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ウロボロスの遺伝子(52) 第9章 首相官邸・再び①

 ウイルス盗難事件が解決した翌々日の午後一時、首相官邸の閣議室には、廃校から救出された国立ワクチン研究所の福山大観と、内閣府危機管理局局長の鬼塚健一が呼ばれていた。閣議室に続く廊下で福山に出くわした鬼塚は、福山に軽く会釈した。福山と鬼塚が並んで閣議室の前まで来ると、エスピーの守田から声を掛けられた。
「福山様と鬼塚様ですね。総理が中でお待ちです」
 このとき守田は、一瞬福山の顔を見て目線をそらせた。この行為に目聡く気付いた福山が言った。
「私の顔に何か付いてるかね?」
「いいえ、何でもありません」
「そうか、それならいいんだが・・・・・・」

 福山と鬼塚がエスピーに促されるように閣議室に入ると、待ち構えていた毛利首相が福山に声を掛けた。
「福山所長、この度は色々と大変でしたね。お怪我はありませんか?」
「よく覚えていないのですが、発煙筒の煙で足元が見えなかったせいで、激しく転んだみたいです。その時のものなのか、背中と頭に少し打撲の跡があります。また、監禁されていた時に手足を縛(しば)られていたので、多少の擦り傷はあります。しかし、この傷については問題ありません。ご心配をおかけしました」と福山が緊張しながら答えた。
「それは良かった。盗難にあった鳥インフルエンザウイルスも無事に取り戻すことができた。一歩間違えば未曽有(みぞう)の大惨事になるところだった。これも、福山所長の協力のおかげだ」と毛利首相が福山をねぎらった。

「頭のおかしな犯人のために、危うく殺されそうになりました。逆恨みにも程があります」と福山が調子に乗っていった。
「今日は、福山所長に見て頂きたいものがあって、わざわざ首相官邸までお越し頂いたのです」と毛利首相が遜(へりくだ)って言った。
「鬼塚局長、よろしく頼む」
「わかりました」と鬼塚が持っていたリモコンのスイッチを押すと、閣議室の天井から大きなスクリーンが降りてきて、福山にとっては以前どこかで見たようなデジャブのような映像が流れ始めた。
「――山根君の懲戒免職の原因となった研究データの捏造は、私が部下の一人にやらせたことだ・・・・・・」
「――林田君のアイディアを盗んだのは私だ。当時、私は実験に行き詰っていて、研究成果を出せずにいた。林田君のアイディアを聞いた時には、これだと思った。悪いこととは知りながら、苦渋の決断だったんだ・・・・・・」

 鬼塚の元には山根たちから、犯行現場のライブ映像が視聴可能なURLアドレスが送られてきていた。このURLアドレスは、MADサイエンス研究所の小森の元にも同時に送られていた。鬼塚は毛利首相とともに、廃校舎の教室内での一部始終をリアルタイムで見ていた。いま福山が見ている映像は、小森が編集したものだった。
「そんな馬鹿な・・・・・・。どうしてこんな映像が・・・・・・」福山は狼狽している様子を隠すことができなかった。


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