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春が来たんだ。

春は出会いの季節だね。なんて無邪気に君が言うから別れの季節でもあるじゃんと意地悪に言ってみると、別れの後に出会いがあるから良いんじゃん、と中々いい事いうなあと関心してしまった。しまったと言うのは彼とはまだ付き合っている訳でも無いのでそんなに簡単にドキドキしてちゃいけないのだ。ソメイヨシノが満開で街が淡いピンクに染まって、こっちの心まで浮かれてしまうから春は困る。希望に溢れて上京して来る人達の希望の多さに押し潰されそうになりながら、その大半は希望が叶わないのになと思ってしまう事が自分が順調につまらない人生歩んでるなと確認して自分の立ち位置を見定めて希望に溢れてる上京組の浮かれっぷりをはね返す。えいっ。

一年前地元の高校を卒業し涙涙の友人達との別れも、あんなにも悲しく寂しかった上京も、実際来てみるとビルに圧倒され、人の多さに驚き、いつの間にかこれから始まる新生活のワクワクさに負けてニコニコになっていた。
目黒川沿いのソメイヨシノが満開でなんだか淡いピンク色に心が染って、これから始まる新生活は上手く行く気しかしなかった。

まあそんな期待も夏が来る前には消え去ってしまったのだけど。

地元にいた時は絵を描くのが好きでいつも描いていて、みんなに上手だねなんて褒められて、満更でも無くって将来はイラストレーターかデザイナーにでもなりたいなと思い進学した専門学校。大学は凄く上手い人が沢山いて、私のメンタルじゃ持たないだろうなと判断し、専門学校レベルなら全然大丈夫に決まってると思い入学したはずが、なんでこんなにみんな絵が上手いの?大学行けよ!センス良すぎでしょ!食い気味で突っ込んで凹んで一気にやる気が無くなった。絵を描くのが好きだけじゃ駄目なの?なにアートって。KAWS?フューチュラ?知らないと絵が描けないの?
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頭のなかにクエスチョンが沢山で授業っていってもデザインって広告つくる事だったり、イラストの授業ですら好きに描いていい訳じゃなくて全然楽しくない。ってか絶望的に皆よりセンスが無い。それは判る。判るだけにキツい。

梅雨に入り雨が嫌いな私は学校に余り行かなくなった。
卑屈になってしまった私に友達なんぞ出来るわけもなく、ため息をついても一人。はあ…。春が終わった。

結果私は学校を辞めた。なんかわかんないアーティストやデザイナーの名前をじゃんけんみたいにマイナーな人挙げたら勝ちみたいなノリにもついていけなかったし、何となくうっすらと漂うスノッブさに限界が来たのだ。
なーんて言い訳しても結局センスが無かったのは言い訳出来ないので、私には無縁の世界だったんだなと思い、最後にドラえもんが後ろ姿で手を振ってバイバイって台詞を言ってるのをMacのIllustratorで描いて100枚位学校のプリンターで印刷して屋上からばらまいた。因みに学校で100枚もくだらない物をプリントアウトすると超怒られるけど、私の一年間の学費に比べたら対した事ないだろう。

学校を辞めた私に親は帰って来ないなら2年間は仕送りしてあげるから何か見つけなさいと。有難いお言葉を貰ったので私は怠惰な生活を満喫した。アマプラで映画観たり、漫画喫茶で色んなジャンルの漫画を読んだり、AppleMusicで今まで聴くことのなかった音楽を聴いたりして日々を消費していった。そしてわかった事が二つある。人は天才でもない限りインプットしないとアウトプット出来ない。学校の皆が知ってた事はその道を目指すなら知ってて当たり前の共通言語で、それを知ってるからセンスも良くなるのだ。やっちった。私はそれすら判らずに拗ねていたのだ。そういえばこんなに能動的にインプットした事無いもんな。

そして私は後悔と絶望と不安で秋冬と冬眠に入った。
缶詰を大量購入し、カップラーメンを買い集め、部屋はインスタントで溢れた。そしてアートとデザイン関係の専門書を幾つか購入し、部屋から出ることを拒絶した。次の春に向けて私は成長しようと思ったのだ。

三月。春の始まり。梅の花が咲き三寒四温で段々暖かくなっていく感じ。私は春が好きなのだ。特に今年の春は別れが無いから余計に良い。悲しいのは嫌いだ。

冬眠から覚めた私はインプットし過ぎてアウトプットしたくて仕方なかった。そこで街のカルチャーセンターのイラスト教室へと通う事にした。さすがにカルチャーセンターに私以上の人は居ないだろう。

居た。

一人明らかに上手い人が。

同い年位の男の子だ。目がおっきくてまつ毛が長くて色白で服のセンスも私好みの完璧な男の子。この教室選んでよかった。

上手いですね。なんとか出た一言に、彼はびっくりしつつもありがとうとお礼を言ってきて、これなんの絵かわかります?と聞いてきた。怠惰な生活で得た知識をフル動員して、その抽象画を私なりの解釈で、春と答えた。
すると彼はびっくりした顔で、始めて当てて貰えたよ。すんごい嬉しいです。と手を握ってきた。全然いやらしい握り方じゃなくて、小学生が先生にするあれだ。無邪気だな、なんて可愛い笑顔なんだろう、そんなに喜ばないでよ、好きになっちゃうじゃない。そう私は春に弱いのだ。

それから彼とはお互いに絵を見せ合い、褒め合い、刺激を貰ったりしながら仲良くなった。

ここで冒頭に戻る。覚えてる人居るかどうかわかんないけど。私は彼が好きだ。付き合いたい。別れの季節三月が終わったら告白してみよう。彼女いるのかな。居たらショックだな。もしそうなら地元帰ってNEETするか。

そして四月の第一週のイラストのカルチャーセンターにドキドキとハラハラで行ったんだ。
やあ。やあ。お互いに結構慣れた感じで挨拶出来るようになって、いい感じじゃんと思ってたら、春だねーなんて彼が言ってきて、そうだねーなんて相槌打ってたら、春は出会いの季節だねっと言われた訳で、そりゃ春に出会った私達の事を暗喩してるって思ってもおかしくないってか、間違いなくそうでしょ。そこで冒頭の別れの季節でもあるよなんてカマした訳なんですよ。すると別れの後に出会いがあるからいいんじゃんと来たわけ。わかるかな、この流れ。
今日のイラストをお互いに見せっこする時間になってまず彼のを観てドキッとした。相変わらず抽象画なんだけれどピンクにモザイクのように描かれた背景に、始めて人物が描かれていた。それは贔屓目抜きにしても私だった。
私は自分の描いた桜の絵に急いで、
大好きです。私と付き合って下さい。と書き足した。

もちろん。喜んで。と彼も絵に付け足してくれた。

まだ少し寒い四月初め。
手を繋いだらドキドキ解禁の私の手が汗ばんでるのが恥ずかしかった。

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