級外車のように黒く塗装され、ワックスでピカピカに磨き上げられていた。

「ヘリコプターって、こんな形でしたっけ? 表現が難しいのですが、私はもっと丸い形を想像していました」赤城が思わず声を上げた。
「――これはアメリカ軍の攻撃ヘリコプター・アパッチじゃないですか? なんでこんなモノがここにあるんですか?」と黒田が驚いて聞いた。
「私は詳しい経緯を知りませんが、所長の仙石がアメリカ合衆国大統領から中古の機体を譲り受けたそうです。その中古機体を、大矢さんが時間をかけてコツコツと修理・改造しました。このヘリの二基のターボシャフトエンジンは、おやっさんが念入りに分解掃除しているので新品同様です。それから、米軍の正式な機体番号も取得していますので、飛行にも問題はありません」と青山が平然と答えた。
「もう色んなことが起こり過ぎて、驚く感覚が麻痺してきたわ」赤城があきれ顔で言った。
「さあ、急ぎましょう」とサングラスをしてヘルメットを被った青山が言い、二人に迷彩色のヘルメットを手渡した。青山は手慣れた手付きでアパッチを操作し、三人は、おやっさんこと大矢に見送られながら、爆音とともに研究所のヘリポートから飛び立った。


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