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ウロボロスの遺伝子(24) 第5章 首相官邸⑤

 一瞬気を失った赤城は見ることができなかったが、その人影は優美な舞のように、目にも留まらぬ動きで掌底(しょうてい)による打撃を三人の暴漢に次々と繰り出した。その打撃は、的確に三人の顎を打ち抜いた。三人は軽い脳震盪(のうしんとう)を起こし、自分が打撃を受けたことにも気付かないまま、意識を失い地面にゆっくりと崩れ落ちた。さらにその人影は、この光景を見て呆然とする巨漢の顎にも同様の打撃を加えたが、身長差のせいか一撃で昏倒させることはできなかった。次にその人影は、顎を狙った一撃からの連続動作で、巨漢の肩に肘打ちを叩き込んだ。強烈な肘打ちによる肩の激痛に耐えかねて、その巨漢は赤城への羽交い絞めを振りほどき、その場に尻もちをついた。さらに、その巨漢の足首を狙って、黒い人影の攻撃が続いた。四人の暴漢がすべて撃退されるまでにかかった時間は僅か10秒で、百メートル走と同じ時間しかかからない早業(はやわざ)であった。

 気が付いて目を開けた次の瞬間、赤城は信じられない光景を目の当たりにした。赤城を襲った四人の暴漢のうち三人は、熟睡したかのように地面で昏倒していた。また、赤城を羽交い絞めにした巨漢は、足首を抱えながら聞いたことのない外国語で喚きたてていた。
「お怪我はありませんか? 赤城主任」黒田が聞いてきた。
「――怪我はないけど、これはあなた一人でやったことなの?」黒田と倒れた暴漢たちを交互に見ながら赤城が質問した。
「こんな奴ら、私一人で十分ですよ。三人はそれぞれ一撃で気絶しましたが、大きい奴は気絶しなかったんで、逃げられないように両足首をひねっておきました」黒田が平然と答えた。
「少し前に警察に連絡しましたから、もうすぐパトカーが到着すると思います」黒田が冷静に言った。

 まもなく二台のパトカーで到着した警察官たちに、黒田が暴漢たちを引き渡した。それから警察官たちに簡単な事情を説明して一段落した後、黒田が赤城に言った。
「別の暴漢が続けて襲ってくることはないと思いますが、用心するに越したことはありません。今日はホテルに泊まってください。近くのホテルを探してみます」黒田は情報端末で素早く検索してホテルの予約を入れた。
「ホテルまでは私が送ります」と黒田が言って、手配したタクシーに二人で乗った。着替えを準備するため、途中で赤城のマンションに立ち寄って、予約したホテルに向かった。ホテルでチェックインを済ませて黒田と別れる時、黒田が言った。「明日はホテルまでお迎えに上がります。先方との面会時間は十時ですので、忘れないで下さい。暴漢の件は、私から鬼塚局長に報告しておきます」


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