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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【ア・プリンセス・オブ・アンダーグラウンド】

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◆#2◆

 ゴンゴンゴンゴン……イオン・エンジンの垂直噴射で、リアベ号はそろそろと上昇を開始した。

 ぐらつくコックピットで操縦桿を握るのはリュウとバルー。「慎重にな。エンジンブローした瞬間、俺達ゃ全員オダブツだ。こういう時は」「ホットなベイブを扱うように、だろ? 百万回聞いたぜ」ピボッ。二人の背後で万能ドロイド・トントが頭部を回転させた。『ホットナ、ベイブトハ、ナンダ』「僕に聞くなよ」ハヤトはやや顔を赤らめて囁いた。

「ン?」リュウがUNIXモニタを覗き込んだ。「***」のアスキーアートで表示されたそれは、シュート・ガバナスの三機編隊だ。「ニンジャアーミーの連中、早速おいでなすったか」「じゃあ戦闘準備だね!」キャプテンシートの背もたれ越しにハヤトが身を乗り出す。

「待て待て、慌てンな」リュウの指が敵機の動きを辿った。「この飛行コース、ゴースト山脈へ一直線だ。俺達にゃ気付いてねェ」「あんなヤバい場所に何の用かね」「ロクな理由じゃねェのは確かだな」バルーに答えつつ、リュウはモニタを光学カメラに切り替えた。

 BEEEAM! BEEEEAM! 画面内でシュート・ガバナスの破壊ビームが閃き、岩壁が次々と爆裂した。KABOOM! KABOOOM!「何やってンだアイツら」リュウはカメラの倍率を上げた。「見て!」ハヤトが画面の一点を指差した。爆炎と土煙の中、小さな人影が垣間見える。「あの子だ!」

 少年は野生動物めいた身のこなしで岩陰から岩陰へと駆け渡り、無慈悲なビーム掃射から逃れんとしていた。だが、アーミーの末端とはいえ敵パイロットは宇宙ニンジャ。それを許すはずもなし! BEEEAM! BEEEEAM! KABOOM! KABOOOM……!

 リュウの目が細まった。「行くぜ、ハヤト=サン」立ち上がり、中央船室へ。「最後まで面倒見るかァ」言葉と裏腹に顔を輝かせたハヤトが続く。バルーが副操縦席から拳を突き出し、親指を下向けた。「きっちりブチ殺して来な」トントの顔面LEDプレートには「DESTROYTHEMALL」の文字列。

「山」「空」「海」のショドーが飾られた船室の左右に、違法改造めいた連絡通路が口を開けている。リュウとハヤトは慣れた様子で身を潜らせ、小型宇宙戦闘機のコックピットに滑り込んだ。ZZZZZ……ジェネレータの起動音が響く中、リアベ号の係留アームが展開、両機をロンチポジションへ運ぶ。

「「Blast off!」」

 KBAMKBAM! エクスプロシブ・ボルトが炸裂した。リアベ号から撃ち出された二機が爆発的初速で低空を這い、ものの十数秒で敵編隊の下に潜り込む。「今だぜ!」「ハイ!」二人は急上昇をかけ、パルスレーザー斉射で敵機を突き上げた。ZAPZAP! ZAPZAPZAP! 空中戦開始だ!

『各個迎撃せよ!』『『ヨロコンデー!』』宇宙スパイダーの子を散らすように敵編隊が散開した。一機がバーティカルループで追撃を振り切ろうとするも、リュウの宇宙ニンジャ耐G力はものともしない。「その程度か? なら死んどけや」ZAPZAPZAP!やすやすと撃墜!「アバーッ!」KABOOOM!

「ようし僕も!」気負い込むハヤトは性急な旋回でもう一機の背後を取ったが、それは彼らのコンビネーションに嵌り込んだ形だ。すかさず後方に隊長機が食らいつき、宇宙スパイダーの糸めいた破壊ビームを放つ!「死ね! 反逆者! 死ねーッ!」BEEAM! BEEEAM!「アイエエエ!」

 ZAPZAP! リュウ機はパルスレーザーで隊長機を牽制した。『世話焼かせンなテメェ!』「ゴ、ゴメン!」難を逃れたハヤト機が、山脈を掠めて敵機に追いすがる。(クソッ……挽回しなくちゃ!)UNIXターゲットスコープが機影を捉えた。「逃がすもんか!」ZZOOOM! エンジンを焼きつかせんばかりに加速!

『オイちょっと待て!』通信回線越しにリュウが叫ぶも、時すでに遅し! ZZZZZT! ハヤト機とシュート・ガバナスは突如コントロールを失い、でたらめな軌道で飛び始めた。磁気嵐の影響圏内に入ったのだ。「アイエエエ操縦不能!」『山脈に近づきすぎだ! イチイチ言わなきゃわかんねェのかテメエは!』

「グワーッ!」狭いコックピット内でハヤトの五体が激しくシェイクされる。「アイエエエエ……エッ!?」狂ったように回転する視界の中、彼の宇宙ニンジャ視力は一瞬だけ垣間見た。複雑な山並みの死角から照射される、薄緑色の磁気ビーム光を!「あれは……!」

 ZZZZZT! ZZZZZZT! だがそれを訝る暇もなく、暴走する機体は加速を続けた。「グワーッ!」「戻れハヤト=サン! ゴースト山脈を超えたら一巻の終わりだぞ!」『ザリザリ………メだ!……度が下……ない!』通信にノイズが混じり始める。「ああクソッ!」リュウは操縦桿を殴りつけた。

 KABOOOM! 暴走ガバナス機が岩壁に激突、爆発四散した。「バカなーッ!」隊長機トルーパーが絶叫した。「何の戦果も上げぬまま二機もの損失だと? だが今撤退しても死刑必至! せめて敵を一機なりとも」BEEP。航法UNIXが警告音を発した。真下に敵機の反応あり!「アイエッ!?」

 ZZZZZT……リュウ機の主翼が光を帯び、巨大なプラズマ・カタナと化す。「ライトニング・キリ・バーティカル! イヤーッ!」SLAAAASH! 垂直上昇で直交した瞬間、隊長機のボディは真っ二つに断ち割られていた。「アバーッ!」KABOOOOM! 爆発を置き去りに、リュウ機はさらに高度を上げる!

『追うな相棒!』回線越しにバルーの叫び。「アイツを見殺しにしろッてのか!」リュウは怒鳴り返した。『馬鹿野郎! いま突っ込んでも同じ目に遭うだけだろうが!』ZZZZT……然り。いまやリュウ機のボディも薄緑の燐光を帯び、異音を発しつつあった。『ハヤト=サンは簡単には死なん! 信じろ!』

 ハヤト機は既に山頂を越えていた。ポイントオブノーリターン。「聞こえるか!」リュウは通信機に叫んだ。『ザリザリ…………える…!』「向こう側のどこでもいいから不時着しろ! あとで迎えに行く!」『どう……て…っち…に来…のさ!』「知るか! とにかくテメェは待っときゃいいンだよ!」

「ハイ!」答えた瞬間、通信が途絶した。ハヤトは緊張に顔を強張らせ、リュウがリアベ号を胴体着陸させた手順を必死に思い出した。UNIXをシャットダウン。全システムをマニュアル操作に切り替え、ジェネレータ出力を手動でカット……ガグン! ガグン! 機体が急激に減速した。一面の砂漠が眼下に迫る!

 ハヤトは操縦桿を握り締めて歯を食い縛った。ZOOM!「グワーッ!」ZZOOOM!「グワァーッ!」ZZZOOOM!「グワァァーッ!」砂丘に突っ込んだ機体は水切り石めいてバウンドを繰り返し、そのたびに砂塵を巻き上げた。「グワァァァァーーッ!」ZZZZOOOOM……!

 一帯に静寂が戻り……しばしの後、キャノピーが砂を跳ね上げて開いた。「プハーッ!」コックピットから這い出したハヤトが、砂を払いながら五体を確かめた。負傷箇所なし。両手はまだ微かに震えている。「ハァーッ……」ハヤトは崩れ落ちるように座り込み、呆然と呟いた。「……生きてる……」

 ……やがてハヤトは立ち上がり、砂丘を登り始めた。熱く凪いだ大気の中、聞こえるのは自身の呼吸、そして足元で軋む砂の音のみ。頂上から周囲を見渡せば、青い空と黄色い砂漠の境界線めいて、黒茶色の山嶺が周囲360度を取り囲んでいる。人類の営みから隔絶された世界……否。「あれは?」ハヤトは目を凝らした。

 彼の宇宙ニンジャ視力が見出したのは、山脈のそこかしこにマチバリ・ピンめいて直立する尖塔群であった。「外側」から見えぬ死角に建設されたそれらの先端で、パラボラめいた装置が薄緑の燐光を放っていた。化学プラントめいた土台部からは白い霧が絶え間なく吐き出され、ヴェールの如く山麓を流れてゆく。

(磁気嵐、死の霧……まさか!)ハヤトのニューロンが大胆な仮説を結んだ。人跡未踏の魔境ゴースト山脈……それはテクノロジーによって人為的に作り出されたものなのでは? 興奮して思わず一歩踏み出した瞬間、足元の砂が大きく崩れた。「グワーッ!」転げ落ちる先には、巨大宇宙アリジゴクめいた流砂のスリバチ!

「グワーッ!」砂中に引きずり込まれたハヤトの身体は、闇の中を加速しながら滑り落ちてゆく。ウォータースライダーめいたトンネルが、左右にくねりながら地下に走っているのだ。「何だこれは⁉ アイエエエ!」両手両足を突っ張ってブレーキングを試みるも、潤滑剤めいた流砂がそれを許さない!「アイエエエエ!」

 DOOOM!「グワーッ!」砂と一緒に地下牢の中へ吐き出されたハヤトは、咄嗟のことで加速エネルギーをウケミで逃がし切れず、背中から鉄格子に激突した。上下逆の視界の中、ガゴンプシュー……跳ね上げ式の丸蓋が閉じ、トンネルの出口を塞いだ。退路なし。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……軍隊めいた足音を聞きつけ、ハヤトは背中の痛みを堪えて身を起こした。闇の中から現れたのは草冠を戴く老人、鉤鼻の男、そして槍兵の一団。いずれも神話時代めいたクラシックな出で立ちだ。「ここは何処ですか! なぜ僕をこんな目に!」ハヤトは鉄格子を掴んで叫んだ。

「聞かせてやろう、地上人」鉤鼻の男が尊大に言った。「ここはかつて惑星ベルダを支配した、偉大なるモンゴー一族の地底王国よ」「地底王国? そんなものがゴースト山脈の下に⁉」ハヤトは驚愕した。「こちらにおわすは一族の長、カン王陛下。かく言うワシは宰相のグモじゃ」男が得意げに顎髭を撫でる。

「その地底王国がなぜ僕を?」「ぬけぬけと白々しい若造め!」グモは目を剥いて一喝した。「恐れ多くもケン殿下の命を狙いし不逞の輩! その罪万死に値する!」「王位継承者を害さんとする者には死の報いあるのみ。それが地底の法なのだ、若者よ」カン王が厳粛に告げる。

「覚えがありません! そもそも誰ですか殿下って!」「この期に及んで罪を認めぬか! 構わぬ、処刑開始せよ―ッ!」「ハイ! イヤーッ!」「「イヤーッ!」」「待ってくれ! 僕の話を聞いてくれよ!」突き入れられる槍の穂先をスウェー回避しながら、ハヤトは必死に訴え続けた。その時!

「おやめなさい!」

 凛とした声が飛び、純白のドレスを纏う少女が歩み出た。「「「ハハーッ!」」」たちまち槍を引きオジギする兵士達。「近づいてはなりませぬ、ヒミメ王女!」グモが大仰に両手を突き出した。「地上より来たりし邪悪な暗殺者ですぞ!」「それはお前の個人的見解です」王女はぴしゃりと返した。

 ヒミメ王女の背後から顔を出した少年に、ハヤトは瞠目した。「アッ! 君はさっきの」「君とは何だ! ケン殿下に対して無礼な!」ひとり激高するグモをよそに、少年はハヤトをじっと見つめ……「やっぱりそうだ」にっこりと破顔した。「姉上、お祖父様! 私を助けてくれたのはこの人です!」

「まことか、ケンよ」王の問いに頷くケン王子。「ホラ御覧なさい。ろくに詮議もせず死刑とは、明らかな越権行為です」ヒミメ王女がグモを睨む。「これは心外な。ワシはケン殿下の御為を思えばこそ」「危うく弟の恩人を死なせるところだったのですよ。お前はそんなに人の血が見たいのですか!」

「もうよい。この者を解放せよ」カン王が二人を遮った。「……御意」グモは苦虫顔を隠そうともせず、兵士長に顎で命じた。ガシャン。鉄格子が開錠され、ハヤトはおそるおそる牢を出た。ドレスの裾を摘んだ王女がオジギする。「ドーモ。モンゴー王国王女、ヒミメです」

 老王は頭を垂れた。「臣下の非礼を謝罪する。孫の恩人よ」「あ、いえ、気にしてませんから」ハヤトはどぎまぎとオジギした。「ドーモ。ゲン・ハヤトです」「ついて来られよ、ハヤト=サン。国賓としてオモテナシしよう」カン王が踵を返し、ヒミメ王女が微笑む。「地上のお話、聞かせてくださいな」

 ハヤトの脳裏に仲間達の姿が一瞬よぎったが……若い好奇心がそれを搔き消した。「エット……じゃあちょっとだけ」歩き出すハヤトの足元に、ケン王子が野生小動物めいて纏わりつく。「ドーモ、ケン王子です! ガバナスって何なの?」「エッそこから? ていうかキミ、どうして黙って行っちゃったのさ」

「ひとつ! 王国の存在を地上人に知られるべからず!」ケン王子は小さな拳で胸を叩いた。誇らしげに口にする文言は、古き掟の一節か。「……なんだけど、知られちゃったからもういいかなって」「ナルホド」ハヤトは思わず噴き出した。「許す。やむなき仕儀である」カン王が頷く。

「そうだな、ガバナスっていうのは……」「あいつらが?……」「なんと、そのような者共が……」「まあ恐ろしい……」ハヤトと王族の一行はなごやかに語らいながら歩き去り、兵士達が足並みを揃えて続いた。ひとりその場に残ったグモは、薄暗い静寂の中で毒づいた。「……じゃじゃ馬の小面憎い王女めが!」その時。

(地底王国に奸臣ありか。面白い)

 背後から何者かの声なき声。「何奴!」ぎくりと振り向いたグモが誰何した。今の発言を臣下に聞かれれば身の破滅だ……しかし、岩壁には自身の影が映るのみ。ギョロギョロと周囲を見回し、「フン。空耳か」グモは脇道へ潜り込んだ。「今日の公務は仕舞いじゃ。やる気が失せたわ」

 貴族専用居住区への近道を歩くグモを、天井のバイオ発電ランプが等間隔に照らす。前後にうつろう影の中で、声なき会話が続いていた。(こいつが適任だろう)(少々愚鈍に過ぎぬか)(いや、むしろその方が良い。俺は賛成だ)(2対1か、決まりだな。団長閣下に連絡するぞ)((異存なし))

【#3へ続く】

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