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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【ア・プリンセス・オブ・アンダーグラウンド】

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◆#3◆

「思った通りだ!」ゴウンゴウンゴウン……ベルダ上空を航行するガバナス帝国旗艦「グラン・ガバナス」のブリッジで、コーガー団長はマントを翻して叫んだ。「どういう意味だ、兄者」帰還したイーガーが訝しむ。「まるであのゴースト山脈に何かあると知っていたかのような口ぶりだぜ」

「皇帝陛下の命により、惑星ベルダ誕生から今日までの歴史を調べた。不審な空白があったのだ!」コーガーはギョロリと弟を睨んだ。「空白?」「消された歴史だ! そこにモンゴー一族の地底王国の秘密がある!」「俺達の支配を逃れた国が、この星系にあるってのか」イーガーが息を呑む。

「左様! 死の霧も磁気嵐も、地底王国に侵入者を近づけぬためなのだ! ミツカゲビト=サンの報告なくば、まんまと騙されたままであったわ!」コーガーは怪鳥めいてマントを広げた。「カーッカッカッカッカーッ! コシャクな地底人どもよ!」その両目は怒りに燃えている!

『コーガー団長!』

 ブリッジ壁面の黄金ドクロレリーフが両眼をUNIX点滅させた。「ハハーッ!」コーガーは瞬時にドゲザした。『首尾よく地底王国の所在を突き止めたか。褒めてつかわす』ドクロの口腔スピーカーから響くのは、ガバナス皇帝ロクセイア13世の通信音声。『してオヌシ、かの国をどうするつもりかな。ン?』

「征服致しましょう!」コーガーは間髪入れず答えた。「皇帝陛下のご威光の前に、あらゆる知的生命体は服従あるのみ!」『ムッハハハハ! その意気やよし』皇帝は満足気に笑い声をあげた。『聞くところによれば、モンゴー一族の王女には、銀河で一番美しい宇宙エメラルドが代々受け継がれておるそうじゃのう』

「銀河で一番美しい宇宙エメラルド!」コーガーの双眸が爛と光った。「承知つかまつりました! その品、必ずや皇帝陛下に献上奉ることになりましょう!」『ムハハハハ! 小気味よいソンタクよ。楽しみに待つとしようぞ』「ハハァーッ!」『ムハハハハ! ムッハハハハハ!』

 地上を遥か下に望む大絶壁。そこに二つの人影が虫めいてへばりついていた。宇宙ザイルの束を担いだリュウとバルーだ。「しッかしまァ、うんざりするような景色だぜ」「ハヤト=サン、無事だといいがな」「簡単にくたばらねえっつッたろ、お前がよ」「そうだったか」「とぼけンなこの野郎」

 機械に頼らず人力で踏破するほか、ゴースト山脈を越える道はない。二人は互いを引き上げながら、垂直に近い岩壁を登り続けた。「よッと……まァ確かに、最近アイツはタフになってるよ。案外今頃、お山の向こうでホットなベイブをゲットしてたりしてな」「お前じゃあるまいし。GRRRR」バルーは喉を鳴らして笑った。

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「ハークション!」

 モンゴー王国宮殿の宴の間で、ハヤトは大きなクシャミをした。「誰か僕の噂をしてるな」地球系移民に伝わる宇宙ジンクスを思い起こし、鼻の下を擦る。ある程度以上の知己の間には量子的相関関係が結ばれ、一方が他方に言及した時、何十光年離れていても鼻腔の感覚神経に影響を及ぼすという。

「その誰かって、ハヤト=サンの恋人?」豪勢な地底王宮料理が並ぶテーブル越しに、ヒミメ王女が悪戯っぽく微笑んだ。「エッ⁉ そんな人いるもんか」「アヤシイゾ!」ケン王子が囃し立てた。地上ではとうに廃れた古のヒヤカシ・チャントだ。「これ、二人とも奥ゆかしさが足らぬぞ」カン王が諫める。

「気にしてません」ハヤトは笑ってかぶりを振った。「きっとリアベ号の仲間です」「ほう、先程の話にあった宇宙船の」「ハイ……きっと今頃、僕を探してる筈です」「心配無用じゃ」顔を曇らせるハヤトにカン王が微笑んだ。「それらしき者が現れたら、丁重に出迎えさせよう」「アリガトゴザイマス」

「ねえ、お祖父様」ケン王子が尋ねた。「悪い帝国が地上にはびこる今こそ、我々モンゴー王国が立ち上がる時では?」「……ウム」答える代わりに老王は立ち上がった。宮殿の窓を開け放ち、一同を目で促す。窓から身を乗り出したハヤトの口から、感嘆の声が漏れた。「スゴイ……!」

 彼の目の前には、モンゴー王国の領土たる地底大空洞が広がっていた。石造建築の林立する街並みを人々が行き交い、工業ギルド街や市場ストリートの喧騒が心地よいざわめきとなって聞こえてくる。第15太陽グローラーの代わりに頭上で輝くのは、天然の岩盤ドームに吊り下げられた無数のバイオ発電灯だ。

 在りし日のアナリス中央都市にも匹敵する市街地の向こうに、地底コメ畑と居住区のパッチワークが延々と続く。その果ては宇宙ニンジャ視力をもってしても見通せなかった。「……数百年、あるいは数千年の昔」カン王が語り始めた。「時間と空間を超えた旅路の果てに、我らの始祖は惑星ベルダに降り立った」

 ハヤト、ヒミメ、ケンの三人は、姿勢を正して傾聴した。「偉大なる賢者ダム・ノストラの予言詩に従い、始祖はこの大空洞を領土と定めた。磁気嵐、死の霧、バイオ発電灯、DNA組み換え地底コメ……先人のテクノロジー遺産は今なお王国の秘密を守り、閉鎖生態系を支えておる。地上へ帰還する時が来るまでな」

「みんなで地上に出るのですね! スゴイ!」目を輝かせるケン王子に、「否」カン王はかぶりを振った。「ハヤト=サンより聞くに、ガバナス帝国の侵略は畢竟、人が成す悪行の域を出ぬ。我等が立つのは、惑星の存亡すら揺るがす天災訪れし時ぞ」

「本当に来るのですか、そんな災いが」ヒミメ王女の顔は心なしか青ざめていた。「必ず来る」カン王は断言した。「だが恐れてはならぬ。予言が成就するその時こそ、我等は地上地下の区別なく全ベルダの民を救うのだ。備えようぞ」「ハイ」頷く王女の胸元で、宇宙エメラルドの首飾りが煌めいた。

「ARRRRRGH!」「動くンじゃねェ馬鹿野郎ーッ!!」

 海抜数千メートルの高みに宙吊りとなったバルーの身体が回転する。「イイイヤアアアアーーーッ!」リュウの宇宙ニンジャ筋力が、ザイルに結ばれた7フィート超の巨躯を引き上げた。「WRAAAGH!」ゴースト山脈の岩壁に取り付いたバルーは、震える手で脂汗を拭った。「GRRRR……とんだ山登りだぜ」

「頼まれたって二度とゴメンだね」「同感だ」キャットウォークめいた突起の上に立ち、リュウは周囲を見渡した。「霧まで出て来やがったぜ、ッたくよォ」その時。『ドーモ。リュウ=サン、バルー=サン』「「アイエッ⁉」」霧の向こうから響く神秘的な声に、二人はバネ仕掛けめいて背筋を伸ばした。

「「ドーモ、ソフィア=サン!」」

 然り。彼らの眼前に現れたのは、リアべ号の謎多き協力者・ソフィアの宇宙帆船であった。船首から金色のビームが迸り、ブロンド宇宙美女のホロ映像を空中に結ぶ。『急いでゴースト山脈を超えるのです』「キッツイなァ」リュウは頭を掻いた。「これでもめちゃくちゃ急いでンだぜ、俺達」

『ハヤト=サンは今、モンゴー一族の地底王国に身を置いています。その王国に邪悪な影が差しているのです』ソフィアの声には切迫感があった。「地底王国? このベルダに? 初耳だな」バルーが首を捻る傍ら、リュウのニューロンがあらぬ方向に回転する。「……なあ、ソフィア=サン」

「まさかとは思うがよォ……その地底王国とやらにホットなオヒメサマがいて、ハヤト=サンの奴がデレッとしてるなんて事ァ」『……?』「アッ! やっぱそうなんだな畜生!」答えかねたソフィアの曖昧な微笑を、リュウは己の価値観で判断した。

「あンの野郎、こっちの苦労も知らねェで! 見つけたらタダじゃおかねェぞ!」「そうとも! 堕落する若者を更生するのは大人の義務だ!」盛り上がる宇宙の男達。『……ともかく急ぐのです』ソフィアはコミュニケーションエラーの修正を放棄した。宇宙帆船が後退し、しめやかに霧の中へ退去する。

「アレッ、連れてってくンねえの? オーイ!」「現実は冷たいな」「バカヤロ」バルーの背中をリュウがどやした。「なんか事情があンだよ。それよか急ごうや」岩壁に手を掛け、登攀を再開する。「邪悪な影、地底王国に迫るか……オヒメサマのナイトになるチャンスだぜ」「GRRRR」バルーはもはや何も言わなかった。

「ハッ! どこの馬の骨とも知れぬ若造を王族あげてチヤホヤしおって!」

 貴族専用居住区の豪奢な一室で、宰相グモは宇宙ワインを呷った。銀のゴブレットを叩きつけたテーブルは、密かに地上から取り寄せた宇宙マホガニー製。それら貴重な調度品も、部屋に溢れる宝石類も、彼の鬱屈を癒やすには足りぬ。

「このグモが居らねば、モンゴー王国などとうの昔に滅んでおるに違いないのだ!」『その通り。心中お察し致す』再び声なき声!「アイエッ⁉」グモは飛び上がり、腰の宝剣に手をかけた。「オノレ! 姿を見せよ侵入者! 宰相への間諜行為は死罪だぞ!」

『大声をお立てめさるな。我等は貴殿の影の中』「ナニ?」グモは壁に落ちる己の影に目を向けた。ZMZMZMZM……その中から立体的な闇が滲み出し、オチムシャ・ヘアーの宇宙ニンジャに変じた。異様に膨らんだ頭蓋。左右で白と青に分かれた顔色。あからさまに異星人なのだ!「アイエエエ⁉」

「ドーモ。ミツカゲビトです」宇宙ニンジャは慇懃にオジギした。「ガバナス皇帝・ロクセイア13世の使者として参上した」「ぶ、ぶ、無礼な!」グモが虚勢を張る。「他国の使者ならば、まずカン王陛下に拝謁を求めるのが筋であろう!」「そのカン王に替わり、貴殿を王座に据えるのが陛下のご意思でな」

「な……」なんたる不遜極まりなき提案!「そんな事ができるか! ワシはモンゴー一族の名誉ある貴族ぞ!」「我等がケン王子の影に潜み、地底王国に潜入を果たして数時間。既に調べはついておる」ミツカゲビトはグモに指を突き付けた。「貴殿は常々、この国の王になりたいと思うておる筈!」

「黙れーッ!」「フン。イヤーッ!」斬りかかるグモを鼻で笑い、ミツカゲビトはチョップで易々と宝剣を叩き落とした。そのまま喉首を掴み、ギリギリと身体を吊り上げる。「ア……アバッ」「その狼狽えよう、どうやら図星か」ミツカゲビトはグモを石床に放り捨てた。「グワーッ!」

「このまま地底で生涯を終えるのが貴殿の本懐ではなかろう」「ゲホッ、ゲホッ……」咳き込むグモをよそに、異相の宇宙ニンジャは壁の風景画を手に取った。描かれているのは紺碧の海、太陽輝く空。「愚にもつかぬ予言を信奉する王族を一掃し、地上へ帰還する時が来たのだ。グモ=サン」

「……」立ち上がる宰相の目は暗く据わっていた。「オヌシ、見返りに何を求める」「さすが宰相殿。話が早い」ミツカゲビトは得心げに頷いた。「地底王国の王女に代々伝わる宇宙エメラルドの星。それを恭順の証として差し出せば、皇帝陛下は必ずや貴殿を新たな王に封ずるであろう」

「して、如何にして事を運ぶ」「我等三人はガバナスニンジャアーミーの精鋭。万事任せるがよい」「三人? あと二人は何処じゃ」「フッフフフ」ミツカゲビトが胸の前でニンジャサインを組み始めた時、「アイエッ⁉」グモはようやく気付いた。頭部の左右にオメーンめいて貼り付く第二第三の顔に!「アイエエエ!」

 ナムサン! 左右の顔がメリメリと正面を向き、「カーッ!」中央の顔がエテルの霧を吐き出した。凝固した霧が二人分の胴体を形成!「ドーモ。ヒカゲビトです」「ツキカゲビトです」「ホシカゲビトです」二色面、青面、白面の宇宙ニンジャが次々とアイサツした!「アイエエエエエ!」

【#4へ続く】

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