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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【サクリファイス・トゥ・ザ・デモンズ・パレス】

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◆#3◆

「イヤーッ!」ZZOOOOOM!『ピガーッ!』「ARRRGH!」

 リアベ号は船体を強引にバレルロールさせ、太陽の方向から突進してきた飛行物体を間一髪で躱した。「今のは何だ!」操縦桿を戻しながらリュウが叫んだ。『カクダイ、スル』ピボッ。トントが直結操作で船尾カメラを起動、倍率を上げる。

 モニタ上に拡大されたのは、光のパーティクルを纏ったロケットの船尾。トントの顔面に「??」の文字が点滅した。『ハヤトヲ、ノセタ、ロケット、ダ』「何だと?」副操縦席のバルーが振り向いた。「話が違うぞポンコツ! 太陽に突っ込むどころかアナリスへ戻ってるじゃねえか!」

『ナゼ、モドッテ、イクカ、トント、ワカラン』「わからんで済むか!」ドロイドと宇宙猿人が揉める中、パーティクルは輝きを増し……FIZZ! ロケットもろとも消失した。『ピガッ!?』「アイエッ!? どういうこったい」画面にかじりつく二人にリュウが叫んだ。「ほっとけ! それよりこっちが一大事だぜ!」

 KABOOM! KABOOOM! リュウが指差す前方の宇宙空間に、赤黒い爆炎が次々と広がっていた。その只中で宇宙オリガミの小舟めいて翻弄されるのは……「AAAARGH! ソフィア=サンの船だ!」バルーが叫んだ時、リュウは既に主操縦席を飛び出していた。「行くぜ相棒!」「ガッテン!」

 リュウとバルーは中央船室の左右に伸びた通路を駆け、その先に据え付けられたパイロットシートに身を収めた。『ルスハ、マカセト、ケ』ガゴンプシュー……操船を引き継いだトントが、リアべ号両翼の係留アームを展開させた。先端には2機のハンドメイド宇宙戦闘機。二人がコックピットで発進操作を進める。

「「Blast off!」」KBAMKBAM! 炸裂するエクスプロシブ・ボルトが、2機を弾丸めいて射ち出した。リュウは即座にエンジンをレッドゾーンに叩き込み、宇宙ニンジャ耐G力の限界まで加速した。DOOOM!「ゴボッ……俺のソフィア=サンだ。テメェらには渡さねェよ!」血混じりの唾を吐き捨てる。

「攻撃やめーッ!」宇宙帆船のシールドが消失した瞬間を見逃さず、コーガーが号令を発した。KABOOOM! 全ミサイルがリモート自爆。静寂を取り戻したエテルの中を漂う船は、瀕死の宇宙白鳥のごとし。イーガーはいそいそとブリッジを後にした。「女は俺が連れてくるぜ」「好きにせい」

「未来は確定した……私の船は、眠る」俯くソフィアの美貌に影が落ちた。DOOMDOOMDOOM! 巨大戦艦から次々と飛び出したのは、G6-Ⅱ型宇宙戦闘機「シュート・ガバナス」の大編隊。先陣を切るのはイーガー機だ。「左舷カタパルトに誘導せよ! 俺より先に乗船した奴は軍法会議にかけるぞ!」

 BEEPBEEP。「何だ、この忙しい時に」警告音に眉を顰め、イーガーは航法UNIXを覗き込んだ。レーダー画面上の光点がワイヤーフレームに展開し、宇宙戦闘機の三面図を描き出す。『ベイン・オブ・ガバナス搭載機A』。その文字列を見た瞬間、ドクン! イーガーの心臓が強く打った。

「イヤーッ!」宇宙ニンジャアドレナリンによって鈍化する時間の中、イーガーは殺人的速度で己の機体を上昇させた。船外モニタを下方に切り替えた時には、リュウ機は既に編隊の遥か後方。その主翼がプラズマ光を放ち、イーガーが置き去りにした僚機の間に残像の線を引いている……そして!

 KABOOM! KABOOM! KABOOOM! シュート・ガバナスが一斉に爆発四散した。主翼をプラズマ・カタナと化して敵機を斬るリュウ機のヒサツ・ワザ、ライトニング・キリだ!「WRAAAGH!」すかさずバルー機が殺到し、追い討ちめいてパルスレーザーを掃射する! ZAPZAPZAP!

 KABOOM! KABOOM! KABOOOM! さらに数機が爆発四散!「リュウ=サン、バルー=サン!」顔を上げるソフィアの瞳が光を取り戻した。ポロンポロンポロン……コンソールが電子音を奏でる。「ここは任せな!」「どうかご無事で!」宙域を離れる宇宙帆船に、リュウとバルーは口々に叫んだ。

『フォーメーション再編成不能!』『副長閣下、ご命令を!』『アイエエエ!』乱れ飛ぶガバナス編隊の向こうで、ソフィアの船が遠ざかってゆく。「邪魔をするなクソ共が!」僚機に行く手を阻まれ、イーガーは苛立ちのままトリガーに指をかけた。「利敵行為とみなして即時処刑するぞ!」

 ゴウンゴウンゴウン……グラン・ガバナスの巨体が前方を塞ぐ。「どけ兄者! 俺はまだやれる!」『指揮下の部隊を手にかけてもか、副長』イーガーの叫びと裏腹に、コーガーの声は沈鬱だった。『もうよい。オヌシは帰投して頭を冷やせ』ブツン。通信終了。「……アーッ!」イーガーは操縦桿を殴りつけた。

「大戦艦が来るぜ、リュウ!」「しゃあねェ。こっちも退け時だ」ガゴンプシュー……2機はリアベ号に再合体した。「ソフィア=サンはどうした!」操縦室に駆け込んだリュウが叫ぶまでもなく、トントはUNIX画面にAI予想航路図を表示済みだ。『アナリスニ、ムカッテ、イル』

「よォし急ぐぜ俺達も!」「おうよ!」ZOOOOM! リュウとバルーが操縦桿を傾け、リアベ号を急速反転させた。グラン・ガバナスも転進を図るが、全長数宇宙キロに及ぶ巨艦の動きは致命的に鈍い。「彼奴等の反応を追え! 逃がしてはならぬ!」宇宙ニンジャヘルムの下、コーガーのこめかみに血管が浮く。

 キキーカリカリカリ。チーフクルーはサイバネ補助脳で状況演算を行い、『申し訳ございません』しめやかにドゲザモーションを繰り出した。『ダークマター粒子がレーダーをジャミングしております。アナリス宙域に入るまではトレース可能ですが、それ以降の追跡精度は65535分の1に低下する見込みです』

「オノレ、いま一歩のところを……!」コーガーの怒気がブリッジに漲り、『ピガッ』『ピガガッ』チーフ以下のサイバネクルー間に波紋めいて痙攣が広がった。「アナリスのヤミビト=サンに伝えよ! 草の根分けてもソフィア=サンを探し出せとなーッ!」『ヨ、ヨロコンデー……ピガッ』『ピガガッ……!』

「バッカヤロー!」「グワーッ!」

 リュウに頬桁を張られたハヤトが砂浜に転がった。ここは第2惑星アナリス、デナス湖のほとり。着水した死刑ロケットが、湖面から横倒しの半身を覗かせている。「テメェのウカツでソフィア=サンに何かあってみろ! ケジメの二本や三本じゃ済まさねェかンな!」

「ゴメンナサイ!」ハヤトは跳ね起きざまに頭を下げた。(((そのくらいにせい。若気の至りを許すのもセンパイの度量ぞ)))ニューロンに響くゲン・シンの声が、逆にリュウをいきり立たせた。「うるせェ! こういう甘ったれたガキにはな、一度ガツンと……」「マッテ、リュウ=サン!」ハナ少女が駆け寄る。

「お、おう」リュウは気まずげに拳を引っ込めた。「どうよ、カミジ=サン達の様子は」「礼拝堂で休んでる。ダイジョブ、みんな大した怪我じゃないわ」ハナが微笑んだ。「カミジ小父さんから伝言よ。ハヤト=サンを叱らないであげて。悪いのは自分だからって」「カーッ!」うんざりと天を仰ぐリュウ。

「どいつもこいつもハヤト=サンを甘やかしやがって! 尻拭いする身にもなれッてンだよなァ―ッ!」「……」リアクションに困る少女に、「あのな、ハナチャン」バルーはつとめて穏やかに語りかけた。「さっき通信で聞いた話だが……確かに見たんだな? 例の帆船が湖に沈むところをよ」

「ハイ」ハナは頷いた。彼女の報告を受けた地上のレジスタンスがリアベ号に連絡を取り、取るものもとりあえずリュウ達が駆けつけた格好だ。「湖のお水で食器を洗ってたら、目の前が金色に光って、あのロケットが現れたの。そのすぐ後に、ソフィア=サンのお船が……」胸の前でうっとりと指を組む。

「私、夢を見てるのかと思ったわ。おとぎ話のオヒメサマが降りてきたみたいで」「オヒメサマは良かったな」リュウは笑った。「いやいや、実際ソフィア=サンは俺達のオヒメサマ……いや、女神様みたいなモンよ」大真面目に頷くバルーの背後で、「見えた!」ハヤトが立ち上がった。

「ア? 何だテメェいきなり」リュウが振り返ると、ハヤトはこめかみに指を当て、異様な目つきで水面を見つめていた。「ソフィア=サンの船だ! 湖の底に!」「GRRRR……こりゃ例のアレだぜ」「だな」バルーとリュウは顔を見合わせた。時折ハヤトが発現させる超自然的感知能力だ。

「ソフィア=サーン!」メインマストを失って湖底に沈む宇宙帆船のビジョンに、ハヤトは両手をメガホンにして叫んだ。「WRAAAGH! ご無事ですかーッ! 」バルーの咆哮が続く。リュウはバシャバシャと湖に踏み入り、少しでもソフィアに近づこうとした。「貴女のリュウですよーッ!」

 一同が見守る中……深い色を湛える水面の上に、宇宙美女のホロ映像が二重露光めいて現れた。『ドーモ、ソフィアです』「ドーモ、リュウです! いやァ無事でよかった!」リュウがハヤトの後頭部を掴み、無理やりにオジギさせる。「このアホウが世話ンなっちまって! ホレ、礼を言え礼を!」

「ド、ドーモ、ゲン・ハヤトです。さっきはスミマセン」「ドーモ、バルーです」「ハナです。アノ……ダイジョブですか、ソフィア=サン」「お気遣い感謝します」微笑み返すソフィアの美貌には、しかし隠し切れぬ翳りがあった。「この船は私の命……今は傷つき、疲れ、眠りが必要なのです」

「船が眠る、ねェ」リュウは首を捻った。「船が滅びる時、私もこの宇宙から消失します。それが私達の宇宙の法則」「アノ、それって」ハヤトがおそるおそる口を挟む。「ソフィア=サンは別の宇宙から来た……ってコト?」「ハイ。この船をアンカーにして存在格を下げ、三次元宇宙に顕現しています」

「ヘーェ。何だかよくわからんが、またどういう事情で」「ロクセイアを止めるために。それが私の使命であり、宿命」ソフィアは厳かな口調でリュウに答えた。「だったら俺達に任せて下さいよ! ガバナスの連中を片っ端からブッ殺して……ンだよ」ジュー・ウェアの袖をバルーが引っ張る。「今する話かよ」

「で、貴女とその船はいつまで眠らにゃならんのですかい」バルーはソフィアに尋ねた。「日が沈み、また日が昇るまで。破壊前の時間軸に戻るには、それだけの時を要するのです」「オーケー。上等だ」リュウが笑った。「要は今夜ひと晩、ガバナスの連中を近づけなけりゃいいンだろ?」

「ヨロシクオネガイシマス」ソフィアのホロ映像が薄れ始めた。「安心して休んでください!」「バッチリ俺達がお守りします!」「WRAAAGH!」宇宙の男達が叫ぶ中、太陽が山脈の向こうに沈んでゆく。光を失った船室の石棺めいたベッドに横たわり、ソフィアは目を閉じた。彼女もまた眠るのだ。

【#4へ続く】


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