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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【バトル・フォー・ザ・プラネット・オブ・ジ・アストロピテクス】

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【#1】←


 無人のデーラ人集落をスニーキングする人影は、ひとり故郷に戻ってきたバルーであった。

 リアベ号の仲間とはあえて別行動をとった。代々トラディショナルな生活様式を守る同胞のもとに、地球型人類やドロイドを連れ帰るのは憚られたのだ。だがそれは杞憂であった。既に集落はガバナスの襲撃を受け、住人は一人残らず姿を消していた。

 焼け残った木造住宅の外壁に、バルーは音もなく身を沿わせた。手にした宇宙ストーンアックスで麻織りのノレンを持ち上げ、ゆっくりと中を覗き込む……その時!

 突如何者かがその手首を掴み、7フィート超の巨躯を室内に引きずり込んだ。膂力!「AAAAAGH!」バルーは反射的に身をもぎ離し、ストーンアックスを振り上げ……相手を見て破顔した。「ガルー!」「バルーか!」

「「WRAAAHAHAHA!」」二人は呵々大笑して、デーラ人流の荒っぽいハンドシェイクを交わした。SLAP! SLAP!「「WRAAAAAAAGH!」」

「やはり戻って来たな」「当たり前だ! お前が無事でホッとしたぜ。ルーレとジルーはどうした」「ああ、安全だ……今のところは」ガルーは歯切れ悪く頷いた。

「なあ、バルーよ。俺達を助けてくれるか」「当然だろうが! 仲間も力を貸してくれる。二人とも真の宇宙の男で、しかも宇宙ニンジャだぜ!」胸板を叩くバルーの返答は明快だ。「さあ来い! 早速会わせよう」

「待て!」ノレンを潜ろうとしたバルーの腕を、ガルーは険しい顔で掴んだ。「アー、その……まずは再会の酒だ。それからでも遅くはなかろう。な?」
「WRAHAHAHA! こりゃいかん」バルーは額を叩いた。「宇宙を飛び回ってると、デーラ人のしきたりまで忘れちまうわい」

 宇宙ゴザを敷いただけの地面に、バルーはどっかりと腰を下ろした。宇宙チャブを挟んでガルーも座り、皮袋から木椀に発酵酒を注いだ。慎重に。
「再会を祝して」「カンパイ! ユウジョウ!」バルーは木椀をひと息に呷った。ぐびりぐびりと喉が動く。

「フゥーッ」バルーは口元を拭い……静かにガルーを見た。
「どうした。なぜ飲まん」

「俺にはその資格がない」ガルーは目を伏せ、歯を食い縛った。「俺は……デーラ人の誇りを捨てたのだ」
「様子が変だと思ったぜ」バルーは旧友の肩を叩いた。「まァ話してみろよ。一体何があった……アイエッ!?」

 取り落とされた木椀がゴザの上に転がり、わずかに残る発酵酒が飛び散った。「グワーッ麻痺毒!」バルーは宇宙ゴザに両手をつき、よろめく身体を辛うじて支えた。
「俺を嗤ってくれ、バルー」ガルーの拳が震えた。「家族の命と引き換えに、無二の親友をガバナスに売った男を!」

 バルーは全てを察した。「そうか……家族は、大事……だな」わななく手で友の頬に触れ、精一杯笑ってみせる。

「俺は、お前を……恨みはしないぜ……」

 バルーは宇宙チャブに突っ伏し、昏倒した。
「キビト=サン!」ガルーは頭上の空間に呼びかけた。「ンッフフフ、ご苦労」野太い梁からメリメリとキビトが分離し、地面に降り立つ。「リュウ=サンとハヤト=サンが一緒でないのは残念だが、まあよかろう」

「約束だ。女房と息子を返せ!」「約束?」「忘れたとは言わさんぞ貴様!」ガルーが牙を剥く。
「ああ、約束。約束ねェ……もちろん覚えているとも」キビトはゆっくりとガルーに向き直り……「イヤーッ!」「グワーッ!」

 木杭めいて硬化したキビトの右腕が、ガルーの背中から血に塗れて突き出していた。「アバッ……な、何を……」
「片腹痛い。高次生命たる植物系人類の、しかも宇宙ニンジャの私と、対等に約束を交わせるとでも? 貴様のような薄汚い猿ごときが?」

 ドクン、ドクン……右腕が脈動する。「アバッ! アババババーッ!」「全くもって度し難き劣等人種よ。せめて私の養分として役立つがいい」「アババババババーッ!」

「ンンッフゥーッ……」やがて、キビトは満足気に酸素の吐息を漏らした。ミイラめいて干からびたガルーの亡骸が崩れ落ち、キビトの足元で塵の山と化した。あとに残されたのは衣服と装身具、そして一丁の宇宙マチェーテのみ。ナムアミダブツ……!

「アーイイ、遥かにイイ……ンン?」
 恍惚とするキビトの足首を、バルーの震える手が掴んだ。「テメェ……よくも……よくも俺のダチを!」怒りが宇宙猿人アドレナリンを血中に駆け巡らせ、辛うじて彼の意識を留めていた。

「ンッフフフ……何が不満だ。獣は死に、植物の養分となるさだめ」キビトの瞳孔は散大し、視線は曖昧に揺らいでいた。「君もさだめに従え! イヤーッ!」うわずったカラテシャウトと共に右腕が伸び、バルーの肩口を貫く!「グワーッ!」脈動!「アババババーッ!」

 その瞬間、「マッタ!」紫の風が駆け込んだ。「グワーッ!」バルーの長躯がくの字に曲がって吹き飛ばされ、その勢いでキビトの右腕が引き抜かれた。小屋の心柱に激突したバルーは完全に意識を失い、地面に倒れ伏した。

「作戦を台無しにする気? キビト=サン」ローキックの蹴り足を引き戻しながら、クノーイはキビトを睨んだ。
「ンンー、シツレイした。私としたことが、植物らしい奥ゆかしさを忘れていたよ」キビトは右腕を縮め、笑いを堪えてゆらゆらとオジギした。「ンンッフフ」完全にキマっている。クノーイは内心舌打ちした。

「わかってるの? リアベ号の連中をイチモ・ダジンにしないと、奴ら必ずデーラ人狩りを妨害するわよ」「だからこいつを餌に、残りの仲間を誘き出すというのだろう?」キビトはバルーを担ぎ上げた。「動物系人類の立案にしては真っ当だ。協力させてもらうよ。ンッフフフ」

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 焼け野原に建設された軍事施設群の中心に屹立する、円筒形のメガストラクチャー。最上部の壁面からは十数本の砲身が放射状に突き出し、360度くまなく射程範囲に捉えている。ガバナス地上要塞の対空監視塔だ。

 土煙をあげて走る装甲トラックがコンボイめいて列を成し、次々と監視塔のメインゲートに吸い込まれていった。デーラ人を家畜の如く満載して。

 その様子を窺う二人の宇宙ニンジャあり。
「ご大層なモンおっ建てやがって」地面の上にわずかに顔を出し、リュウは眉根を寄せた。傍らでハヤトが頷く。「許せないよ」

 二人が身を潜める用水路には一滴の水も流れていない。かつてこの地に栄え、ガバナスに焼き払われた耕作地帯の名残だ。
 すぐ近くに、地下通路へのゲートがトーチカめいて開口していた。通路を経由して全施設への行き来が可能と思われる。警備にあたるは歩哨トルーパー二名。

「あいつら邪魔だね」「何言ってやがる。チョロいぜ」リュウはハヤトの肩を軽く叩き、用水路から飛び出した。ハヤトが慌てて続く。

 二人は身を沈めて近づき……「「イヤーッ!」」トルーパーの背後から飛び掛かった。「「グワーッ!」」腹部に拳を叩き込まれ、トルーパー達はたちまち悶絶。リュウとハヤトは素早くその身体を抱え、監視カメラの死角へ引きずり込み、トドメを刺した。「な?」リュウがウインクした。

 その一部始終を映し出すモニタを一瞥すらせず、監視塔指令室のイーガーは八つ当たりめいて叱声を飛ばした。「貨物船の発進準備はまだ終わらんのか!」とんだ貧乏クジだ。(こんな屠殺場めいたミッションを押し付けられると知っていれば、オーダー将軍のドゲザなど一蹴していたわ!)

「グズグズするな! 皇帝のご意志に背いたとみなし、不敬罪に問うぞ!」「「「アイエエエスミマセン!」」」UNIX卓に貼りついたオペレートトルーパーが、失禁を堪えて作業を急ぐ。

 ガゴンプシュー。指令室のドアが開き、クノーイとキビト、そして鎖で拘束された宇宙猿人が入室した。「バルー=サンを連行しました、副長閣下」

 イーガーの機嫌は直らない。「二人がかりで猿一匹か。不甲斐ない」ソードの鞘でバルーの肩口をつつく。「GRRRRR……!」傷の痛みにバルーは歯を食い縛り、殺意のこもった唸り声をあげた。

「ご心配は無用です、副長閣下」キビトが胸を張った。「所詮は動物系人類。残り二人もすぐに捕えます。警備兵!」「「ハッ」」下級トルーパー二名が入室した。「この猿を地下独房に放り込んでおけ。追って指示する」「「ヨロコンデー」」
「WRAAAAGH!」バルーは必死に抵抗した。毒を食らおうと傷を負おうと、断じてガバナスの思い通りにはならぬ!

 その時。
(落ち着け相棒)(僕達だよ)トルーパー達が聞き慣れた声で囁いた。

「ム?」バルーの宇宙猿人視力は、フルフェイスメンポの宇宙ゴーグルの下に馴染み深い顔を見出した。
(お前ら! どうしてここに)(状況判断よ)リュウの眼が笑った。(このまま脱出しよう、バルー=サン)ハヤトの囁きに、バルーは微かに頷いた。

 そそくさと退室しかけた三人を、「待て」イーガーが制した。
「アー……何か不都合でも」リュウが慎重に尋ねた。「ビクつくな。これから始まるショウを、その猿にも見せてやるのよ」

 イーガーが手振りで指示すると、大型UNIXモニタが薄暗い格納庫を映し出した。デーラ人の一団がニンジャトルーパーに追い立てられ、次々と宇宙貨物船のコンテナに入ってゆく。

「ルーレ! ジルー!」見知った母子の姿を認め、バルーはカッと目を見開いた。「ほほう、知り合いがいたか」イーガーは笑った。「俺の地位を守るため、貴様ら猿どもには地上から消えてもらう。全てのデーラ人を宇宙に投棄する、あれが第一便よ。ハハハハ!」

「テメェ! WRAAAAGH!」荒れ狂うバルーを、リュウとハヤトは渾身の力で抑えつけねばならなかった。「コラ、暴れるな!」「大人しくして……しろ!」
「ハッハハハハ!」イーガーの哄笑が怒りの炎に油を注ぐ。「AAAAGH! 殺す! テメェら絶対ブッ殺す! WRAAAAAGH!」

 二人のトルーパーは四苦八苦してバルーを引きずり出した。自動ドアが閉じ、咆哮が遠ざかってゆく。「WRAAAAAAGH……!」

「これで餌の用意はできたな」キビトは満足げに腕を組んだ。「私は太陽光でも浴びながら、リュウ=サンとハヤト=サンを捕える罠をじっくり考えるとしよう」「悠長なこと」「優生種ゆえの余裕だよ」クノーイの皮肉にも動じない。

「もういい。反逆者どもはお前らに任せる」イーガーは二人を追い払うように手を振った。リアベ号の一味は殺しても飽き足らぬが、今は保身ミッションが最優先だ。
「デーラ人の積み込み、完了しました」オペレーターが生真面目に報告した。「ア? ならさっさと発進させろ!」「ハ、ハイヨロコンデー!」

 ガゴンガゴンガゴンプシュー……格納庫の円形天井が次々と開き、丸く切り取られたシータの青空が覗いた。
「発進ドーゾ」「ヨロコンデー」ゴウンゴウンゴウン……巨大な宇宙貨物船は、監視塔を貫くシャフト内をしめやかに上昇開始した。フライトプランは既に登録済み。大気圏脱出後、星系外へデーラ人を投棄する手筈だ。

「よォし、猿狩りの再開といくか」イーガーが指揮官席から腰を浮かせた瞬間、ブガーブガーブガー! レッドアラートが鳴り響いた。
『緊急事態! 警備兵二名が反逆者のデーラ人と脱走しました!』

「オイ、キビト=サン!」イーガーのこめかみに再び青筋が立った。「どういう事だ! まだ俺の手を煩わせる気か!」「滅相もない! この私にも予想外だったまで! まさか既に反逆者どもが潜入していたとは!」

 動揺するキビトに、クノーイは皮肉めいた笑みを返した。「動物系人類も侮れないようね、キビト=サン」「ヌゥーッ!」

【#3へ続く】

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