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「健全な自信家」を見てきた話

携帯(スマホ)を替えにゆく(入店前)


つい最近、携帯電話の機種変更に行ってきた。このあいだまで使っていた携帯電話が使い始めて4年ほど経ったのと、今週はこなさなければならないタスクが多い(したがって、早くこなせるタスクから潰していきたい)こと、価格・スペック面で納得のいく機種が出てきたこと、そろそろ(いままで面倒だと思ってやっていなかった)月額料金を見直したい等の理由で、市の旗艦店に足を運んだ。

家族や友人、精神科の先生やスタッフ以外のニンゲンと直接会って(それなりの時間)喋るのは、かなり久しぶりだったので、「うまく喋れるかな…」と、かなり緊張した状態であった。いまはどうか知らないがもともとはSAD(社交不安障害)の診断がついており、人と対面で話すまえはいつも安定剤のデパスを飲んでいた。今回も手が震えるくらいには緊張していたので、携帯ショップに行く30分くらい前にソラナックスを入れてショップ店員との対面に臨んだ。

しかし、いざショップにたどり着くと入口付近に立っていた店員さんから、「現在混み合っているので1時間半待ち」だと告げられた。だるいなあ…と思いつつも、旗艦店だからしかたないな…と思い、予約だけとって1時間半時間を潰すことにした。

携帯(スマホ)を替えにゆく(入店後)

※今回のお話の主題は対応してくれた店員さんの健全な自信にあてられたこととその結果として私の卑屈さや自信のなさが浮き彫りになってしまったところ(そのやりとり)にあるため、細かい事の経緯はすっ飛ばしていきなり入店後の話に移る。

最初に対応してくれたおじさん(早口で地雷踏み抜く)

入店して最初に対応してくれたのは、50代前半くらいのテキパキした仕事できる風おじさんスタッフだった。店舗には若いスタッフからおっさん・おばはん(失礼)まで様々な年齢のスタッフがいたが、いちばん大事な契約内容の大枠のところの説明は経験年数の長いベテランのスタッフが担当するようなスキームになっているようだった。

おじさんはなかなかの早口で、(句読点なく)、現在自社が提供している料金プランを説明しながら、私の月別データ通信料と電話時間を尋ね、最もお得と思われる(?)プランを提示してきた。その間わずか2~3分。正直に申し上げよう。私はこの手の話(携帯の料金プラン)に疎く、脳の処理速度があまり速くないため、おじさんの話が50%くらいしか理解できなかった。

こういう人、会社にもよく居たなあ…という気持ちが蘇ってきた。自分の頭のなかでは情報が整理されているが、その情報を<はじめて>聞かせる相手に説明するときに、相手の処理速度等を考慮にいれず、「自分が理解できてるから相手も理解できてるに違いないよね!?」ってな感じで説明してくる方。(自分が給料を貰う側であるなら、これは私側の無能力が悪いで済まされる話なのだが、今回は一応お金を支払ってサービスを受ける〈お客さん〉側で来ているので、なんだかなあ…という気持ちになった)

私個人の経験、そして、周囲の様子を観察した結果、実際に上記のような人の説明を聞いた人に「どう?わかった?」と聞いて集めたデータベースによると、だいたい聞き手の6~7割(少なくとも過半数)はきっちり理解してません。私たちはだいたい〈雰囲気〉で〈コミュニケーション〉をやっている。

私は私で説明で理解できないことがあったり、不明瞭なところがあったら、可能な限り訊くようにしているので、「結局、料金の内訳を見せて下さい。そのうえで、これがなんの料金で、なにをするためにこの料金が発生するのか(このお金を払ってなにができるようになるのか)?また、この料金を削ることによって、どんな不都合があるのか?」というような質問をいくつかした。

おじさんスタッフには苦笑いされた。

私:よくわからない些末な割引システムよりも、まず全体像(内訳)を示してほしい。このお金は何に対して発生しているのかをハッキリさせてほしい。割引プランの説明は、そのあとでよい。
VS
おじさん:業務フローが決まっていて、顧客の理解など関係なしに、「何分で何人捌きたい」、そういうことしか考えていない(おそらく、私の持ち時間は30分程度)。

という対立構造が生まれていた。

持ち時間(30分)もおわりに近づいたころ、そのおじさんスタッフから、携帯電話料金の月々の支払いをクレジットカードにしない理由を尋ねられたので、「諸々の事情があってクレジットカードをを作れる時期に作れなかったので、いまはもってません」と答える。

でも、おじさんは引かなかった。

おじさん「クレジットカードの審査通るかわからないんですけど、無職か自営業なら、通りますよ!ちなみにどちらですか!?」
私「無職です…」
おじさん「無職は主婦扱いにすれば通る可能性がありますよ!」
私「いや、たぶん通らないのでやめときます…」
おじさん「そうですか…」

対応してくれていたスタッフのおじさんの表情が曇るのがあきらかにわかった。「あっ…やっちまった…」という顔をしていた。

私も私でそんなことがあっても「別に気にしてませんよ」という態度で居ればよかったのであるが、自分のステータスにそれなりの後ろめたさが残っていたので、ストレスが身体の動きになって現れてしまった。

妙に落ち着かない。身体を置くべきところを探すようにクネクネさせたり、貧乏ゆすりが激しくなったりした。心の所在なさから生じる不安が身体の動作になって現れていた。ストレスに対する脆弱性、自身の卑屈さが浮き彫りになった。そういう自分を見つめる<自分>が脳内に複数人存在していた。狼狽えているのに、客観的である。妙な気分であった。

次に対応してくれたお姉さん(健全な自信家)

メンタル的にはかなり底を打ったところで、私の持ち時間はおわったらしく、引き継ぎに若いスタッフ(お姉さん)が来た。おじさんが交代時にそのお姉さんにこっそりと耳打ちするのが見えた。私はかなり卑屈になっていたのもあって、たぶん、「あのお客さんに無職っていうのタブーだから避けるように」とでも伝えていたのかな、と想像を膨らませるのは容易であった。

しかし、おじさんからお姉さんに代わって、雰囲気がだいぶ変化した。別に何か取り立てて変わったことはないのだが、私の心境だけがかなり変わった。なんというか緊張感が和らいだ。スタッフさんの話す速度であったり、話題の選定、表情の作り方等、非言語的なコミュニケーションが上手であったためか、角張った空気が丸くなった。

驚いたのは、おじさんスタッフに代わって席についた第一声、「○○さん(私)のプラン見てたんですけど、まだここの部分、割引ききますから割り引いておきますね!」と、前のおじさんが見落としていた割引をきっちり見逃さずにこちらに伝えてくれたことだ。若いので経験年数は浅いだろうが、仕事のできる人だなと思った。

まず、交代直後のアイスブレイクの話の入りが「いや〜携帯の料金ってどこも高いですよね〜!(うちもだけど!)(笑)」というような調子で、契約者目線で話してくれるのだ。これはあとから来た女性スタッフの特徴であり、特長でもあるかな?と感じた。自分と歳が近いせいか妙に親近感も覚える。

お姉さん「なんでうちの料金プランってこんな変なプランなんすかね?」
私「マーケティングリサーチしたら、月のデータ使用量のボリュームゾーンがこの辺にあるからじゃないすかね」
お姉さん「自分携帯会社で働いときながら思うんすけど、もっと安くできるやろってよく思います」
お姉さん「あっ!○○さん、ご家族が△△と契約してるんで、ここに割引つきますね!入ってないですね!笑。いまから入れときます」

みたいな感じで会話がスルスルと進む。あとは、ショップに行った日の私の服装がスプラトゥーンのTシャツだったので、「なんかゲームとかしはるんですか?」と聞いてこられたので、「スプラトゥーンはSwitchもってないのでできないですけど、大会とかはみますよ」という話をしたり、「他に、Fate/Grand Order (FGO)が好きで…」という話をしたら「推しはなんですか?」という話になったり、「音楽は何を聴くんですか?」というような話もした。洗練された接客だ。

お姉さんスタッフは作業をしながらだったので、「こちらからは話しかけると作業の邪魔になるから黙っておいたほうがよいのかな?」と思い、何も話しかけずにいると、それを見透かされたように「自分が作業してる間、ずっと待たされてるお客さん、暇やろな…思って、なに話そうかなって、考えてるんですよ〜!(笑)。で、何話そかなって思ってたらスプラトゥーンのTシャツ着てはるのが目に入ったので、ゲーム好きなんかなと思って、ゲームの話してみました!なんも共通の話題とかなさそうな人は天気の話とかして終わります~(笑)」と仰っていた。

お姉さんの健全な自信と対照的な私

私と喋りながらも爆速で作業をこなしていくお姉さん。私が「それだけ喋りながらよく手が動きますね?」と尋ねたら、「もう何百回、何千回とやってますからね(笑)。こんなん、身体が自動的に動くようになってます」と答える。この何百回、何千回という鍛錬に裏打ちされた自信。自分が仕事をしていたときにはなかったものだ。思い出すと常にビクビク仕事をしていた。いつ失敗するのだろう。失敗したらこっぴどく怒られるだろうな。どうやって失敗を避けよう。こういうことばかり考えていた。

いま眼の前にいるお姉さんは、当時の私とは対照的だ。失敗に対する不安などまるで感じさせず、ルーチンワークなのかもしれないが、眼の前のお客さんを楽しませる(先のトークの話)ところまで意識がいっている。新卒で就職した会社の上司からこう言われたことがある。

「○○くんは自信をもって仕事をしよう。人よりできている部分があるのだから、それをみんなにわかってもらえるようにしよう。そうしたら、もっとよいエンジニア・研究者になれるよ。ただし、自信と傲りはちがうよ。自信をつけるためには、あたらしいものを人よりいち早く感じ取るセンサーを鍛えてください。そして、感じ取ったものをみなに表現してください。」

上述の携帯ショップのスタッフのお姉さんは、傲りではない「健全な自信」を築くことに成功している。だから、上述のようなきわめて洗練された対応ができる。携帯ショップに行ってあたらしい携帯を買いに行くという至極日常的な風景のなかにとてもまぶしく健全な自信に満ち溢れた店員さんがいた。

一方、私でいうところの「健全な自信」はなんなのか?エンジニア・研究者でなくなったいま考えるとするならば何なのだろう?

自分で勝ち取った「成功体験の積み重ね」が必要だと考えるならば、「能力(上述の上司の言葉から推測するに、私には『新しいものを知覚してそれを人に対してわかりやすく表現する』資質があったので、それを鍛えなさいという含みがあったように思われる)を鍛えたうえで、得たものを人前で見せること」、「とくにお金がかかっているところで披露する」こと。そして、「その報酬としてお金をもらうこと」だと思っている。

考えてからやるというにはもう遅すぎる年齢に達してしまった。だから、やりながら考えて足りない部分は修正していく。
ただし、私の場合、情動の不安定だけではない問題をいくつか抱えているので、まずそこをクリアしないと人前でお金を取るに足る仕事ができない。とりあえず動けばいい。そこから何か始まる。何も動かなければそのまま朽ちて死ぬだけだ。それをわかっていても脳が強烈な抑制をかけてくる。身体が恐怖で動かない。いまそこにもどかしさとくるしさを感じているのは、私も周囲で私のことを見ている人も同じだろう。なんとかして「健全な自信」を得たい、と<もう遅すぎるかもしれないが>という枕詞を排して思うことが、健全な自信を獲得する第一歩であるかもしれない。

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