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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【ザ・ニンジャ・ウィズ・ア・ミリオン・アイズ】

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【#3】←


「イヤーッ!」

 第3惑星ベルダの地上を連続バック転で高速移動する宇宙ニンジャあり。レアメタル採掘場から脱出したメビトだ。

 クノーイがどこからか見ているであろう。作戦の成否を報告するために。存分に見届けるがいい。鉱山労働者の攻撃など前座に過ぎぬ。フーリンカザンはこれから訪れるのだ。

 追ってくるのは一人か、二人か。メビトはベルダの大地に立ち、待ち受けた……そして!

「イイイヤアアーッ!」

 力強いカラテシャウトと共に、宇宙民族衣装が宙に舞った。「アイエッ!?」反射的にそれを追うメビトの視界を、真紅の閃光が刺す!

 閃光の先、崖の上に、カラテを構える人影があった。クーフィーヤめいた宇宙ニンジャ頭巾。未来的光沢を放つ真紅の宇宙ニンジャ装束。目元を隠す宇宙ニンジャゴーグル。
 第三の敵の出現に、メビトの単眼がさらに大きく見開かれた。「何奴!」

「銀河の果てからやって来た、正義の味方」ヒロイックな口上とともに、正体不明の宇宙ニンジャは決断的にアイサツを決めた。「ドーモ、はじめまして。ナガレボシです!」

 ナガレボシの手に握られた宇宙ニンジャ伸縮刀は、先程リュウが振るったものと同一だ。しかし、ハヤガワリ・プロトコルを順守した宇宙ニンジャの正体は99.99%秘匿され、看破されることはない。

「ドーモ、はじめまして。メビトです。リアベ号の協力者とは貴様だな」

「だったらどうする」ナガレボシは不敵に笑った。

「連中を始末するのが俺の使命。邪魔はさせぬ! イヤーッ!」

 ニンジャソードを大上段に構え、メビトが跳んだ。「イヤーッ!」ナガレボシもジャンプ斬撃で迎え撃つ。空中で交錯!

 飛び違って回転着地した瞬間、「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」二者は互いに反転し、激しく切り結んだ。宇宙ニンジャ伸縮刀が超振動を放つが、メビトのニンジャソードは微かな火花を散らすのみ。

「その武器は既に対策済みよ!」「上等だ! イヤーッ!」

 再び交差した刃を支点に、ナガレボシはメビトの側面に回り込んだ。宇宙ニンジャ敏捷性は彼の方が上だ。「イヤーッ!」両生類めいた腕を捉え、手首を打った。ニンジャソードが宙を舞う!「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 強烈な回し蹴りを受けたメビトはキリモミ回転で吹き飛び、地面を転がった。カイシャク狙いで追撃するナガレボシ!「イヤーッ!」

「させぬわ!」

 メビトは首元に手をやり、自身の表皮細胞をバリバリとむしり取った。両生類めいた細胞塊は瞬時に変形し、手の中で小さな単眼を形成した。コントロール・パラサイト・メダマ!

「イヤーッ!」メダマをスリケンめいて投擲!

 ナガレボシは左手の人差指と中指を突き立て、首筋めがけて飛来する細胞塊を挟み取った。「イヤーッ!」即座に手首をスナップさせ、メビトめがけて投げ返す!

「まだまだ! イヤーッ!」

 おお、見よ! メビトが宇宙ニンジャサインを組むと同時に、細胞塊は空中で瞬時に膨張し、人型となって着地したではないか!

 その姿は大枠においてニンジャトルーパーを模倣していた。しかし6インチフィギュアを拡大したかの如く、細部のディテールは曖昧だ。フルフェイスメンポのゴーグルめいた部位に切れ目が走り、黄金色の単眼がぎょろりと開いた。コワイ!

「メダマ・ミニオン・ジツ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

 メビトは立て続けに表皮細胞をむしり取り、バラ撒いた。それぞれがニンジャトルーパーの模倣体に成長し、一個分隊ほどの人数でナガレボシを取り囲む。

「「「AAARGH」」」

 不明瞭な呻き声と共に、ニンジャソードらしき硬質の突起物が掌からメリメリと生えてきた。コワイ!

「ミニオン相手にせいぜい奮戦するがいい! サラバ!」

 メビトが踵を返すと同時に、メダマ・ミニオンが円陣を組み、ナガレボシの周囲を駆け始めた。「AAARGH」「AAARGH」「AAARGH」回転移動からのゾートロープめいた連続動作で、次々と斬りつける。恐るべき集団時間差攻撃、クルマ・ラグ・アタックだ!

「イヤーッ!」

 ナガレボシは前転回避で初撃を潜り抜け、「イヤーッ!」続く一体をアイキドーめいて投げ飛ばし、「イヤーッ!」仰向けに倒れた単眼にニンジャ伸縮刀を突き立てた。

「AAARGH……」致命傷を受けたメダマ・ミニオンは瞬時にグズグズと崩れ、有機物の粒子となって飛散した。だがフォーメーションの乱れは一瞬だ。「AAARGH」「AAARGH」残りが即座にナガレボシを再包囲する。

 ZOOOOOM……! イオン・エンジンの轟音とともに、宇宙スパイダーめいた機影が頭上を通過した。G6-Ⅱ型宇宙戦闘機「シュート・ガバナス」。搭乗者はメビトに相違なし。「チィーッ!」宇宙ゴーグルの下、ナガレボシの目に焦りの色が浮かんだ。その時!

「イイイヤアアアアーッ!」

 新たなカラテシャウトが大気を切り裂いた。流麗な回転ジャンプエントリーを果たしたハヤトが、ミニオンの頭部をボレーシュートめいたトビゲリで吹き飛ばす!「AAARGH」崩壊飛散!

「ドーモ、ゲン・ハヤトです」

「ドーモ、ナガレボシです」早かったな、と言いかけ、ナガレボシは慌てて口をつぐんだ。

 その頃地下採掘場では、コントロール・パラサイト・メダマに寄生された人々が一人残らず倒れていた。メビトが精神力リソースをミニオン生成に費やした結果、支配力が弱まり宿主はことごとく失神。ハヤトの脱出を可能ならしめたのである。

「アノ、ナガレボシ=サン! こっちにガバナスの宇宙ニンジャが」

「メビト=サンは逃げた! 空だ!」

 ナガレボシが指差す先には、急速に遠ざかるシュート・ガバナスの機影。「クソッ!」思わず駆け出したハヤトの行く手を、メダマ・ミニオン勢が阻む。「「「AAARGH」」」

「どけェーッ!」

 叫ぶが早いかハヤトは斬り掛かった。「イヤーッ! イヤーッ!」SLASH! SLAAASH! スピードに任せてニンジャ伸縮刀を振るうたび、模造品めいた手足が宙を舞い、空中で崩壊飛散する!

(雑なカラテしやがって)

 ナガレボシは内心苦虫を噛み潰しつつ、「イヤーッ! イヤーッ!」援護射撃めいて宇宙スリケンを投擲、体勢を崩したミニオンの単眼を射抜いてゆく。「AAARGH」「AAARGH」崩壊飛散! ミニオンはその数をみるみる減じていった。

「ハヤト=サン、ここはもういい! リアベ号で奴を追え!」「エッ? どうしてリアベ号の事を」「考えるな! 走れーッ!」「アッハイ!」

 ハヤトは無我夢中で駆け出した。「AAARGH」「AAARGH……」ナガレボシに仕留められたミニオンの断末魔が遠ざかる。

「急げ、ハヤト=サン!」

 見ると、ジュー・ウェア姿のリュウがいつの間にか併走していた。「アレッ? リュウ=サン、今までどこに」「考えるな! 走れーッ!」「アッハイ!」

 ハヤガワリ・プロトコルを順守した宇宙ニンジャの正体は99.99%秘匿され、看破されることはない。疑念は速やかに消え去り、ハヤトはリュウと共に駆け続けた。

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 ゴンゴンゴンゴン……岩場の陰から、リアベ号は最大速度で垂直離陸した。

「まさかお前が先回りしてたとはな、相棒。大した勘だ」「さすがバルー=サン!」「アー、ウン……まあな」

 操縦席で笑うリュウ達と対照的に、バルーは上の空だ。無理もない。パイロットスクールで突如意識がブラックアウトして……次の瞬間にはリアベ号の前に立ち、駆けてくるリュウ達を迎える自分がいたのだ。我が身に何が起きたのか、バルーには全く理解できなかった。

 ピボッ。『レーダー二、ハンノウ、アリ』年代物のグリーンモニタに、トントが宇宙スパイダーめいた機影を表示した。

「よォし! 挟み撃ちといくか」

「アー……」

「どうした、頼むぜ」

 バルーの背中を抱くようにして、リュウは宇宙戦闘機のコックピットへ向かう。二人の勝利を疑わぬハヤトとトントは、早くもどこか弛緩したアトモスフィアを漂わせていた。

『イチ、タイ、二。ショウブ、アリ、ダ( Λ Λ )』

「決まりきった事さ」

 しかし……KBAM! KBAM! リアベ号から二機の宇宙戦闘機が射出された瞬間、シュート・ガバナスのコックピットでメビトは哄笑したのだ!
「グッハハハハハ! 我がフーリンカザンは成れり!」宇宙ニンジャサインを組み、精神を統一する!「我がしもべとして目覚めよ、バルー=サン!」

「バルー、奴の前に回れ」

 リュウが慣れた様子で指示を飛ばす。バルー機からの応答はない。「相棒。聞こえるか?」無言。「オイ! マジでどうした!」沈黙。

『返事しろバルー!』

「アバー……」

 バルーの後頭部に巣食うコントロール・パラサイト・メダマが黄金色の光を放ち、狭いコックピットを照らした。(((我が命に従えバルー=サン! あの戦闘機を撃墜せよ! リュウ=サンを殺すのだ!)))メビトの指令がニューロンを浸食してゆく!

 ZAPZAPZAP!「アイエッ!?」バルー機のパルスレーザーを、リュウはすんでのところで回避した。「バッカヤロー! テメェ何やってンだ! 俺を殺す気か!」

『アバー……撃墜する……殺す……』

 通信機越しにゾンビーめいた呻き声を聞いた瞬間、リュウの背筋が凍った。相棒の身に何が起こったか理解したのだ。

「これでこっちが2対1よ! グッハハハハハ!」

 メビトは哄笑しながら、バルー機との連携攻撃を開始した。ZAPZAPZAP! BEEEEEAM! リュウ機の偏向シールド発生機が過負荷に耐えかねて火を噴く! KBAM! KBAM! 「グワーッ!」

『アイツ、トウトウ、オカシク、ナッタ( \ / )』

「宇宙ニンジャのジツにやられたんだ! クソッ、どうにかしなきゃ!」ハヤトが歯噛みするが、リアベ号の旋回性能とハヤトの操縦技術では小型戦闘機の格闘戦に介入するべくもない。

「スペースブッダファック! なんてこった」

 リュウは自身のウカツを呪った。互いに機上にあっては、コントロール・パラサイト・メダマを除去する事も叶わぬ。メビトはわざとシュート・ガバナスで逃亡し、リュウ達が戦闘機に乗り込むよう誘導したのだ!

「ウオオーッ!」

 宇宙ニンジャ耐G力にまかせて、リュウは機体を急旋回させた。しかしメビトのシュート・ガバナスは巧妙に相対位置を変え、射線から逃れた。それを庇うようにバルー機が割り込む。

 ピボッ。リュウ機のUNIXターゲットスコープが、アスキー文字で描かれたバルー機を捕捉した。忌まわしいものでも見るようにリュウは目を逸らした。2対1。このままではジリー・プアー(徐々に不利)。だが今撃てば……「ダメだ!」

(((何を躊躇う。撃て!)))

 ゲン・シンの無慈悲な声がニューロンに響いた。

「バカ言え! ンな事できるか!」(((現実を見よ。オヌシがこのまま撃墜されれば、次はあの猿人とハヤトが同士討ちを強いられよう。そうなれば誰も助からぬ!)))「だから何だ! だから今のうちにバルーを殺れってのかよ!」

「グッグッグ……苦しかろう、リュウ=サン」

 メビトの単眼がにんまりと細まった。自身のジツでターゲットを骨肉相食むシチュエーションに追い込み、苦悶の末に自滅する様を見届ける。彼にとって至福の瞬間であった。

(((撃て!)))「ダメだ……ダメだ!」(((撃たぬか!)))「黙れーッ!」

 リュウは裡なる声に必死で抗った。主観時間が鈍化し、バルーとの記憶がソーマト・リコールめいて蘇る。

 ゲン・ニンジャクランを抜け、宇宙ヨタモノとして彷徨った果ての出会い。シケた仕事。ヤバい仕事。命を張った大金を一晩で溶かした馬鹿騒ぎ。真空の只中で生存を求めてもがく、二人きりのサヴァイヴァル。宇宙ヤキトリを齧りながら飛んだ無限の大空間。長く退屈で気兼ねない旅路。

 BOOOOOM!

「グワーッ!」遂にエンジンが火を噴いた。(((なんたるブザマ! 我がクラン随一の使い手が、このような犬死にを遂げようとは!)))「うるせェ! クランなんざ知るか! 俺は宇宙の男だ!」

 宇宙の男にとって、相棒(バディ)の命は自分のそれと等価である。命を預けあう相手を見殺しにした者の前に、新たな相棒は二度と現れない。そして、宇宙というエテルの荒野は、独りで飛べるほど甘くはないのだ。

 炎上墜落する機体の中でリュウは絶叫した。

「宇宙の男が! 相棒を見捨てたら! オシマイなんだよォーッ!」

 その刹那。サイケデリックな金色の光が、ベルダの空を満たした。

 世界が一変した。失われる高度、コックピットを焼く炎、大気を切り裂く振動……それら一切がスローダウン、静止する。周囲の音が可聴域を下回り、静寂が取って代わった。宇宙ニンジャアドレナリンの主観時間鈍化とは異なる、しかし覚えのある感覚だ。

 見上げると、原始時代の帆船めいた宇宙船が、静止した時間の中で悠然と飛行していた。シルバーの船体と半透明の光子セイルを煌めかせ、まるで初めからそこに存在していたかのように。
 バウスプリットから放たれたビームが渦状に屈曲して、機体ごとリュウを包み込んだ。その輝きはいや増し、視界を塗り潰してゆく……。

 気が付くと、リュウは星空の中にいた。

 ……いや、星ではない。リュウの宇宙ニンジャ視力は、漆黒の空間に輝く光点の一つ一つが、渦巻く銀河だと見て取った。人類の生存圏とは根本的にスケールが異なる、超絶的空間だ。

 機体の損傷が逆回転めいて再生した。炎が消えたコックピット内を、エメラルドグリーンの光が仄かに照らす。
 キャノピー外の虚空に、エキゾチックな顔立ちの美女が立っていた。胸元に飾られたオーブが光の源だ。

「……ドーモ、ソフィア=サン」

 リュウは歯切れ悪くアイサツした。彼女のアルカイックな微笑を正視できない。「俺は……撃てなかった」辛うじて声を絞り出す。「気の合った相棒を殺せなかった。腰抜けと言われても構わねェ。でも……でもよォ! 俺は!」

「貴方は正しかった」ソフィアの微笑は揺るぎない。「貴方がバルー=サンを撃っていれば、未来はあまりにも早く確定し、私の介入を許さなかったでしょう。最後の瞬間まで貴方が耐えたからこそ、私はこうして間に合ったのです」

「間に合った……?」「ハイ」

 ソフィアは両手を広げた。宇宙創造の神の如く。超絶的空間は虫食いめいて綻び、第3惑星ベルダの空に置換され始めた。

 時間はいまだ静止していた。正面に見えるのはメビトのシュート・ガバナス。そのやや下方、リアベ号との衝突コースに乗ったバルー機。しかしまだ距離がある。決して充分とは言えぬが……「いや待て……こいつァ、マジで間に合うかもだぜ……!」

「さあ、お行きなさい。心を奪われた仲間と、罪なき人々を救うために」

 リュウは頷いた。「恩に着るぜ、ソフィア=サン」その目には光が戻っていた。「アンタやっぱイイ女だよ」

「カラテと共にあらんことを」

 ソフィアは別れの言葉に代えて、宇宙ニンジャをリスペクトするチャントを口にした。アルカイックな微笑が二重露光めいて消えてゆく。

 時間が少しずつ流れ始めた。『SSSSSSyyyyyy』機体はスピードを取り戻し、通信音声が可聴域に入った。『yyyyynnnね! バルー=サン、死ねーッ! リアベ号に体当たりするのだーッ!』『アバー……体当たり、する……』

「ザッケンナコラーッ!」

 ヨタモノ時代を彷彿とさせる恐るべき宇宙ヤクザスラングとともに、リュウはコンソール右端のレバーを引いた。愛機に備わった最もクレイジーな武器の起動レバーを! ZZZZZZT……主翼が電荷を帯び、巨大なプラズマ・カタナと化す!

「メビト=サン! 死ぬのはテメェだァーッ!」最大加速!

「アイエッ!?」メビトは生まれて初めて我が目を疑った。墜落したはずのリュウ機がいつの間にか前方に現れ、チキン・ランめいて突進してくるではないか!「アイエエエエ! バカな! 貴様はさっき確かに!」

「ライトニング・キリ! イイイヤアアアアアアーッ!」

 リュウとメビトの機体は一瞬で交錯した。

 SLAAAAASH! プラズマ・カタナで両断されたシュート・ガバナスが、赤熱する断面も露わにパーツを撒き散らした。宇宙スパイダーの脚めいたビーム機銃ステーを! 球状コックピットの外殻を! そして、緑色の血液を撒き散らすメビトの上半身を!「アバババババーッ!」

「サヨナラ!」

 KABOOOOOOOM! 機体もろともメビトは爆発四散! リュウは振り返る間もなく通信マイクに絶叫した!「バルー! 避けろォーッ!」

「アイエッ!?」意識を取り戻したバルーの視界いっぱいにリアベ号が迫る!「AAAAAARGH!」「ウオオーッ!」バルーの宇宙猿人反射神経と、ハヤトの宇宙ニンジャ反射神経がシナジーした。上下に避けてギリギリすれ違う両機の偏向シールドが干渉し、バチバチと火花を散らす!

 ……クリティカルな一瞬ののち、2機は互いに安全圏へと脱した。
「ヤッター!」『ヤッタ、ヤッタ( Λ Λ )』ハヤトとトントは、リアベ号のコックピットで歓声を上げた。

『バッカヤロー! テメェらどういうつもりだ! 俺を殺す気か!』

 バルーの怒声が通信回線越しに響いた。リュウとハヤトは絶句し……爆笑した。「「ハッハハハハハハ!」」トントは顔面に「 ー ー 」の文字を灯し、沈黙をもって応えた。

『アァ? 何がおかしい!』「「ハッハハハハハハ!」」『どうしちまったんだよリュウまで! オイ誰か説明しろ!』「「ハッハハハハハハ!」」

 リュウは笑いながら拳で涙を拭った。「ワケがわからんわい」憮然と頭を掻くバルーの首筋から、黒く死滅した細胞片がパラパラとこぼれ落ちた。

「オトウサン!」「オカアサン!」「大丈夫だったか!」「アーン!」「ヨシヨシ、頑張ったね」鉱山コロニーの住人と子供たちの再会を、カミジは穏やかな笑みで見守っていた。

 宇宙パイロットアカデミーの生徒が、やり遂げた顔で肩を叩き合う。血気盛んな彼らは昏倒から目覚めるや否や、メビトに置き去りにされた下級トルーパーを囲んで叩きのめしたのだ。若者たちの暴動に恐れをなしたガバナス士官はいずこかへ逃亡。かくして、レアメタル鉱山は再び市民の手に戻ったのである。

「レジスタンスの噂は聞いていました。ご尽力感謝します」

 アカデミー教師の一人がカミジに近づいてオジギした。その腕には、宇宙民族衣装に身を包んだ少女……ケイが抱かれていた。

「いえ、私は結局無力でした。全てはリアベの勇士の活躍あってこそ」カミジの指差す空に、宇宙へ飛び去るリアベ号の機影があった。「しかし、彼らにだけ戦わせるわけにはいかない。我々には若い力が必要なのです。もし差支えなければ……貴校の生徒を同志に迎えたいと思っています」

「お役に立てるほどの技量を身に着け、本人の意思が一致すれば、何人でも」ケイの父は奥ゆかしく答えた。「我々からはレジスタンスへの参加を強制しません。それでよろしいか」

「無論です。そうあるべきです」頷くカミジの瞳は少年のように涼やかで……微かな危うさをも秘めていた。

「パパ! ハヤトはあの船に乗ってるの?」父の腕の中でケイが問いかけた。「ああ」「また会えるかな!」「ああ、きっとね」ケイは頭を撫でられながら、熱っぽい目でいつまでも空を見上げていた。

 同刻。グラン・ガバナスの広大なブリッジに、報告を終えたクノーイが跪いていた。カリカリカリ……壁面の黄金宇宙ドクロレリーフが無言でUNIX両眼ランプを瞬かせる。コーガーとイーガーの兄弟は、固唾を呑んで皇帝の言葉を待った。

『その宇宙ニンジャ、名は何と申したか』

「ハッ。ナガレボシ=サンにございます」不気味な機械音声に、クノーイは淡々と答えた。

『……面白い奴よのう』

 それだけ言って、ロクセイア13世は通信を終了した。

「アイエッ?」膝の上にどさりと投げ出された書物の山に、副操縦席のハヤトは目を丸くした。「何コレ」

「アカデミーから借りてきた教科書よ」リュウはニヤリと笑った。「お前だっていつまでもリアベ号で留守番したかねェだろ。戦闘機に乗りたきゃ、せめて卒業レベルまで勉強するこった」

「アノ……まさか、スクールに行ったのはこれのため?」「だったらどうした。文句あンのか」「ウェー……」

『イヤナラ、ヤメトケ』「誰もそんな事言ってないだろ!」ハヤトはトントの皮肉な電子音声に食ってかかった。「絶対一人前の宇宙船乗りになってやる!」「上等だ。その言葉忘れンな」

 三人と一体の勇士を乗せたリアベ号は、漆黒の宇宙空間を突き進んだ。
 また近いうちに、第15太陽系のどこかで新たな戦いが巻き起こるであろう。ガバナス・ニンジャアーミーの暴威に、さすらいの宇宙ニンジャが立ち向かうであろう。

 長く退屈で気兼ねない旅路が、再び始まった。中央船室で眠るバルーの鼾を聞きながら、リュウとハヤトは交代で操縦桿を握り続けた。


【ザ・ニンジャ・ウィズ・ア・ミリオン・アイズ】終わり


マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第5話「呪われた学校」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

映画「宇宙からのメッセージ」とTVショウ「銀河大戦」:最初のスターウォーズ(現Ep.4)がアメリカで大ブレイクした頃、鷹のように鋭い商人の目を持つ当時の(株)東映CEOは、翌年の夏に本家が日本上陸するより早くスペースオペラ映画を公開してメイクマネーすべく「宇宙からのメッセージ」の製作を開始。なんと本家より2ヶ月早いGW公開に漕ぎ付けた。
 その際に造られたセット、ミニチュア、コスチューム、特撮フッテージを活用して誕生したのが「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」である。スカムまとめサイトでたまに混同されるが別作品だ。

宇宙ニンジャ伸縮刀:超振動で切断する設定は当時のノベライズより。国会図書館まで読みに行った甲斐があった。

ライトニング・キリ:リュウ号(ギャラクシーランナー)が「電光斬り」を放つ相手は、本来はバルー号(コメットファイヤー)だった。マジか! 全27話+劇場版を通して一度しか出さない技を! 味方機に!
 というわけでスミマセン、マッシュアップの原則に逆らい、標的をメビト機にしました。

ニンジャが死ぬとジツが解ける:「隠密剣士」で1960年代のニンジャブームを牽引し、「仮面ライダー」で変身ヒーロー番組の基本フォーマットを確立した偉大なる脚本家、伊上勝=センセイの生み出した偉大なるお約束のひとつ。ストーリーの圧縮効果は絶大で、今でもスーパー戦隊シリーズなどに連綿と受け継がれている。ルパンレンジャーはこれのおかげで当初の悲願を果たし得たと言っても過言ではない。

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