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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【ア・プリンセス・オブ・アンダーグラウンド】

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◆#4◆

「アラ、もっと召し上がれ」「もう食べられないよ。ゴチソウサマ」ハヤトは腹をさすりながら、ヒミメ王女が勧める地底ピーコックの丸焼きを固辞した。「それに、もうそろそろ行かなくちゃ。きっと仲間が心配してる」

 カン王は公務のため既に退席し、宴はティーンエイジャーの気兼ねない食事会の様相を呈していた。「だったら、あとで地上に連れて行ってあげる」「あの絶壁を越えて?」「中腹に秘密の抜け道があるんだ」「ナルホド。ケン殿下はそれで地上にお出ましか」「へへへ」王子は野生児めいて鼻の下を擦った。

「ハヤト=サンは宇宙ニンジャなんでしょう」ヒミメ王女はハヤトをじっと見つめた。「もし……もしもよ。私がどこかで危険な目に遭ったら、助けに来てくれる?」「そりゃもう! どこにいようとも必ず!」気軽に頷くハヤトに、言外の機微に気付いた様子はない。内心物足りぬヒミメはさらに大胆な言葉を口にした。

「どう? もし良かったら、この国にずっと……」

 その時。「ご歓談の最中シツレイ致す」ズカズカと入室したのは、衛兵を引き連れたグモだった。「なッ……無礼でしょう、許しもなく!」「これはシツレイ。気が付きませんで」宰相は跪き、粘つく視線で王女を睨め上げた。「もしや、大事なお話の最中でしたかな?」「……いいえ」顔を赤らめて俯くヒミメ。

 グモはハヤトをじろりと見た。「カン王がお呼びでございます、地上のお客人。王女様と殿下はこの場でお待ち下されとのこと」「何の用だろう」「行けばわかるさ」首を捻るケンに笑いかけ、ハヤトは立ち上がった。「さあ、どうぞ、こちら、へ」案内する衛兵の所作はどこかぎこちない。

「……」ハヤトを見送る体でその場に残ったグモは、王女の胸元に揺れる卵大の宇宙エメラルドをちらりと確かめた。さりげなく立ち位置を変え、己の影を壁に落とす。ZMZMZM……影が膨れ上がり、青面と白面の宇宙ニンジャを吐き出した。

「ハヤト=サンを、おつれ、しまし、た」「何?」王の居室の扉が開く。「どんなご用件でしょう、陛下」生真面目にオジギするハヤトに、寛いだ姿勢のカン王が眉根を寄せた。「妙じゃな。余は呼んでなどおらぬが」「エッ?」訝しむハヤトの背後で、「ア……アバッ」衛兵が白眼を剥いて昏倒!

「これは⁉」倒れた衛兵の影だけが壁に残っている。奇怪! ハヤトは反射的に身構えた。「ハハハハハ!」ZMZMZM! 影は哄笑を上げ、青白二色面の宇宙ニンジャに変じた!「ドーモ、ハヤト=サン! 貴様を呼んだのはこのヒカゲビトよ!」

「イヤーッ!」ヒカゲビトは胸の前でニンジャサインを組んだ。その周囲にキラキラと輝く光輪が生まれ、ハヤトの頭上から覆い被さった。「グワーッ!」光のリングに両腕ごと胴体を拘束されたハヤトがもがく。「貴様はそこでカン王の死に様を見届けるがよいわ」老王にカラテを構えるヒカゲビト!

「させるか! イヤーッ!」ハヤトは瞬間的に身を縮め、バネ仕掛けめいて垂直に飛び上がった。空中に取り残されたリングが雲散霧消!「何ッ」反射的に見上げるヒカゲビトの視界に、クルクルと空中回転する白銀装束の宇宙ニンジャが飛び込んだ。着地と同時にヒロイックなアイサツを繰り出す!

「変幻自在に悪を討つ、平和の使者。ドーモ、マボロシです!」

「……噂の反逆宇宙ニンジャか。まさか地底王国にまで現れるとは」ハヤガワリ・プロトコルを順守した者の正体は99.99%秘匿される。ヒカゲビトは細く息を吐き、全身にカラテを漲らせた。カン王を庇うように宇宙ニンジャ伸縮刀を構えるマボロシ……その時!「ンアーッ!」宴の間から絹を裂くような悲鳴!

「誰か! 誰かーッ!」腕の中でもがくヒミメ王女を「イヤーッ!」「ンアーッ!」ホシカゲビトは当て身で気絶させ、ぐったりとした身体を担ぎ上げた。「ヤメロ! 姉上を放せーッ!」突進するケン王子に「イヤーッ!」ツキカゲビトが肘打ちを叩き込む!「グワーッ!」失神!

「デアエ衛兵! デアエ―ッ!」芝居がかって呼ばわる一方、グモは声を殺して宇宙ニンジャ達に囁いた。(さっさと行け!)(待て。王女の所持品を確認せねば)(バカ! オヌシらと共にいる場を見られたらワシは破滅だ!)追い払うように手を振り、叫び続ける。「デアエ―ッ!」

「……」「……」二人は顔を見合わせ、左手の人差し指と中指を眉間に当てた。「どうした……フム、そうか」ヒカゲビトは王の居室で同様の姿勢を取り、なんらかの超自然的会話を行った。「やむを得ん、お前達は脱出しろ」右手は油断なくカラテを構えている。「こちらもいささか想定外だったが、問題ない。直ちに合流する」

「合流だと? どこにも逃がさないぞ!」伸縮刀を突き付けるマボロシ。「バカめ。カン王暗殺は陽動、我等の本命はヒミメ王女よ」ヒカゲビトは口を歪めた。「王女は貰った。もはやこの場に用はない!」扉に貼り付くや否や身体が消失!『オタッシャデー!』

「アッ……!」マボロシは立ち尽くした。彼の宇宙ニンジャ視力は、ヒカゲビトの肉体が扉と床の間にできた僅かな影に滑り込み、逃亡する一瞬を捕えていた。もはや追跡不能。ならば今は……KRAASH! マボロシは扉を蹴り開け、色付きの風となって走り去った。「王女! ヒミメ王女ーッ!」

「ウーン……」ケン王子は石床から身を起こし、無人の宴の間を見回した。失神直前の記憶が徐々に蘇る。宇宙ニンジャが突然現れ、気絶させた王女を……「そうだ姉上! 姉上ーッ!」駆け去る王子と入れ替わりに、「ヒミメ王女ーッ!」ハヤガワリを解除したハヤトが駆け込む。その足先に何かがぶつかった。

 地底ラッコ毛皮の敷物の下から転げ出たのは、宇宙エメラルドの首飾りだった。「これは……」卵大の宝石をハヤトが拾い上げた瞬間、「クセモノダー!」背後から声が飛んだ。咄嗟に宝石を懐に捻じ込み、振り向くハヤト。そこには仁王立ちのグモが!「デアエ! デアエ―ッ!」

 衛兵隊が駆け込み、たちまちハヤトの四方を槍衾で取り囲んだ。「王女を誘拐した輩を手引きしたのはオヌシだな、地上人!」「バカな! 僕はさっきまで陛下の部屋で……そもそも僕を呼びに来たのはグモ=サンじゃ」「ダマラッシェー!」一喝するグモは内心ほくそ笑んだ。(濡れ衣を着せる手間が省けたわい)

 そして同じ頃、ゴースト山脈頂上付近では。

「あと一息だぜ相棒」「GRRRR……もうグウの音も出んよ」「貸しな」岩壁に取り付くリュウはバルーから鉤爪付きのザイルを受け取り、「イヤーッ!」頂上めがけて投げ上げた。手応えを確かめ、最後の登攀を開始する。「よッと……やれやれ、クソッタレな山登りもこれでオシマイだ」

 その時。「オシマイなのは貴様らだ!」何者かの声が響き渡った。頂上に姿を現した一団は、三面異相の宇宙ニンジャ率いるニンジャトルーパー部隊であった。「ドーモ、ミツカゲビトです。マボロシ=サンがいたのでもしやと思ったが……やはりウロついておったか、ベイン・オブ・ガバナスの反逆者どもめ」

「ドーモ! それでどうしたい。マボロシ=サンにやられて、化物みてェなツラ下げてスゴスゴ逃げ帰ってきたってワケ……アッ!」アイサツついでに憎まれ口を叩くリュウは、トルーパーの一人が抱える少女に気付いて目を剥いた。「テメェ! さてはその子が地底王国のホットなオヒメサマだな!」

「これから死ぬ貴様には関わりなき事よ。イヤーッ!」ミツカゲビトはソードを抜き、足元の鉤爪に振り下ろした。ザイル切断!「グワァァァーッ!」「WRAAAAGH! リュウーッ!」絶叫するバルーの脇を掠め、リュウはゴースト山脈の大絶壁を真っ逆さまに落ちていった!


【ア・プリンセス・オブ・アンダーグラウンド】終わり
【プリンセス・クエスト・アット・ザ・ミスティック・ニンジャ・タワー】へ続く


マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第11話「地底王国の王女」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

ゲストが豪華:シリーズ終盤で大きな役割を果たすモンゴー王国が初登場。王国の野生児・ケン王子役は「小さなスーパーマン ガンバロン(1977)」で主演を務めた安藤一人=サン。ヒミメ王女は「仮面ライダーX(1974)」のライダーガールズの一人、仁和令子=サンであった(大変美しかった)。
 さらに、奸臣グモを演ずるは「仮面ライダー(1971)」の地獄大使役で知られる潮健児=サン。アクの強い風貌で抜群の存在感を発揮した。TVショウ本編では鼻の大きさを巡ってバルーといがみ合う。

ミツカゲビト:特殊メイクで表現されたフリーキーな異相が、「仮面ライダー」以前の東映特撮TVショウ「仮面の忍者 赤影(1967)」や「ジャイアントロボ(1967)」のヴィランを彷彿とさせる。2020年代の目で見ると若干引きますね。
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」は、東映京都撮影所が久々に制作した特撮ヒーロー番組。東映生田スタジオで制作された「仮面ライダー」が「怪人」という概念を生み出す以前のヴィランデザインミームが、期せずして復活を遂げた……ってコトなのかもしれない。

4だけ短かくないですか:アッハイそのとおりです。当初はグモとミツカゲビトのくだりを4に組み入れてたんだけど、次回への引きを考えたら3のうちにやっておくべきじゃね? という思いが否応なく高まった結果です。分割掲載ならではの気付きを得ました。

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