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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【リベレイテッド・ドージョー】

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【#2】←


 ピピーッ! 上級教員トルーパーのフルフェイスメンポ内臓フエ・ホイッスルが校庭に鳴り響いた。
 十数名の生徒が小走りで集合し、機械的正確さでキヲツケした。その表情は一様に強張っていた。彼らを律するのはセンセイへの恐怖だ。

 オニビトは威圧的に生徒達を見回した。
「赤点とはいえ成績上位者の諸君! これより実地訓練による追試を行う。挽回のチャンスに奮起せよ!」「「「「「アリガトゴザイマス!」」」」」絶叫する生徒の目は宇宙マグロめいて暗い。

「ターゲットは脱走者モモチ=サンである。草の根分けても探し出し……」短い沈黙。「連行せよ。儂の手でカイシャクする」
「「「「「ハイヨロコンデー!」」」」」その時。

「その必要はありません!」

 半ズボン黒装束の少年宇宙ニンジャが姿を現した。
「おお、オヌシは!」安堵のあまり、オニビトの声が震える。「よくぞ……よくぞ帰ってきてくれた、モモチ=サン!」

「ガバナスの敵を捕えて来ました」モモチは後ろ手に縛られた青年を伴っていた。「グワーッ!」突き倒され膝をついたのは……ナムサン! ゲン・ハヤトである! まさか道中で仲間割れを起こしたとでもいうのか?

「なるほど。詫びのしるしというわけか」オニビトは合点して何度も頷いた。「でかしたぞ! リアベ号の反逆者を手土産にしたとあらば、団長閣下のお怒りも必ずや収まろう」

「覚えてろモモチ=サン! よくも恩を仇で返したな!」ハヤトはトルーパー二名に連行されながら、モモチをキッと睨んだ。「ウルサイ! さっさと行け! イヤーッ!」「グワーッ!」ハヤトの横っ面に鉄拳が叩き込まれる!「ハハハハハ! 頼もしい限りよ」

 喜びに曇ったオニビトの目は、両者が巧みに力を逸らして打撃ダメージを無効化していた事に気付かなかった。殴られる直前、ハヤトがモモチにウインクした瞬間にも。

「グワーッ!」地下ハンセイボウに蹴り込まれたハヤトの背後で、電子ロックがガチャリと閉じた。
「クソッ! 出せ! ここから出せーッ!」ハヤトは鉄格子に身体を叩き付け、聞こえよがしに叫びながら、遠ざかるトルーパーの後姿を見届けた。ここまではよし。

「あのおじさん誰?」「バッカ、お兄さんだろ」「大人も落第するんだね」

 囁き合う声にハヤトが振り向くと、ジュニア宇宙ニンジャ装束の少年少女が暗がりに身を寄せ、不安気にこちらを見つめていた。その数二十名近く。
(この子達もスマキにされる運命なのか)一瞬険しくなったハヤトの目つきに、「アイエッ……」少年の一人がびくりと身体を縮めた。

「ア、ゴメン」ハヤトは慌てて笑顔を作り、つとめて明るくアイサツした。「ドーモ、はじめまして。ゲン・ハヤトです。君達を助けに来たんだ!」

「ドーモ」「ド、ドーモ……」子供達は遠慮がちにアイサツを返した。にわかには信じられぬ様子だ。
「ダイジョブダッテ! こんな牢屋、すぐに破ってやるよ」ハヤトは拘束された自分の手首を掲げた。「まずはナワヌケ・ジツだ。見てて」

 瞳を閉じ、しばし精神を集中する。「チョチョイノ・チョイ!」いにしえのベイビー・サブミッション・チャントを唱え、「イヤーッ!」ロープから電光の如く手首を引き抜き……否、引き抜けぬ!

「アレ?」ハヤトの笑顔が強張った。「何だよコレ……イヤッ! イヤーッ!」必死に身体をくねらせて力を籠めるが、拘束ロープはびくともしない。子供達の表情が再び曇ってゆく。「エッちょっと待って……マズイなコレどうしよう……」

「ハッハハハ! ブザマなりハヤト=サン!」

「「「アイエエエエ!」」」子供達が一斉に後ずさった。ナムサン! 鉄格子の向こうにはいつの間にかオニビトが立ち、悪戦苦闘するハヤトをあざ笑っているではないか!
「身体検査の折、アンタイ・ナワヌケ・ジツが施されておった事にも気付かなんだか。何たる未熟! そこの落第生どもと大差ないわ!」ウカツ! ハヤトの頬が屈辱に燃える!

 ピンポンパンポーン……天井のスピーカーから、電子チャイムの音色が追い討ちめいて響いた。
『オニビト=センセイ、オニビト=センセイ。至急中央管制職員室においで下さい。敷地内に潜伏するデーラ人を発見しました』

(バルー=サン!)ハヤトの顔色が変わるのをオニビトは見逃さなかった。「仲間が助けに来たようだな。待っておれ、其奴もすぐに引っ捕らえてくれる。アブハチトラズとはこの事よ! ハッハハハハ!」

 BEEP! BEEP!『タイヘン、タイヘン』リアベ号のコックピットに、万能ドロイドのビープ音がけたたましく響いた。「ンンー……何だようるせェな」操縦席のリュウが伸びをする。

『モモチト、バルート、ハヤトガ、イナイ』トントの顔面に「◎◎」の文字が激しく点滅した。『ガバナスニ、サラワレタノ、デハ』「バカ言うな。そのうち帰って来るって……アイエッ!?」

 リュウは不意を突かれてよろめいた。ゴンゴンゴンゴン……突如リアベ号が起動し、誰の手も触れぬまま垂直上昇を始めたのだ。「オイオイ、とうとうイカれちまったか? この骨董品め」

 たちまち成層圏に達したリアベ号のコックピットに、清らかな白光が差し込んだ。リュウは目を眇め、船外の宇宙空間を窺った。海洋文明時代のスタイルを踏襲した宇宙帆船が停泊している。光の源は光子セイルの輝きだ。

『ソフィア=サンノ、フネ、ダ( Λ Λ )』

 リュウの宇宙ニンジャ視力は、宇宙帆船の船窓の奥にエキゾチックな宇宙ブロンド美女を見出した。彼女の名はソフィア。リアベ号の謎めいた支援者である。

 ソフィアは電子ピアノめいたコンソールに白い指を滑らせた。優雅な電子音と共にリアベ号のスラスターが反応、繊細な噴射で相対位置を整える。

 帆船から黄金色のビームが投射され、女神像めいたホロ映像を結んだ。『ドーモ、リュウ=サン。ソフィアです』
『ドーモ、トント、デス』「お誘いドーモ。リュウです」リュウは笑って手を振った。

『ハヤト=サン達のもとへ案内します』カリカリカリ……リアベ号の船内UNIXが、短距離高密度データ通信を受信した。年代物のグリーンモニタに詳細なアスキー地図が映し出される。
『彼等は今、命を懸けて困難なミッションに挑んでいます。貴方のサポートが必要なのです』

「何やってンだあいつら。ソフィア=サンの手を煩わせやがって」リュウはぼやきながらモニタの地図を確かめた。目的座標は山岳地帯。
「例のジュニアドージョーだな」『若き命の自由を守りに行ったのです。彼らの逸る気持ちを責めないで』

「大目に見るよ。アンタに免じてな」リュウは操縦桿を握った。「ンじゃ、ちょいと行ってくるぜ」
『カラテと共にあらんことを』「サンキュー」

「「「「「イヤーッ!」」」」」

 ジュニアニンジャ装束に身を固めた十数名の少年が、ドージョー敷地内の岩場をグルグルと駆ける。その中心には宇宙猿人バルー。愛用のストーンアックスを構えるものの、子供相手ではなす術もない。
「GRRRRR……こいつらがご自慢のジュニア宇宙ニンジャかよ、オニビト=サン!」

「ハッハハハ! いかにも」オニビトは腕組みで高みの見物を決め込んだ。「宇宙猿人一匹捉えるなど、我が生徒には日々のシュクダイ・タスクよりも容易い。カカレ!」
「「「「「イヤーッ!」」」」」フックロープが次々とバルーの首元に絡みついた。回転速度はいや増し、7フィート超の体躯をスマキめいて絡め取る!「WRAAAAAGH!」

 一方その頃。半ズボン黒装束の少年が薄暗い廊下を駆け、ハンセイボウの鉄格子を掴んだ。
「モモチ!」囚われの少年の一人が立ち上がった。モモチは力強くサトルに頷いた。目をしばたたき、胸の奥からこみ上げた熱いものを堪える。

 ハヤトが鉄格子ににじり寄った。「モモチ=サン! ここに来たらまた君に疑いが」「センセイは留守だからダイジョブです! ハヤト=サン、手を!」
 モモチは後手に差し出された拘束ワイヤーにクナイをくじり込み、「イヤーッ!」強引に切断! ワザマエ! アンタイ・ナワヌケ・ジツが施してあろうと、ワイヤー自体を切断すれば意味がない!

「アリガト!」ハヤトは礼もそこそこに、身体検査から隠しおおせた金属グリップを取り出した。ボタンを押すとスティック状の刃が飛び出し、ジュッテめいた宇宙ニンジャ伸縮刀に変形する。

 ハヤトは電子ロックに伸縮刀を叩きつけた。「イヤーッ!」チュイイイン! カラテ超振動が激しい火花を散らす。「待っててみんな! 今すぐここから出して……」その時!

「イヤァァァーッ!」

 SMASH! 突如鎖分銅が飛来し、ハヤトの視界からモモチを吹き飛ばした。
「グワーッ!」モモチはゴロゴロと転がり、宇宙コンクリートの床にウケミして衝撃を殺した。起き上がった視線の先には……おお、ナムサン! 二本角フルフェイスメンポ鉄仮面!

 鎖鎌を構えるオニビトの背後で、随行トルーパーが宇宙ズダ袋を投げ出した。どさりと床に落ちた7フィート超の袋からは、「GRRRR……」バルーの朦朧とした呻き声。

「どうやら儂の目はフシアナだったようだ。千人万人に一人の逸材が、斯様な問題児であったとは」
 オニビトの声音は不気味なほど穏やかだった。「可愛さがオーバーフローして憎さの値が100倍」の宇宙コトワザに違わぬ極限の怒りが、ニューロンの閾値を上回ったのだ。

「だが案ずるな。儂が必ずオヌシを更生させて見せる」フルフェイスメンポの下の目が異様な光を放つ。「更生過程でケジメした手足はサイバネ置換すればよい。オヌシに相応しい最高級モデルを支給してやろうぞ」「アイエッ……」モモチはしめやかに失禁した。

 だがその時。ピンポンパンポーン……天井のスピーカーから電子チャイムが鳴り響いた。
『オニビト=センセイ! オニビト=センセイ! 至急中央管制職員室においで下さい! 生徒が一人残らず姿を消しアバーッ!』ブツン。

「バカナー!?」完全に予想外の衝撃にオニビトは狼狽し、壁面埋め込みIRC通信機に飛びついた。「職員室! 何があった? 報告せよ!」ザリザリザリ……スピーカーからはノイズが漏れるのみ。「図書室! 視聴覚室! 給食室!」目まぐるしくチャンネルを切り替える。「事務室! 生徒指導室!」ザリザリザリ……応答なし。

「オニビト=センセイ! 一体何が」「どけェーッ!」「グワーッ!」突き飛ばされた随行トルーパーは壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。
「生徒が! 儂の生徒達がーッ!」オニビトは色付きの風と化し、地上への階段を駆け登った。残されたモモチとハヤトは互いに見交わし、頷き合った。助けが来たのだ。

【#4へ続く】



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