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口福の杜

大学時代からの友人(女性)のたっての希望で鹿島神宮へ行く。学生時代の友人はほぼ妻の友人であるわけで、うら若き頃から今までの変遷をよく知っているので会話も口さがない。この数年、私生活でも波瀾万丈だった彼女によると、何でも今年の鹿島神宮は伊勢神宮より強いパワーがあるのだとか。そのあたりの謂れがどこから来ているのかわからないが、神社の杜を歩くことの清々しさはよーく知っているので、梅雨の間隙をぬって車を出す。

鹿島神宮は昨年の秋に訪れて以来。大鳥居をくぐってすぐのところにある楼門は修復中でその偉容は見られない。そのかわり昨年修復中だった拝殿がその姿を見せている。まずはここで参拝をする。

重要文化財の拝殿。
拝殿の真後ろにあるご神木の杉の巨木。樹高43メートル、樹齢は1000年と言われる。

杜の巨木や老木に守られるように、一直線に続く参道を奥宮に向かって歩く。天候悪化も懸念されていたが雨が降り出す気配もなく、それどころかかえってここ数日では最も涼しいくらいだ。おそらく30度に届いていないような気がする。助かることこの上ない。

境内の奥には御手洗池という禊ぎの場があってここの湧水は持ち帰ることもできる。周囲は園地となっていて、思い思いに時をすごすことができる。昼飯どきだったのでここに古くからある「湧水茶屋・一休(ひとやすみ)」で腹ごしらえ。メニューの甘味が目に入るや何はともあれまずはだんごということで意見は一致。検討の結果、妻は好物のみたらしだんごを、何でも食べたいオットと友人は三色だんごを注文。

三色だんご。

すべての料理に神宮の湧水を使用しているということで、メインディッシュは蕎麦に決定。充実した夏バージョンの蕎麦メニューから、迷ったあげく八つの具材をのせためでたい「八福そば」というのを頼む。どこまでも欲深なのだ。妻はおろしやねぎなどで一口ごとに味わいが変わる「祭りそば」を注文。他にも店頭のポップには魅力的なメニューがたくさんあるのだが、悲しいかな若い頃の胃袋はもういない。後ろ髪をひかれながら店をあとにする。

力をもらったところで、杜の中へ。鹿島神宮の杜は茨城県指定の天然記念物になっていてシイやモミなどの巨樹が生い茂る。生育南限と北限の植物が入り交じっているのが特徴だという。巨樹に囲まれることで鎮まる心と相反する高揚がもたらす不思議な感覚が嫌いではない。この杜の中に地震を起こす鯰を抑えているという要石がある。

ひとしきり歩くとティータイムになる(歳をとるととにかくすぐ休むのだ)。何を隠そう鹿島神宮には境内にちょっと気の利いた小さなカフェがある。奥宮のはす向かいにある「瀞-trom-」という店で、コーヒーや紅茶からサンドイッチなどの軽食もある。「心がとろむ穏やかな時間をお過ごしください」とある通りの落ち着いた空間だ。

「瀞」のほうじ茶セット。汗ばんだ体をやさしく冷やしてくれる。

参道に正対するようにセットされた大きく奥行きのあるカウンターテーブルが中央にあって、大きなガラス越しに行き交う人を眺めながらの飲食になる。斜め右には奥宮に参拝する人が見え、正面の道を行くと要石のある杜へ向かい、左の坂を下りれば「湧水茶屋・一休」のある園地という岐路にあるので、行き交う人の姿を見ているとなかなか飽きない。何を祈っているのかいつまでもじっと手を合わせている人、杜に向かうわけありげな(勝手な妄想)中年カップル、にぎやかに園地へ向かう若い女性のグループ。当たり前だが、聖なる場所に訪れる人はみんな何かを背負った俗世の人たちだ。

帰り間際に「もういいだろう」というように驟雨がやってきた。しばし軒下に待避して雨を見る。祈祷殿の大きな屋根が黒い。ほどなくして雨は止み、さらに1~2度は低くなったような心地のよい風が渡る中を帰途につく。

雨に濡れる祈祷殿。
鹿島アントラーズの巨大絵馬、

見出しの写真は御手洗池。「一休」の店内に、数十人の「虎に翼」のタキガワさんのような人が池につかり一列に並んで禊をしているモノクロの写真があったので雰囲気だけ。



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