《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【バトル・フォー・ザ・プラネット・オブ・ジ・アストロピテクス】
【#2】←
「「トマレー! トマレー!」」「貴様らの所属は!」「直ちに通行許可証を」KRAAAASH!「「アバーッ!」」暴走するガバナス宇宙装甲車が、バリケードもろとも検問トルーパーを轢殺!
フルフェイスメンポを外す暇も惜しみ、リュウが装甲車のハンドルを切る。ハヤトとバルーは荒れ狂う車体にしがみつき、激しい振動に耐えた。「急いでリュウ=サン! あの貨物船を追わないと」「わかってンだよ黙ってろ舌噛むぞ!」「GRRRRR!」
だが次の瞬間、KABOOOOOM! 車体の下で爆発が巻き起こった。
「「「グワーッ!」」」三人は横転する装甲車から投げ出され、ゴロゴロとウケミした。後を追ってきたもう一台の装甲車からニンジャトルーパー分隊が次々と降車、包囲陣形をとった。運転席から身を乗り出したクノーイが、油断なく2発目のバクチク・グレネードを構える。
「その猿は独房に入れろと命じたはずだぞ。ンン?」上部ハッチで頬杖を突くキビトが嫌味たらしく問うた。
「エーそれは、エー……そう別命! 別命で護送してます! 捕虜を!」
必死に取り繕うハヤトを、「ンッフフフフ」キビトは楽しげに嘲笑した。「動物系人類の嘘は全く他愛ない。リュウ=サンとハヤト=サンだろう、君達?」
「フーン、お見通しッてか」トルーパー姿のリュウが挑発的に踏み出した。「晩メシの焚き付けみてェなツラの割に頭が回るな。褒めてやるぜ枯木野郎」
「何だ、その言い草はァ……」キビトのこめかみの辺りがミシミシと鳴った。地球型人類であれば青筋が立っているところだ。
「つべこべ言わずに正体を現せ! 劣等種族がーッ!」瞬間的に伸びた右腕がクノーイの手からバクチクを引ったくり、投擲!
KABOOOOOM! 赤黒い爆炎が三人を覆い尽くした。
「フン、自業自得だよ。優生種の私を愚弄するから……ンン?」キビトは目を眇めた。
薄れゆく炎の向こう、バルーとともに立つ姿は、リュウとハヤトのそれではなかった。真紅と白銀の未来的宇宙ニンジャ装束。目元を隠す宇宙ニンジャゴーグル。クーフィーヤめいた宇宙ニンジャ頭巾が爆風にはためく。
「お前達は!」クノーイの顔色が変わった。二人の宇宙ニンジャは、その手に握る金属製グリップのボタンを押した。スティック状の刃が飛び出し、ジュッテめいた短刀に変形する。
「「ドーモ!」」二人はヒロイックなカラテを構えた。
「銀河の果てからやって来た正義の味方。ナガレボシです!」
「変幻自在に悪を討つ平和の使者。マボロシです!」
「ドーモ、クノーイです」「ドーモ、はじめまして。キビトです。獣の分際で私の目を欺いた事は褒めておこう」キビトは装甲車を降りてオジギした。
「君達の事は聞いているぞ。リアベ号の連中をヨージンボめいて支援する謎の宇宙ニンジャだとな」流木めいた頭部が訳知り顔で頷く。「我々をここで足止めして、彼らに貨物船を追わせる算段だろう?」
「さあな」できるならそうしてるよ畜生。真紅の宇宙ニンジャ、ナガレボシことリュウは内心毒づいた。ハヤガワリ・プロトコルを順守した彼らの正体は99.99%秘匿される。しかし、物理法則を無視して同時に二ヶ所に存在することはできないのだ。
「君達の思い通りにはさせんよ。カカレ!」「「「「「ハイヨロコンデー!」」」」」
キビトの命令一下、ニンジャトルーパーが一斉にソードを抜き放ち、渦巻きめいた陣形で三人に殺到した。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」陣形ごと回転しながら、先頭のトルーパーが次々と斬り掛かる。ワザマエの差を数でカバーする時間差攻撃、クルマ・ラグ・アタックだ!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」チュイン! チュイン! チュイン! ナガレボシの宇宙ニンジャ伸縮刀がカラテ超振動を発し、火花を散らしてソードを払いのけた。「イヤーッ!」一人の手首を掴み、アイキドーめいて投げ飛ばす!「グワーッ!」乱れる陣形!
「WRAAAAGH!」別トルーパーの攻撃を受けたバルーが苦痛の叫びをあげた。宇宙ストーンアックスでニンジャソードを押し返さんとするも、右肩の傷と麻痺毒のダメージでままならぬ。
「させるかよ! イヤーッ!」すかさずナガレボシが駆け込み、トラースキックでトルーパーを蹴り飛ばした。「グワーッ!」その先には白銀の宇宙ニンジャ、マボロシことハヤトの伸縮刀!
「イヤーッ!」飛来トルーパーの胸板を超振動貫通! 緑の血に塗れた腕が背中から突き出る!「アバーッ! サヨナラ!」爆発四散!
ナガレボシとマボロシは、バルーを庇うように並び立った。
「下がってな相棒」「僕達で十分だ!」「GRRRR……そうはいかねえ」バルーの目はひたとキビトに向けられていた。
「スキあり! イヤーッ!」背後から襲いかかったトルーパーのニンジャソードを、マボロシはノールックで伸縮刀防御、「イヤーッ!」振り向きざまに斬りつけた。「グワーッ!」
マボロシはそのまま身を沈め、「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」地を這う竜巻めいてスイーパーキックを連発した。「「「グワーッ!」」」足を刈られ体勢を乱すトルーパー群に、「イヤーッ!」ナガレボシのトビゲリが叩き込まれた。「「「グワーッ!」」」ひとまとめに吹き飛ぶ!
「調子にお乗りでないよ! イヤーッ!」飛び来たったロケット型クナイ・ダートを「イヤーッ!」マボロシは反射的に叩き落した。投擲者はクノーイだ。
「今よキビト=サン!」「君に指図される謂れはない!」キビトは言い返しながら右腕を振り上げた。枝めいた腕はみるみる数メートル近く伸び、鞭めいて振り下ろされる!
「イヤーッ! イヤーッ!」SMAASH! SMAAAAASH!「グワーッ!」マボロシの周囲で岩が砕け、土煙が舞った。
「イヤーッ!」SMASH! キビトの腕はマボロシのクロスガードを弾き飛ばし、その首に巻きついた。ドクンドクンと脈動し、マボロシの生気を吸い上げにかかる。「ンッフフフフ滋養!」「グワーッ!」
「世話焼かせンな! イヤーッ!」
ナガレボシの宇宙スリケンがキビトの肩口に突き立った。「グワーッ!」締め付けが弱まった一瞬を突き、「イ……イヤーッ!」マボロシは宇宙ニンジャ伸縮刀を触手めいた腕に叩き付けた。チュイイイイン! 超振動がチェーンソーめいて木屑を撒き散らす!
「グワーッ!」キビトはたたらを踏み、シュルシュルと右腕を縮めた。肘から先が失われている。好機!
だがその時、マボロシの前にバルーが立ちはだかった。
「下がってろマボロシ=サン。こいつは俺の獲物だ」「エッ? でもその傷じゃ」「こいつは俺のダチを殺し、デーラ人の名誉を汚した!」7フィート超の長身から迸るキリングオーラに、マボロシは圧倒された。「アイエッ……」
トルーパーと斬り合いつつ、ナガレボシは咄嗟に状況判断した。
「マボロシ=サン! バルーに任せろ!」叫ぶと同時に四枚の宇宙スリケンを投擲!「イヤーッ!」「「グワーッ!」」それぞれ喉笛と股間を貫かれ、二人のトルーパーが倒れ伏した。「ザコは俺だけで十分だ! イヤーッ!」さらに四枚を投擲!「「グワーッ!」」
マボロシの迷いは晴れた。「やれ、バルー=サン!」「WRAAAAGH!」バルーは咆哮で応え、宇宙ストーンアックスを構えた。宇宙猿人アドレナリンが全身を駆け巡り、麻痺毒の弱体効果を上回った。パンプアップした筋肉が右肩を止血した。黄金色の体毛が逆立ち、波打つ!「WRAAAAAGH!」
悪鬼めいたその姿にもキビトは動じなかった。「ンッフフフフ……君達に私は倒せんよ」頭部にザワザワと緑葉が生え、陽光を受けて輝く。「リジェネレイト・ジツ! イヤーッ!」
おお、見よ! カラテシャウトと同時に、剪定痕めいた右肘の傷跡に萌え出た瑞々しい若芽を! それはメリメリ、パキパキと音をたてながらタイムラプス映像めいて急速成長し、新たな腕に育ってゆくではないか!
「理解したかね?」ものの数秒で元に戻った右腕を、キビトはビュンビュンと振り回した。「光ある限り、私は何度でも再生する。他者の肉体を食らうしか能のない君ら動物系人類には到底不可能な」「WRAAAAAGH!」「エッ」KRAAAAASH!
宇宙猿人アドレナリンによって休眠したバルーの言語中枢は、キビトの長広舌をもはや解さなかった。引き換えに大脳辺縁系が異常活性化した今、彼の肉体を突き動かすのは本能のみ。脳内ニューロン処理の大半がスキップされ、その反射速度は宇宙ニンジャ敏捷性に迫らんとす!
「グワーッ!」キビトの五体が押し倒され、地面に激突した。「AAAAAAGH!」「グワーッ!」バルーはマウントポジションからキビトの肩口に深く食らいつき、手首を掴んだ。「GRRRRRRAAAGH!」
「グワーッ!」キビトの上腕部が凄まじい力で引っ張られた。ブチブチと不気味な音が響く。キビトの腕だけではない。限界を超えたパワーを発揮するバルーの筋繊維も、負荷に耐えかね千切れ始めていた。「アイエエエ! ヤメロこのイカレ猿が!」「AAAAAAAAAAGH!」「アイエエエエエ! ヤメロ! ヤメローッ!」
ブヅン!「グワァァァァァーーーッ!」
キビトの右肩から先が千切れ飛んだ。「WRAAAAAAAGH!」バルーは衝動のまま頭を振りたて、生臭い涎を振り撒いた。
「けッ、汚らわしい! イヤーッ!」「AAAAAAGH!」腹を蹴り上げられたバルーが、吐瀉物とともに地面に転がった。
マウントポジションを脱したキビトがよろよろと立ち上がる。「図に乗るな……図に乗るんじゃあないケダモノが……腕一本ごとき何度でもなァ!」緑葉が再び光に輝く!「リジェネレイト・ジツ! イ……」
KBAMKBAMKBAM! 頭上に白煙が炸裂した。
「何ッ!?」キビトは狼狽して振り仰いだ。KBAMKBAMKBAM! マボロシの投擲したケムリダマだ。絡み合う敵味方にスリケンを投げあぐねたあげく、ヤバレカバレめいてひねり出した援護策である。
「上等だマボロシ=サン! ありったけ投げろ!」ナガレボシは叫び、トルーパーの首をトビゲリ270度回転殺!「アバーッ!」
「ハイ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」マボロシは投擲続行! KBAMKBAMKBAM! みるみる陽光が煙に閉ざされる!
「小賢しいぞ劣等人種! イヤーッ!」「グワーッ!」キビトの左腕が伸び、触手めいてマボロシの手首に絡みついた。ブレーサーに阻まれて生気吸収はかなわぬ。ならば。「このまま手首を捻り切ってやろう!」締め上げられたブレーサーがミシミシと軋む!「グ……グワーッ!」
その時!「WRAAAAGH!」「グワーッ!」バルーが横合いから飛び掛かり、伸び切った左腕を一瞬で噛みちぎった! なんたる野獣めいた咬合力!
「バルー=サン! アリガトゴザイマ……」マボロシは絶句した。バルーは背を向けて低く屈み込み、手の中の何かをバリバリと貪り食っていた。小動物を捕食する宇宙モンキーのごとく。「GRRRRR……」
「貴様……何をしている」キビトが後ずさった。「GRRRRR」顔を上げたバルーの両目は真っ赤に充血し、爛々と輝いていた。涎にまみれた植物片が口元から零れ落ちた。キビトの左手首の残骸が。
「アイエエエエ!」キビトは本能的恐怖に襲われ、左腕を引き戻した。シュルシュルシュル……宇宙スネークの逃走めいて縮む腕を追い、ほとんど四つん這いのバルーが肉薄する!「WRAAAAAAGH!」なんたる野獣めいた瞬発力!
「アイエエエエ! 来るな! 来るなーッ!」キビトは側転回避を……打てぬ! 右腕に加え、いまや左手首も無い!
「WRAAAAAAGH!」「イ……イヤーッ!」横っ飛びに白煙の中へ逃れるのが精一杯だった。欠損した五体がバランスを崩し、スライディングめいて土に塗れる。「グワーッ!」ブザマ!
避けねば殺される。咄嗟にそう思った自分自身にキビトは憤った。だが事実だ。植物系ニューロンの中で怒りと恐怖がせめぎ合う。
いまやキビトの視界は、煙で完全に閉ざされていた。
「GRRRRR……!」SNIFF! SNIFF! バルーの唸りと鼻をひくつかせる音、そしてうろうろと歩く足音だけが聞こえてくる。
光を得られぬ頭部の緑葉がハラハラと散った。リジェネレイト・ジツ使用不能。
キビトは屈辱に堪え、匍匐前進を開始した。呼吸する肺も、鼓動する心臓もない彼は、ニンジャアーミー中トップクラスの宇宙ニンジャ野伏力を誇る。
受けたダメージをことごとくリジェネレイト・ジツで回復し、無益な攻撃に消耗した相手を悠々と殺す。動物系人類にカラテで一歩後れを取るキビトの、それが必勝のメソッドであった。第15太陽グローラーに最も近く、強烈な陽光が降り注ぐこの惑星こそ、彼にとって絶好の狩場となるはずだったのだ。
不自由な左腕で、キビトは地面をもどかしく掻いた。(もう少しだ……奴が私を見失っているうちに、煙の外に出てリジェネレイトするのだ……さすればあんな猿など……!)
だが次の瞬間!「WRAAAAAAGH!」宇宙猿人の巨躯が、白煙を割ってキビトの眼前に飛び出した!「何ィーッ!? バカな!」
「グワーッ!」再びマウントを取られたキビトに、両手持ち宇宙ストーンアックスの殴打が降り注ぐ!「WRAAAAAGH!」ザクッ! ザクッ! ザクッ!「アイエエエエ! 畜生なぜだ! 貴様なぜ私の居場所を!」「WRAAAAAGH!」ザクッ! ザクッ! ザクッ!「アイエエエエエ!」
全身をズタズタにされながらキビトは気付いた。自身の傷から否応なく発散する、宇宙フィトンチッドの微かな香気に! ナムサン! 獣どもの戦意を鎮める防衛化学物質が、逆に狂える野獣の嗅覚を導こうとは!「WRAAAAAGH!」ザクッ! ザクッ! ザクッ!「アイエエエエエエ!」
キビトの主観時間が泥めいて鈍化した。石刃が振り上げられ、振り下ろされ、体組織が木屑めいて飛び散る。それが繰り返される。果てしなく。
ザクッ……! ザクッ……! ザクッ……!
風が煙を吹き流し、ようやく青空が覗いた。だが時すでに遅く、キビトのニューロンはソーマト・リコール現象に呑まれていた。それは数十万年の昔から受け継がれた記憶。眷属に自我が芽生える遥か以前の呪わしきビジョン。
枝一本、葉の一枚も動かせぬ身体を、虫が、鳥が、獣が、当然の権利のように食い荒らす。光が傷を癒し、捕食者が新たな傷を作る。再生と搾取のサイクル。その末に命は枯れ果て、次の世代が芽吹き、また貪られる。それが繰り返される。果てしなく。
(アイエエエエ……スミマセン、偉大なる始祖よ)キビトの両眼から樹液が流れた。涙のごとく。(私もまた、獣どもに勝てなかった……)
「WRAAAAAAAAAGH!」バルーはひときわ高く叫び、最後の一撃を振り下ろした。SMAAAAAAASH! キビトの首が胴体を離れ、地を転がった。「サヨナラ!」爆発四散!
「WRAAAAAAAAAGH!」バルーは湧き上がる攻撃衝動を持て余し、ストーンアックスを投げ上げた。宇宙猿人アドレナリンで加速された視神経が、そのさまをスローモーションめいて捉えた。
原始時代の武器が優雅に回転し、青空を駆け登ってゆく。
【#4へ続く】
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