固有名詞で文化がわかる!?
民族の定義は難しいようですが、大雑把に言えば言語によって民族は分けられます。また言語は、その民族の文化や風習に大きく関係しているので、その言語中の固有名詞を見れば、ある程度はその文化や風習が見えてきます。”固有名詞で文化がわかる”というのは言い過ぎですが、特定のカテゴリーに関する固有名詞の種類の多さで、その文化が何に重きを置いてきたかがよくわかります。
砂漠で暮らす遊牧民の言語では、ラクダに関する固有名詞が多いと聞いたことがあります。例えば、オスのラクダ、メスのラクダ、子供のラクダにそれぞれ固有名詞があります。たしか、妊娠しているラクダを表わす固有名詞もあったと思います。英語では、牡牛(bull)、牝牛(cow)、仔牛(calf)のように牛に関する固有名詞があるので、牛が生活に密着していたことがわかります。日本語には、”オスの牛”、”メスの牛”のように、それぞれを表わす個別の日本語はありません。
北極圏で暮らすイヌイットは、氷や雪の状態・種類を表す語彙が豊富です。イヌイットは、昔はエスキモーと呼ばれていましたが、最近では彼らの言葉で”人”表すを”イヌイット”と呼ばれています。しかし、昔読んだ冒険家・植村さんの本では、”イヌイッ”が本来の発音に近いと書かれていたように記憶しています。日本人や英米人が、雪原や氷の”白さ”を表現するのに”白い(white)”と一語で表現するところを、彼らは数十種類もの”白さ”の程度を表現する語彙(固有名詞)を持っていると言われています。例えば、”降りたての雪”や”青味を帯びた氷”などには、それを表わす固有名詞があります。
最近たまたま見たテレビで、元ファッションモデルのタレントさんが興味深いことを言っていました。「白には200種類以上の白があるんですよ」。どうやらファッション業界では、イヌイットのように白を何種類にも区別して認識しているようです。
日本は”花鳥風月”という言葉があるように、自然の物事に関する固有名詞が多くあります。例えば雨についてなら、東風(こち)、南風(はえ)、追風(おいて)、嵐(あらし)、山嵐(やまじ)、颪(おろし)などです。○○風まで含めるともっと多くの種類の風があります。
また、月についても同様です。固有名詞は朔(さく:新月)くらいですが、二日月、三日月、半月、十三夜、小望月、望月(もちづき:満月、十五夜)、十六夜(いざよい)、立待(たちまち)月、居待(いまち)月、寝待(ねまち)月、更待(ふけまち)月、有明(ありあけ)月、三十日(みそか)月といった、一日ごとの月齢変化を表わした言葉があります。
その民族が何に関心があって、その言語の特徴が分かれば、文化の理解が深まりますね。
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