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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【サクリファイス・トゥ・ザ・デモンズ・パレス】

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◆#2◆

 ウーウーウーウーウー……ロクセイア皇帝宮殿の広大なイミテイション庭園に防空サイレンが響き渡った。「管制空域に未確認飛行物体!」「警戒レベル3!」フルフェイスメンポの下級兵士・ニンジャトルーパーが、宇宙プラスチック灌木の間を行き交う。

 原色フェイク花壇の陰に隠れ、レジスタンス一行がその様子を伺っていた。先頭のハヤトはちらりと空を見上げ、腕時計型宇宙IRC通信機に囁いた。「モシモシ、トント=サン。応答して!」上空では銀色の円盤型スペースクラフトが旋回し、地上の兵士達にその姿を見せつけている。

『コチラ、スペース・ソーサー。ドーゾ』ピボッ。円盤のコックピットで、万能ドロイド・トントが球形の頭部を回転させた。『ガバナスの様子はどう? 僕ら気付かれてない?』『ゲンザイノ、トコロ、イジョウ、ナシ』顔面LEDプレートに「NOPROBLEM」の文字列が流れる。『了解。引き続き陽動ヨロシク』

 ハヤトは通信を切り、円盤に気を取られている歩哨トルーパーに忍び寄った。「イヤーッ!」「グワーッ!」ジュッテめいた宇宙ニンジャ伸縮刀で背中から心臓を突き通し、くずおれる身体をカミジが横たえた。走る二人にレジスタンスが続く。「急げ!」「ムーヴムーヴムーヴ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」ハヤトに羽交い絞めにされた歩哨トルーパーのみぞおちに、「イヤーッ!」カミジが宇宙ライフルの台座を叩き込んだ。「オゴーッ!」嘔吐失神!「裏へ回ろう」「ハイ!」走る二人にレジスタンスが続く。「急げ!」「ムーヴムーヴムーヴ!」

 ゴンゴンゴンゴン……本殿の傍らに聳える対空監視塔の砲台が、巨大宇宙カルーセルめいて回転を始めた。DOOMDOOMDOOM! 放射状の砲身が次々と火を吐き、スペース・ソーサーを爆発で揺さぶる。『トント、アヤウシ。タイキャク、タイキャク』ドロイドは直結操縦で機体を反転させた。

「アリガト! あとは僕らでやるよ!」走りながら通信機に叫ぶハヤトの姿を、監視塔の窓から宇宙ニンジャ視力で見下ろす者があった。ニンジャアーミー諜報部の長・クノーイ。紫ラメ色の装束に包まれたバストは豊満である。「いい餌が手に入りそうね」女宇宙ニンジャは赤い唇を歪めて笑った。

 バシャバシャと水を跳ね、ハヤト達は宮殿裏手の浅い水路を渡った。「イヤーッ!」「グワーッ!」トラースキックで巡回トルーパーを蹴り倒したハヤトはカラテを構え……「アレッ?」不審げに周囲を見回した。「どうしました」「おかしいよカミジ=サン。こいつの他に見張りが誰もいない」

「好都合です。このまま潜入して、地下弾薬庫にバクチクを仕掛けましょう」「いや、そうじゃなくて……」「行くぞ! 今こそ抵抗の意思を示す時!」カミジが拳を突き上げた。「宮殿爆破!」「キンボシヤッター!」「歴史に名が残る!」「ウオオーッ!」興奮状態のレジスタンスが駆け出す!

「待ってみんな! 落ち着いて!」もはやハヤトに耳を貸す者はいない。熱狂のまま暴徒めいて走り去る一団に取り残されて、若き宇宙ニンジャはその場に立ち尽くした。しばしの後、「……アーッ、もう!」胸中に沸く不安を押し殺すように叫び、ヤバレカバレめいて後を追う。

 ハヤトがようやく彼らと合流できたのは、宇宙コンクリートで築かれた巨大ゲートの前だった。本殿に通じる地下通路の入口。今回の作戦目標だ。しかし今、レジスタンス達の顔面は一様に蒼白となり、こめかみには脂汗が流れていた。「カミジ=サン……?」ハヤトは訝しんだ。

 一同の視線の先、宇宙コンクリートの壁面に、何者かの影が落ちていた。その場の誰のものでもない影が。頭部の両脇……地球型人類なら耳のあるべき位置に、宇宙コウモリめいた小さな翼が生えている。「クックックッ」異形のシルエットがくぐもった笑い声をあげた。

「影が……影が笑っている」「下がって!」よろめくカミジを庇うように、ハヤトは伸縮刀を構えた。「影か。クックックッ……惰弱な単語よ。俺の故郷では何の意味も持たぬ」笑い声の主が嘯いた。ZMZMZM……人型の闇が盛り上がり、骸骨装束の宇宙ニンジャが三次元空間に実体化する。

「ガバナスのニンジャオフィサーか!」「然り。ドーモ、ヤミビトです」コウモリ耳の異星人がハヤトにオジギした。その皮膚は装束同様に黒く、体毛は一本もない。「闇の惑星ブラスに生まれながら、光ある世界で帝国の走狗に甘んじる者。誇りを捨てた暗黒の使徒……それが俺よ」

「ドーモ、ゲン・ハヤトです。イヤーッ!」アイサツを返しざま、ハヤトはヤジリ状の宇宙スリケンを投擲した。しかし、ナムサン! スリケンはヤミビトの身体を何の抵抗もなく通過し、KILLIN! 宇宙コンクリートの壁に空しく跳ね返ったではないか!「アイエッ!?」「ククク……ハハハハハ!」

 ハヤトの目には、哄笑するヤミビトの身体が二重露光めいて透き通り、宇宙スリケンが擦り抜けたようにすら見えた。超自然の力がもたらす錯視か。「笑止! 体内に《闇》を飼う俺を、光の武器で殺そうとは」ヤミビトの胸からアメーバめいた暗黒物質がザワザワと滲み出し、装束に空いた穴を塞いでゆく。

「帝国に屈せぬ愚か者ども。身の程を知るがいい! イヤーッ!」ヤミビトが無造作に右手を振った瞬間、「「「「「グワーッ!」」」」」ハヤトとレジスタンスはその場で彫像めいて硬直した。宇宙クナイ・ダートが地面に突き立ち、彼らの影を縫い留めている!

「これが俺のシャドウピン・ジツだ。貴様らはもはや指一本動かせない」牙を剥き出しにした異形の口で、ヤミビトは笑った。「光の下でのうのうと生きる者の自由を奪い、存分に恐怖を与えて殺す。その瞬間のみ、俺の魂は僅かな安息を得るのだ」「クソッ……!」ハヤトが不自然な姿勢で歯噛みする。

「ドーモ、ゲン・ハヤト=サン。ニンジャアーミー副長・イーガーです」クノーイとトルーパーの一団を従えたイーガーが現れ、勝ち誇るようにアイサツした。「でかしたぞ、ヤミビト=サン」「我が力をもってすれば児戯も同然。賞賛には及びませぬ」「可愛げのない奴め」イーガーは鼻を鳴らした。

「罠だったのか!」「いかにも」イーガーはハヤトの頬をニンジャソードでピタピタと叩いた。「レジスタンス狙いの罠に、とんだ大物が掛かりおったわ」「ますますソフィア=サンをおびき寄せ易くなりましたね、副長閣下」クノーイの言葉に、「何だって?」ハヤトは目を剥いた。「彼女をどうする気だ!」

「これから死ぬ貴様の知った事か」イーガー達はニヤニヤと後ずさった。クノーイが懐からリモコンを取り出し、ボタンを押す。ZOOOM! 鋼鉄カプセルがハヤト達の頭上に覆い被さった。「「「「「グワーッ!」」」」」「ハハハハ! 貴様ら全員、太陽投棄焼却刑だ!」イーガーが哄笑した。

 DOOOOM! 宮殿敷地から離床したロケットの先端には……ナムサン! ハヤトとレジスタンスを閉じ込めた弾頭型のカプセルが据え付けられていた!「トント=サン、応答して!」カプセル内のハヤトが通信機に叫んだ。「このままじゃみんな太陽に焼かれてオダブツだ! タスケテ!」

『オマエハ、ナニヲ、イッテ、イル』スペース・ソーサーのトントが船外を見やり、『ピガッ!?』急上昇するロケットの姿に電子的悲鳴をあげた。『ト……=サン!…何…か…てく…ーッ!』ハヤトからの信号がみるみる弱まり、ノイズに埋もれてゆく! 

 ピボボボ、ピボボボ。顔面LEDプレートをせわしなくUNIX点滅させて、トントは状況演算を行った。現状から導き出される救出可能性は……65535分の1!『ピガーッ!』球形の頭部が狂ったように回転!『リュウ、リュウ、タイヘン。ハヤトガ、ハヤトガ、ツカマッ、タ』

「案の定だぜ」礼拝堂のリュウが、宇宙フルーツを咀嚼しながら腕時計型IRCにぼやいた。「まァ待ってな、リアベ号でちょいと宮殿を引っ搔き回してやるからよ。ハヤト=サンのワザマエならその隙に……」『ロケットデ、タイヨウニ、ウチアゲ、ラレタ』「ハァ? 何言ってンだテメェ!」

 DOOOOM……轟音が礼拝堂を震わせた。「見ろよ相棒!」バルーが窓にかじりつき、上空に消えつつある噴射炎を指差す。「……マジか」リュウは溜息混じりに立ち上がった。「悪ィなハナチャン。メシの残りは帰ってから頂くぜ」「ハイ」ハナは殊勝に頭を下げた。「みんなを頼みます」

 ゴンゴンゴンゴン……戦闘宇宙船リアベ号が、イオン・エンジンの噴射で垂直離陸した。スペース・ソーサーは既に収容済みだ。「で? 例のロケットの速度は」手早く計器類を操作しながら、主操縦席のリュウが尋ねた。『トントノ、ケイサンニ、ヨレバ、マーク、エックス、コウソク』

「マークXだと? GRRRR……こりゃマジで追っつかねえぞ」副操縦席のバルーが唸った。『グローラーニ、ツッコンデ、ハヤト、シヌ』「縁起でもねェこと抜かすな」リュウが操縦桿を引き、ZZZOOOOM……武骨な船体が大気圏を脱する。「とにかく、やるだけやンだよ」

 彼らの遥か先の宇宙空間では、第15太陽グローラーに向けて、ロケットが無慈悲な加速を続けていた。「今にして思えば、リュウ=サンの言葉は正しかったのかもしれない……」牢獄めいたカプセル内でカミジが呟いた。「そんな!」ハヤトはカミジの肩を掴んだ。「今さらそれはないよ、カミジ=サン!」

「確かに今さらだ……だが人間は、死の瞬間までハンセイを忘れてはならない。私はそう信じている」カミジの瞳は既にアノヨめいて透徹していた。「死の瞬間か」ハヤトは唇を噛んだ。「もう少しガバナス相手に暴れたかった……許してくれ、リュウ=サン、バルー=サン、トント、ソフィア=サン……」

「ソフィア=サン……そうか!」己自身の呟きに、ハヤトはハッと思い当たった。イーガーとクノーイの笑いが脳裏をよぎる。「奴等の本当の狙いは……!」

「見苦しいぞ、イーガー副長」そわそわとブリッジを歩き回る弟に眉を顰め、コーガーはマントを翻した。「だが兄者、あの女が現れなかったら陛下にどう言い訳する?」「本艦のUNIXは200%の確率でソフィア=サンの出現を予測済みだ! ましてベイン・オブ・ガバナスの一味が餌とあれば……」

「団長閣下、ご覧を」クノーイが示すモニタ内の宇宙空間に、青白い光の幕が広がっていた。「高次元空間の境界面かと思われます」その向こうに見える優美な船体に、「出た!」イーガーが叫んだ。胸の前で両腕をクロスさせ、コーガーが号令した。「ダークマター粒子、アンブッシュ濃度で散布せよーッ!」

 宇宙帆船のコントロールルームには白光が満ち、ソフィアのブロンドを輝かせていた。ポロンポロンポロン……電子ピアノめいた操船コンソールに細い指が走ると、バウスプリットから黄金のパーティクルが放たれ、太陽を目指すロケットを包み込んだ。不可視の操り糸に引かれるように、その進路が180度転換する。

「ハヤト=サン、外の様子を」異変を察したカミジの指示で、レジスタンス達は素早く人間ピラミッドめいた足場を組んだ。ハヤトがそれをよじ登り、スリットめいた小窓から外を伺う。「あれは……!」太陽に代わって前方に見えるのは、馴染み深い緑の星。第2惑星アナリスだ。

『ドーモ、ハヤト=サン。ソフィアです』ブロンド宇宙美女のホロ映像が、エテルの闇の中に結ばれた。『真の勇者には冷静な判断力も必要です。これをよい教訓として、母なる大地のもとへお帰りなさい』「ソフィア=サン、逃げて!」アイサツも忘れてハヤトは叫んだ。「これはガバナスの罠だ!」

 ソフィアは船外を見た。ZZZZZ……前方の宇宙空間に暗黒物質の雲が湧き立ち、意思を持つかの如く接近しつつある。「邪悪な影……」危機を察したソフィアがコンソールに手を伸ばした、その時! ZZOOOOOM! ダークマターの隠れ蓑を掻き分け、グラン・ガバナスの巨体が現れた!

 巨人のカンオケをふたつ並べたような異形の艦体が、宇宙帆船を圧し潰さんばかりに迫る。「高次元浮上を!」ポロンポロン……ソフィアの操作で光子セイルが輝きを増す。「あれだ兄者!」イーガーが目ざとくモニタを指差した。「あの帆が次元移動装置に違いない!」

「マストを狙え―ッ!」コーガーの号令一下、DOOMDOOMDOOOM! 両舷のカンオケ・カタパルトから宇宙ミサイルが一斉射出された。操船に集中していたが故に、ソフィアの展開するシールドは一瞬遅れた。KABOOOM! ナムサン! ミサイルの直撃を受け、メインマストが真っ二つに折れる!

 クルクルと回転しながら、マストの上半分は闇の中へと消えていった。KABOOM! KABOOOM! 最大出力に達した偏向シールドが、後続ミサイルの爆発ダメージを無効化する。だが時既に遅し。「もう、この宇宙からは抜けられない……」ZZOOOM……揺れる船内でソフィアは暗然と呟いた。

「あとは航行不能にすればよい。大事な生贄だ」「大丈夫か? あの船のシールド、俺の見立てじゃ相当強力だぜ」言わずもがなのコメントを口にする弟を、コーガーはギロリと振り返った。「ならば、エネルギーが枯渇するまで攻め続けるまでの事!」

「ミサイル攻撃再開ーッ!」両腕クロス命令!『『『ヨロコンデー』』』ブリッジクルーが粛々とUNIX操作卓をタイプする。DOOMDOOMDOOM! 際限なく射ち込まれるミサイルが、ソフィアの船を赤黒い爆炎で覆い隠していった。KABOOM! KABOOOM! KABOOOOM……!

【#3へ続く】


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