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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【サクリファイス・トゥ・ザ・デモンズ・パレス】

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【#3】←

◆#4◆

 パチパチと焚火が爆ぜ、ウシミツ・アワーの夜空に火の粉を巻き上げる。デナス湖畔に残された第207礼拝堂───今は近隣住民の漁師小屋だ───の前で、バルーは炎に両手を翳していた。リュウとハヤトが闇の中から現れた。「オツカレ。様子はどうだ」「今ンところ」「異常なしさ」二人は笑った。

 バルーの傍らに腰を下ろしかけたハヤトが、何者かの気配を感じて身構えた。「誰だ!」「待て待て、慌てンな」その肩をリュウが引き戻す。「ハナチャンだろ、出て来いよ」呼びかけに違わず、立ち木の陰から姿を見せたのはハナ少女だった。手にしたバスケットから覗く宇宙フルーツ。昼食の残りだ。

「私、ソフィア=サンが心配で、眠れなくて……悪かったかしら」「構わないよ。一緒に見張ろう」「ウレシイ!」ハヤトの言葉に駆け寄るハナ。その時!「待ちな! イヤーッ!」リュウが叫びざまに、頭上へ宇宙スリケンを投擲した。「グワーッ!」立木の枝に潜んでいたニンジャトルーパーが落下!

「「イヤーッ!」」BOOOM! ハヤトとリュウの眼前で砂浜が爆ぜ、新たなトルーパーが飛び出した。ドトン・アンブッシュ!「「イヤーッ!」」二人が伸縮刀で斬り結ぶ。(((マークされていた事に気付かなんだか、ウカツ者め)))(うるせェ黙ってろ!)リュウがニューロン内でゲン・シンに毒づいた。

 SLAM!「「「イヤーッ!」」」礼拝堂の木扉が開け放たれ、潜伏トルーパーが溢れ出した。「WRAAAAGH!」ハナを背後に庇いつつ、バルーは先頭トルーパーの脳天に宇宙ストーンアックスを叩き込んだ。「アバーッ!」フルフェイスメンポもろとも頭蓋骨陥没!

「ARRRGH!」「グワーッ!」「WRAAAGH!」「グワーッ!」宇宙猿人が石刃を振るうたび、トルーパーがラグドールめいて左右に吹っ飛ぶ。シンプルなニューロンをフル回転させて、バルーは状況判断した。「こっちだ!」「ハイ!」無人となった礼拝堂へ飛び込み、奥へと進む。

 ソーラー充電式のボンボリ・ライトが室内を微かに照らしていた。(イヤーッ!)(グワーッ!)外のイクサの様子が壁越しに聞こえる。「ダイジョブかしら」「なあに、心配無用さ。二人とも強いからな」バルーがハナに笑顔を向けた時、バタム! 木製の扉がひとりでに閉まった。

「誰だ!」「クックックッ」ZMZMZM……扉に落ちる影の中から、骸骨装束の宇宙ニンジャが滲み出た。「ドーモ、ヤミビトです。イヤーッ!」アイサツ終了と同時にヤミビトの右手が閃き、宇宙クナイ・ダートがバルーの影を突き通す!「グワーッ!?」五体が硬直!「う、動けねえ……ナンデ?」

「アイエエエエ!」「ハナチャン!? クソッ!」少女の悲鳴を聞きつけたリュウはトルーパーを斬り捨て、SLAM! 木扉を蹴破って礼拝堂にエントリーした。だが次の瞬間!「イヤーッ!」ヤミビトの右手が閃き、宇宙クナイ・ダートがリュウの影を突き通す!「グワーッ!?」五体が硬直!

「リュウ=サン! 大丈夫?」続いてエントリーしたハヤトは礼拝堂の暗がりに目を凝らし、宇宙コウモリめいた異相を見出した。「お前は!」だが次の瞬間!「イヤーッ!」伸縮刀を構えるより早くヤミビトの右手が閃き、宇宙クナイ・ダートがハヤトの影を突き通す!「グワーッ!?」五体が硬直!

「クックックッ」身動きならぬ宇宙の男達に見せつけるように、ヤミビトはハナの髪を掴み上げた。「ンアーッ!」「ヤメロ! 子供に手を出すんじゃねェ!」リュウの目が怒りに燃える。「ならば言え、ソフィア=サンの隠れ場所を! ベイン・オブ・ガバナスの貴様らなら知っているはず!」

「誰が教えるか!」ハヤトが叫んだ。「ではガキを殺す」ヤミビトの手に力が籠る。「ンアーッ!」「「「ハナチャン!」」」「私は死んでもいいわ! 言っちゃダメ!」その時。キュラキュラキュラ!『タイヘン、タイヘン』車輪走行でその場に飛び込んで来たのは、周辺監視の任についていたトントだ。

『ミンナ、シッテルカ。ソフィア=サンノ、フネガ、ミズウミノ、ソコデ』「なッ……」バルーが絶句した。「ARRRGH! このトンマ! ポンコツ!」硬直したまま怒鳴り散らす宇宙猿人の傍らで、「ほほう」ヤミビトの目が細まった。『ピガーッ! ガバナス、ニンジャ、ナンデ?』

 ESNRS(電子的宇宙ニンジャリアリティショック)でショート寸前のトントに構わず、ZMZMZM……ヤミビトは壁の影に身を沈めた。反対側の外壁から屋外へ。湖面が白く仄かに明滅している。「ナルホド、湖の底とは実際盲点であったわ……これでもう奴等に用はない」

「すまねェ、ハナチャン!」「早いトコ頼むぜ! GRRRR……」室内ではハナが駆け回り、壁に突き立つクナイを次々と抜いていた。『ワタシガ、ナニカ、ワルイ、コトデモ、シタンデ、ショウカ』「このーッ!」トントのとぼけた電子音声に、自由を取り戻したバルーがストーンアックスを振り上げる。

 BEEPBEEPBEEP! 電子悲鳴の代わりに、トントはけたたましいアラート音を発した。『キケン、キケン』顔面に「EXPLOSIVE」の文字。バルーは鼻をひくつかせた。「火薬の臭いだ!」「逃げろテメェら! イヤーッ!」ハナの身体を抱えたリュウが礼拝堂の窓を破って飛び出す! CRAAAASH!

 KABOOM! 礼拝堂が木っ端微塵に爆発四散した。KABOOOM! KRA-TOOOM!「ハハハハハ!」燃える残骸を前に哄笑するヤミビトの背後には、既にトルーパーの第二陣が整列している。「邪魔者は消えた! ただちに湖底に潜り、生贄を確保せよ!」「「「ヨロコンデー!」」」その時!

「生贄なンざもってのほかだぜ! イヤーッ!」回転ジャンプでエントリーしたのは、真紅の装束に身を包む宇宙ニンジャ。ゴーグルに隠された素顔は判然としない。「銀河の果てからやって来た、正義の味方。ドーモ、ナガレボシです」「ドーモ、ヤミビトです」漆黒の宇宙ニンジャがアイサツを返す。

「うぬがナガレボシ=サンか。ニンジャオフィサーを数人殺した程度で随分と増長しているらしいな」「フーン」ナガレボシの目が細まった。「なら、テメェを殺りゃあ少しはハクがつくかい……」「殺れるものなら殺ってみろ! イヤーッ!」炎に揺らぐナガレボシの影めがけ、ヤミビトが宇宙クナイを投擲!

 KILLIN! ヤジリ状の宇宙スリケンが飛び来たり、クナイを撃ち落とした。「イヤーッ!」回転ジャンプでエントリーしたのは、白銀の装束に身を包む宇宙ニンジャ。ゴーグルに隠された素顔は判然としない。「うぬめは!」「変幻自在に悪を討つ、平和の使者。ドーモ、マボロシです!」

「ドーモ、ヤミビトです。イヤーッ!」アイサツ終了からコンマ1秒後、ヤミビトはクナイ投擲!「イヤーッ!」迎え撃つマボロシは宇宙スリケンを二枚同時投擲! KILLIN! 一枚がクナイを弾き飛ばし、続く一枚が間髪入れずヤミビトの胸板を突き通し……手応えなく貫通して、地面に砂を散らした。

「ダメか!」マボロシが歯噛みした。「バカめ。小手先の不意打ちで、我が《闇》の加護が破れると思ったか」胸の傷を塞がれながら、ヤミビトは鼻で笑った。「お仲間のハヤト=サンの入れ知恵だろうが、無駄な骨折りだったな」ハヤガワリ・プロトコルを順守したマボロシの正体は、99.99%秘匿される。

 ヤミビトの背後にはいつの間にか、トルーパーが数人がかりで巨大なサーチライトを据え付けていた。「当然、俺のシャドウピン・ジツの恐ろしさも聞き及んでいよう」カッ! サーチライトの光が、二人の宇宙ニンジャの影を長く、くっきりと刻む。「その身で存分に味わえ! イヤーッ!」

「「イヤーッ!」」マボロシとナガレボシはジグザグに砂浜を駆け、シャドウピン・ジツを狙うクナイを躱した。「影に気を付けて!」「こっちのセリフだヒヨッコめ!」ナガレボシは走りながらバルーの姿を探した。「AAAGH!」7フィート超の巨躯が少女を肩に担ぎ、闇の奥へ駆けてゆく。

「上等だ、ハナチャンを頼むぜ相棒! イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」バルーに追いすがるニンジャトルーパーの背中に、ナガレボシの宇宙スリケンが次々と命中した。「ナガレボシ=サン!」マボロシが駆け寄る。「ヤミビト=サンは僕に殺らせてくれ!」

「ア? テメェまた調子に乗って……」ナガレボシは言葉を切り、宇宙ゴーグル越しにマボロシの目を見た。青臭い熱狂とも、自罰めいた罪悪感とも異なる覚悟の色を、ナガレボシはその瞳の奥に見出した。「ソフィア=サンを危険な目に遭わせたのは僕だ。だから僕がケジメをつける!」

「……よかろう!」一瞬の逡巡ののち、ナガレボシはマボロシの肩をどやした。「テメェのケツだ、テメェで拭いて来な!」「ハイ!」マボロシが顔を輝かせて走り去る。ナガレボシはそれを見送り、「さァて」不敵な笑みで振り返った。背後にはニンジャソードを構えるトルーパーの一団。

「怯むな! 奴を排除してヤミビト=サンを援護するのだ!」「「「ヨ、ヨロコンデー!」」」上級トルーパーの叱咤で殺到する一団に、「ケッ」ナガレボシは唾を吐き捨て、ギリギリと上半身を捻った。ヒサツ・ワザの予備動作だ!「百年早いンだよ! イイイヤアアアアァーッ!」

 ナガレボシの五体は真紅の竜巻めいて高速回転を始め、その中から無数の宇宙スリケンが放たれた。ミダレ・ウチ・シューティング!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」トルーパーがバタバタと倒れ伏す間に、マボロシはヤミビトへ肉薄した。「僕が相手だ、ヤミビト=サン!」

「片腹痛いわ」ヤミビトは異形の口を歪めて笑い、片手を上げて合図した。サーチライトトルーパーが光をマボロシに向ける。「イヤーッ! イヤーッ!」影と心臓を狙ってニ連続投擲されたクナイを、マボロシは伸縮刀で叩き落した。「イヤーッ! イヤーッ!」KILLIN! KILLIN!

 宇宙スリケンを投げ返そうとするマボロシ。しかし、「イヤーッ! イヤーッ!」間髪入れず次なる二連続クナイが飛び来たり、反撃のタイミングを掴めない。「イヤーッ! イヤーッ!」KILLIN! KILLIN!「イヤーッ! イヤーッ!」「イヤーッ! イヤーッ!」KILLIN! KILLIN! 防戦一方!

「ハハハハハ! さっきの威勢はどうした! イヤーッ! イヤーッ!」ヤミビトが哄笑しながらクナイを投げ続ける。「イヤーッ! イヤーッ!」KILLIN! KILLIN!「クソッ……!」マボロシは奥歯を食い縛った。己自身の未熟さ、不甲斐なさへの怒りゆえに。

 怒りは火掻き棒めいて、マボロシの若いカラテを燃え上がらせた。キュイイイイ……カラテを過剰供給された刀身の超振動が大気に伝播し、陽炎めいた揺らぎとなって伸びる。「イヤーッ!……エッ?」KILLINKILLIN!クナイを叩き落としたマボロシは、今までと異なる感覚に目を見開いた。

 彼の宇宙ニンジャ視力は見た。第一のクナイを叩き落とした瞬間、刀身が届かぬ第二のクナイまでもが、透明の刃に斬りつけられたかの如く弾け飛ぶさまを。「これは……?」未知の感覚がマボロシのニューロンを連鎖的に発火させ、彼を何らかの洞察へ導かんとする!

「ボサッとすンな!」ニンジャトルーパーを袈裟懸けに斬り下ろしながら、ナガレボシが叫んだ。「なんか掴めそうな時はガッと行きゃいいンだよ! 俺ァそうやって生き延びて来たぜ!」のけぞるトルーパーを蹴倒し、背後の新手の喉笛を掻き切る!「後先考えンな! ヤッチマエ―!」

「ハイ! イヤーッ!」マボロシはクナイを躱して高々と跳躍した。宇宙体操選手めいて空中で身を捻り、懐からヒカリ・ダマを投擲! KBAM!「グワーッ!」至近距離の閃光爆発に見舞われ、ヤミビトは顔を覆って苦悶した。マボロシの全身に宇宙ニンジャアドレナリンが駆け巡る!

 泥めいて鈍化する時間の中、マボロシは伸縮刀を両手で掴み、高々と頭上に振り上げた。キュイイイイ……! 渾身のカラテを注ぎ込まれた刀身が唸りをあげ、可聴域を突破する。ヤミビトめがけて落下しながら、マボロシはほとんど無意識に叫んでいた。新たなヒサツ・ワザの名を!

「ハヤテ・キリ・スラッシュ! イイイイイヤアアアーッ!」

 ……ヒカリ・ダマの閃光が薄れた時、着地したマボロシは、ヤミビトの前に跪くようにザンシンしていた。伸縮刀の切っ先は相手に掠りもせず、手前の空間を断ち割ったに過ぎない。しかし、「ア……ア……」呻くヤミビトの正中線には、確かに斬撃の跡が刻まれていた。定規で引かれたが如く垂直に。

「グワアアアアーッ!」両断された漆黒の身体が、正中線からぱっくりと割れた。「上等だ!」最後のトルーパーの死体を蹴り転がし、ナガレボシは笑った。マボロシの伸縮刀が3メートル近い陽炎の刃を形成し、ヤミビトを真っ向から斬り下ろすさまを、彼の宇宙ニンジャ視力はしかと見届けていた。

 だが次の瞬間。バツン! 切断面から《闇》が迸り、無数の触手となってヤミビトの左半身と右半身を繋ぎ止めた。「オ……オノ、れ……許サんぞ、マボロシ=サン……!」縮んだ触手が逆回転めいて肉体を再接着する。「クソッ、オバケ野郎が!」宇宙スリケンを構えるナガレボシを、(((待て)))ゲン・シンが制した。

 反撃に転じようとしたヤミビトは、「ヌゥッ!?」そのままの姿勢で狼狽した。両断された瞬間に取り落としたクナイが、足元に突き立っている……彼自身の影の中に!「何をしている貴様ら! ライトを消せーッ!」ヤミビトの叫びに応えるトルーパーはいない。ナガレボシが全員殺したからだ!

「……」マボロシは決断的表情で立ち上がり、半身になって構えた。腰を落とし、伸縮刀を持つ右腕を前に伸ばす。宇宙フェンシングめいて。「イイイイイ……」キィィィィィン……カラテを注入されたスティック状の刀身が大気を震わせ、再び不可視の刃を伸ばす!「イイイイイヤアアアーッ!」

 ハヤテ・キリ・スラッシュ! 宇宙ニンジャの本能が命ずるまま、マボロシは手首を蛇のようにしならせ、無数の小斬撃を繰り出した。ジュッテめいて短い伸縮刀のストロークは非物理刀身の末端で拡大され、実体剣では到底不可能な速度でヤミビトの身体を斬り苛む! 

「《闇》よ!」ヤミビトは絶叫した。「この身を光から護れ! イヤーッ!」全身に漲ったカラテを糧に、《闇》がヤミビトの傷を瞬時に塞ぐ!「イィーヤヤヤヤヤ!」マボロシの斬撃が速度を増す!「させぬわ! ヌゥゥーッ!」ヤミビトはさらなる回復ブーストで抗う!

「イィーヤヤヤヤヤ!」「ヌゥゥーッ!」「「イィーヤヤヤヤヤヤヤ!」「ヌゥゥゥーッ!」「イィーヤヤヤヤヤヤヤヤ!」「ヌゥゥゥゥーッ!」

 高速斬撃と高速再生の膠着状態を、ナガレボシは油断なく見守っていた。(((手を出してはならぬ)))ゲン・シンの声がニューロンに響く。(((弟子の成長を信じるのも、センセイの責務ぞ)))(……)師の声に言い返す代わりに、ナガレボシは低く呟いた。「キアイ見せてみな、マボロシ=サン」

「イィーヤヤヤヤヤヤヤヤ!」「ヌゥゥゥゥーッ!」「イィーヤヤヤヤヤヤヤヤァァーッ!」「ヌ……グ……グワァァーーーッ!」マボロシの斬撃が回復速度を凌駕する瞬間が、ついに訪れた。「グワァァァーーーッ!」ヤミビトの五体に、塞ぎ切れぬ裂傷がみるみる数を増してゆく!

 無数の傷から《闇》が染み出し、黒光りするアメーバめいてのたうちながら、ヤミビトの全身に広がり始めた。「待て! ヤメロ!」ヤミビトがあげた恐怖の声は、マボロシに向けてのものではなかった。「俺の中に戻れ! お前の居場所はこちら側では……ゴボーッ!」塞がれる目、鼻、口!

「グワーッ!」ニューロンを抉られるような感覚に、マボロシはよろめいた。流れる鼻血もそのままに、左手の指をこめかみに当て、人ならざる思考パルスの奔流に抗う。それは地面に倒れてのたうつヤミビトから……否、ヤミビトの五体を覆い尽くす《闇》から放たれていた。

 伝わってくるのは光に灼かれる苦痛と、故郷を遠く離れた地で生存の基盤を失う恐怖。「ゴボボーッ!」異次元より来たりし原始知性体は完全なるパニックに陥り、断末魔に痙攣するヤミビトの三次元肉体を内外から浸食していった。「ゴボッ! ゴボボッ! ゴボボボボーッ!」

「サヨナラ!」ヤミビトは爆発四散した。撒き散らされた《闇》の飛沫は、マボロシに届く前にサーチライトの光で蒸発した。残りはボロ布と化したガイコツ装束の下に潜り込み、地中へ……否、遥か銀河の彼方、光なき母星へ帰還しようともがきながら、むなしく雲散霧消していった。

「ハァーッ、ハァーッ……!」肩で息をするマボロシの背中を、ナガレボシが叩いた。「一皮むけたな」「……アリガト」マボロシは己を強いて背筋を伸ばし、明滅する湖面に目をやった。「僕たちのイクサを何も知らずに、ソフィア=サンは眠っているんだね」

「それでいいンだよ。ソフィア=サンには、俺達の命のやり取りを見せたかねェもんな」「ホントだ」マボロシは頷いた。白み始めた空が、デナス湖の向こうに横たわる山脈のシルエットを浮かび上がらせつつあった。「やれやれ、クソ長い夜だったぜ」ナガレボシが笑った。

 リアベ号の乗組員、ハナ、そしてカミジがデナス湖の畔に立ち、目覚めの時を待っていた。山脈の向こうから第15太陽・グローラーが姿を現し、その輝きが湖底に横たわる宇宙帆船を照らし出す。「陽が昇る」光満ちる船室でソフィアが目を開いた。「私の船も、力を取り戻す」

「見て!」ハナが指差す湖面から、宇宙帆船がしめやかに浮上した。マストと光子セイルは完全に復元している。「ソフィア=サン……また会えるかしら」「モチロン!」「なんたって俺達の女神様だもンな」「GRRRR」目を輝かせるハナに、ハヤト、リュウ、バルーが笑った。

 優美な船体が上空でゆっくりと回頭した。ソフィアのアルカイックな微笑が、船窓から垣間見える。「オタッシャデー!」「航海の無事を祈ります!」ハナとハヤトが手を振った。「俺も祈りますぜ! ARRRGH!」バルーが諸手を挙げて飛び跳ねる。トントは顔面に「SEEYOUAGAIN」の文字を表示した。

 FIZZ! 宇宙帆船は三次元空間から消失した。「あれがソフィア=サンの船ですか……彼女には申し訳ないことをした」呟くカミジに、「ちったあ懲りたかい」リュウが皮肉めかして言った。「戦力も準備もまったく不足していました。蛮勇と言わざるを得ません。当分は力を蓄え、機を待ちます」

 カミジは澄んだ目をリュウに向けた。「次にやる時は、ロクセイアもろとも宮殿を爆破します。ガバナスが二度と皇帝宮殿を作らないように」「ハァ?」リュウはカミジの顔をまじまじと見て……笑い出した。「ハハハハハ! 負けたよ。アンタやっぱイカレてるぜ」「恐縮です」カミジが頭を下げた。

 しばしの後。ZZOOOOM……リアベ号は惑星アナリスの大気圏を抜け、宇宙空間へ舞い戻った。操縦桿を握るリュウとハヤト。計器を睨み、宇宙葉巻を燻らせるバルー。トントが顔面に複雑な01演算パターンを表示する。『ツギハ、ドコヘ、ムカウ』「ンー、そうさなァ……」リュウはボキボキと首を鳴らした。

 リアベ号の勇士達は淡々と、不毛なルーティンワークめいて操船を続けた。だが彼らの胸の裡では、ソフィアを守護して戦った一晩の記憶が、ひとつの灯となって静かに燃えているのだった。勝利の可能性すら定かならぬ戦いの道を、仄かに照らし出す松明めいて。

 ZZZOOOOOMMM……武骨な船体は速度を上げ、エテルの闇へ消えていった。


【サクリファイス・トゥ・ザ・デモンズ・パレス】終わり


マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第9話「ガバナス悪魔の城」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

礼拝堂が多い:一度作った立体物を異なるシチュエーションで使い回すのは特撮TVショウの常だが、本エピソードでは「レジスタンスのアジト」と「ヤミビトに爆破される湖畔の建物」が同じ礼拝堂のミニチュアで表現されている(ミニチュアの初出は第7話「星空に輝く友情」)。見た目いっしょの建造物が1エピソードにふたつ出てくるわけで、正直なところ初見時はかなり脳が混乱した(実は同じ建物なのでは? と一瞬思ったが、さらに混乱したので却下した)。そこで、統一規格めいた礼拝堂があちこちに残されている理由をひねり出した次第である。

シャドウピン・ジツ:オリジナル版では「ヤミビト・影縛り」と呼ばれている。自分の影にもジツが効いてしまう描写は、「ニンジャスレイヤー」で同様のジツを使う人気ニンジャ、シャドウウィーヴからの引用。

ハヤテ・キリ・スラッシュ:この回で初めて「まぼろし・疾風はやて斬り」が披露されるが、突然新たな必殺技がPOPした理由は判然とせず(70年代特撮あるあるだ)、普通の斬撃と何が違うかも実はよくわからない。思い切ってそこらへんまるっと捏造しました。


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