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2023年夏 北海道利尻島&礼文島サイクリングと登山の旅(利尻山登山編)

 利尻山(りしりざん)は山登りをする人には言わずと知れた最北の日本百名山。国土地理院の地図では括弧付きで利尻富士と書かれています。標高は北峰1719m、南峰1791mで南峰が最高地点なのですが、北峰から鞍部を挟んだ南峰までの約250mの道は崩壊が進んでいて、一般登山者は辿り着けません。そのため、一般的には利尻山登山は北峰を山頂とみなしているようです。これは鳥取大山の場合と同じ状況です(注参照)。

 先に述べたように標高は2千メートルに届かないのですが、島全体が山の一部になっていて、海抜に近いところから登り始めるため、山頂までの標高差が大きく、往復の標準登山時間は上り6時間、下り4時間、往復10時間と、かなり負荷のかかる登山となります。また、周囲を海に囲まれた山なので、天候が変わりやすい山でもあります。今回は、麓のファミリーキャンプ場にベースキャンプ風にテントを張って、徒歩で1時間ほど登ったところにある北麓野営場まで早朝に自転車で上り、そこから登山道に入るコースをとりました。出発点となるこの北麓野営場が2.5合目ほどに当たるようです。 

野営場から利尻山を望む

 ロードバイク旅と登山を組みあわせたときの悩みの一つは、"足周り"。ハイキング程度の山なら大して悩むことはないのですが、本格的な山登りの場合は、登山時の靴をどうするかという問題が生じます。登山靴を履きたいのですが、重くて大きな登山靴をサイクリングの荷物として持ち運ぶのは辛くて、あまり現実的ではありません。そのため、サイクリングと登山を一つの靴でカバーしたいのですが、サイクリングと登山では靴に関して全く異なる特性を求められるため、"折り合い"をつける必要が生じます。少し前には、軽登山靴形状のビンディング付きロードバイクシューズがミズノから出ていましたが、今は入手できそうにありません。一般的にマウンテンバイク用のビンディング付きシューズでは、クリートと呼ばれる靴裏のビンディング用金具を取り外して、その隙間を平にするラバー部品を取り付けることで、平地や山道のウォーキングシューズにすることができます。昨年の山陰サイクリング旅の途中での大山登山と同様、今回も、この方式で登山しました。しかし、通常は、しっかり足首を固定し、足裏を衝撃から守るように作られた登山靴を使うべき山なので、足に相当の負荷をかけてしまうことになりました。とりわけ下山時の足裏や足横からの衝撃は、かなり負担になり、下山後、翌日まで、予想以上の足の痛みを抱えることとなりました。(ここから具体的な登山記録となるので、「だ、である」体で記述します。)

サイクリングシューズ裏(走行時の金属クリートと歩行時に取り付ける合成ゴムアタッチメント)

 この野営場を朝5時半に歩き始めた。天気予報では、朝方は曇りで昼頃から天気は回復してくるとのことだったが、歩き始めてすぐ、5合目手前で雨になってしまった。大阪を中心とした関西からの20人ほどのツアー団体の中に取り込まれる形で登って行くことになった。6合目に到着する頃には、雨も止み、視界が効くようになってきた。上り口の鴛泊の町、その向こう海の先に、南北に細長く伸びる礼文島の姿も見えるようになる。

第一見晴台

 このあたりから、山頂手前にあるピーク長官山まで、長く急な直登が続く。上りきった8合目からは、目の前に利尻山の山頂まで見渡せるようになる。ここから仰ぎ見る利尻山の姿には息を呑む美しさがある。今まで、山の全体の姿が一度も見えていなかったこともあり、突然視界に入ってきた力強くかつ優美な姿が強く心を捉えた。

8合目から山頂を望む
礼文島が姿を見せる

 登山者の数は、登山道が混雑するほどではない。単独の登山者には、若い女性もいれば、シニアの男性も女性もいる。夫婦らしき男女、親子あるいは祖父と孫。登山を目的とした外国からの旅行者には、欧米出身者もいれば、中国(台湾、香港)人もいる。これらに団体登山者が何組も混じる。

登山道のかたわらに咲く開花した高山植物

 8合目から先は、急峻な登りになり、9合目の手前には、片側が切れ落ちた細い背の部分を通過するので注意が必要だ。この辺り、崩壊が進んでいる場所を登山道が通っており、その修復作業が行われている様子が見える。

(注)。ビニル袋に入った4kgほどの修復用の礫土を、余裕のある登山者に、50メートルほど運搬してもらいたいとの標識が立っている。その先で、この礫土を大きな筒状のプラスチックケースに詰め込んで、その上を登山道にするという。今まで見たこともない登山道の修復と強化である。

崩落が激しい登山道

 ここを過ぎると、左後方の谷状のなだらかな斜面に黄色のお花畑が広がっている。この山でお花畑を見るのは、ここが初めてだ。登山道から距離があるため一つ一つの花の姿は見えないが、そのすぐ下に残っている残雪とのコントラストが鮮やかで美しい。この花は、リシリキンバイだと後でわかる。

お花畑と残雪

 10時ちょうどに利尻山頂に到着。上り4時間半(標準登山時間6時間)。天気が回復して、稚内はもとより宗谷岬、礼文島、遠く樺太の島影も眺めることができた。風が出てきて体感温度が下がる。トレーナーの上から雨具をウインドブレーカのように羽織る。それでも寒い。手の先はまるで氷点下の寒さを感じる。利尻山の山容は、頂上に向かって鋭く尖っていく形になっていて、そのため山頂からの高度感は特別だ。トビだろうか、猛禽類の大型の鳥が風に向かってホバリングしたり滑空したりして遊んでいる姿が見える。

山頂を仰ぐ
山頂直下の急な登山道から望む礼文島
利尻山山頂

 10時45分に下山を始める。下山途中から、強い日差しが雲間から注ぐようになり、急に暑くなる。小虫が道沿いに発生してまとわりつくようになって歩きにくい。前後して下山していた単独のシニア登山者と言葉を交わしながら下山したが、目の前を歩いていた彼の前にエゾリスが現れたという。4合目付近では、登山道に野鳥のキビタキ(多分)が現れ、道案内するように登山道の先へ先へとぴょんぴょん飛び跳ねていった。

 14時35分に北麓野営場に帰還。この時気温20度C。快晴に近くほぼ無風。欲を言えば、あと少し早く天気が回復してくれていたら、上りも楽で、山頂から広々とした眺めもゆっくり楽しめただろう。しかし、明日は天気が崩れるとの予報を聞いて、登山を1日前倒ししたのは、正しい選択だった(代わりに翌日の利尻島周回サイクリングにしわ寄せが行くことになったのだが)。

利尻山登山ルート

(注)この後、礼文島に渡り、キャンプ場に宿営したのだが、そこで出会った、"百名山ピークハンター"のシニアの方によると、利尻山はしばらくすると登山できなくなるかもしれないという。崩落がひどくなっているので、入山禁止にすることも検討されているのだそうだ。これで思い出したのが、前年に山陰地方縦断サイクリングの途中で登った中国地方唯一の百名山「鳥取大山」。かつては、縦走さえできたのに今は崩落が進んで本当の山頂にさえ行けなくなってしまっている。

※ヒグマについて
 北海道でも、近年熊の出没が頻発していて、札幌市内にまで現れて人を襲う事故が起きている。離島はどうなっているのかが気になり調べてみたところ、利尻島では2018年に106年ぶり(!)に熊の目撃があった。しかし、そのあとしばらく姿が見えなくなり、再び島民に目撃された時にはガリガリに痩せて衰えていたという。海を渡ってくるほどのヒグマでも、小さな離島で生き残るのは困難なようだ。基本的には利尻島、礼文島を含め、北海道といえども離島には熊は生息していないと考えてよさそうだ。

おわり

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