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ウロボロスの遺伝子(51) 第8章 廃校舎⑩

 逮捕された山根と秋菜の二人は、あとから来た警察官に引き取られて北関東警察署まで護送された。しかし、護送された二人には残念そうな表情はなく、むしろ清々しい満足気な表情をしているように見えた。また鳥インフルエンザウイルスは、鬼塚が派遣した厚生労働省出身の二人の危機管理官によって、無事に回収された。”アクシデント”のため気絶した福山は、念のため近くの救急病院へ救急車で搬送された。なお救急隊員には、福山が視界の悪い中で転んで気絶したと説明されていた。

 大騒動の後始末を終えて三人が校舎から出ると、ヘリコプターの爆音と発煙筒の煙のせいで、近隣の住民がヘリコプターを取り囲むように集まってきていた。大人たちの多くは、見たこともない物珍しいヘリコプターに、遠巻きに興味と不審な目を向けていた。しかし子供たちは、遠慮なしに近づいてヘリコプターの機体にペタペタと手で触れて、コクピットの内部を覗きこんでいた。

「皆さーん、こんにちは。たいへんお騒がせしました」と、住民たちを掻き分けながら黒田がヘリコプターに近づいて行った。
「安心してください。これは映画『ヘリコプター野郎』のロケ撮影です。この映画は年末に上演予定ですので、皆さんも是非見に来てくださいね」黒田が頭を下げながら、適当に胡麻化(ごまか)した。

 黒田が作った隙間を通って、青山と赤城がヘリコプターに到着した。
「新人の俳優さんかしら。背が高くてかっこいいわね」近隣住民のなかの年配の婦人が、青山を見て言った。
「あの女優さんも、可愛いのぉ。孫の嫁さんにしたいくらいじゃ」と高齢の老人が言った。
「さあ、撮影は終わりました。そろそろ映画スタジオへ戻りましょう」と、青山が黒田の話に合わせて、赤城と黒田にヘリコプターに乗り込むように促した。
「皆さーん。大変お世話になりました。これからヘリコプターで撮影スタジオまで戻ります。申し訳ありませんが、危ないのでヘリコプターから二十メートル以内には近づかないで下さい。それから、映画の公開前なので写真撮影は控えて下さいね。よろしくお願いします」と、黒田がにこやかにお辞儀をしながら、近隣住民に注意を促した。

 赤城と黒田の二人がアパッチに搭乗し、ヘルメットを被り、シートベルトをしたことを確認して、青山はアパッチのメインスイッチを起動した。アパッチのローターは軽やかに回転数を上げて、小学校跡地のグラウンドに砂埃(すなぼこり)を巻き上げた。三人は、にこやかに手を振る近隣住民に見送られながら、グラウンドを飛び立った。


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