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ウロボロスの遺伝子(13) 第3章 MADサイエンス研究所⑤

 サイエンス研究所の食堂は一階のほぼ中央にあり、多くの人が同時に食事できる十分なスペースがあった。食堂には余裕で八人が座れる大きさの円卓が、バラバラと無造作に配置されていた。これらの円卓には、医者のように白衣を着たグループや、黄色いヘルメットを被ったグレーの作業着のグループなど、既に数名ずつのグループができていた。あるグループの中には、はっきりと外国人とわかる、英語とカタコトの日本語を喋っている研究員もいた。先ほどの女性研究員の周辺には、早くも多くの人が集まって、楽しそうな会話が始まっていた。青山、赤城、黒田の三人は白鳥に勧められるままに、その円卓から少し離れた別の円卓を囲んで食事を始めた。

「午前十一時から午後一時までの二時間は研究所のコアタイムです。このコアタイムには、研究員は一部の例外を除いて一階の食堂に集まる事がルールとなっています」
「ルールというと堅苦しく聞こえますが、要するにここで自分の専門以外の人達と無駄話をすることが奨励されています。私は研究員ではありませんので、集まる必要は無いのですが、ここで話される会話が面白いので、お昼はほとんどここで頂きます」と青山が研究所独自のルールを説明した。
「そろそろ、その例外のお出ましかな」白鳥の話が終わるか終わらないうちに、四人の席の近くにあった大型液晶画面の電源が入って、画面の中央に俯(うつむ)いた一人の青年が映し出された。

「彼がその例外の小森太陽こもりたいよう君です。ごらんの通り若くてイケメンなのに、ある理由で極度の人見知りになり、今は研究室からほとんど出る事ができません。いわゆる引きこもりです。そのため、彼は研究所内にいるのに、コアタイムにはネット経由で会話に参加しています」と白鳥が小森を紹介した。
「それから、研究所に寝泊まりすることは原則的に禁じられていますが、彼と青山君だけは例外扱いで、研究所内で生活することが許可されています。研究所には近くにある温泉も引かれていますから、暮らしは快適ですよ」
「それから、小森君は仙石所長ほどではありませんが、あれで中々の優秀なプログラマーなんですよ」白鳥が丁寧に小森の説明をした。

 小森は二十歳そこそこの年齢に見えるが、顔色は青白く、神経質そうでオドオドとした表情をしていた。


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