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はじめての、シネマ。

雪の中、三々五々と集まってくる犬たち・・・。というシーン、これが記憶というガラクタ置き場の中から発掘された最も古い鑑賞のカケラなのだ。よってこの映画をはじめて観た映画と暫定的に決めている。

映画は「わんわん忠臣蔵」という長編アニメーション。公開は1963年、まだ4歳の時でおそらく翌年テレビ放送されたというそちらの方を見たのだと思う。原案は手塚治虫だが、出来上がった作品はそれとはかけ離れた内容になっているらしいが、そういう大人の事情は年端もいかない子どもには関係ない。母親の命を奪った虎のキラーに復讐するべくかつての仲間の野良犬たちとキラーを倒すべく立ち上がるロック、というのがおおまかなストーリーだったようだ。だから忠臣蔵なのだ。とにかく画面いっぱいに繰り広げられる野良犬たちの活躍に就学前の坊主は心を躍らせた。作品はカラーだったがカラーテレビはまだ高嶺の花もいいところ、記憶の中のカケラも白黒になっている。

主人公の名前はロック。どこかで聞いたことがあると思っていたら、少し前にnoteでも取り上げた「愛犬ロック」じゃあないか。どうしてロックにしたのか長い間思い出せずにいたが、答えは「わんわん忠臣蔵」だったのだ。ということでたった今から「わんわん忠臣蔵」は暫定的なはじめてのシネマから公式見解として認定してもいいかと思う。歴史は動く(大げさな)。

映画館というハコ物に出入りするようになるのは小学1年から(なんせ徒歩5分圏内だった)。怪獣映画の全盛期だ。公開日から目星をつけると併映された「ガメラ対バルゴン」と「大魔神」(1966年4月)が大スクリーンで観た最初の作品だと思う。したたり落ちる緑色の血、精細な怪獣たちの造形、テレビでは得られない迫力に釘付けになった。この年の12月に「ゴジラ・エビラ・モスラ南海の大決闘」が公開されているので、これがおそらくはじめてのゴジラ。地の利を生かして小学3年あたりまでは怪獣映画三昧だ。

怪獣も飽きたと思っていたころ、初めて父親に連れられて銀座へ映画を観に行ったのが小学4年。それまでの小便くさい田舎の映画館しか知らなかったので、これが同じ映画館なのかと驚くばかりだった。ずらりと並んだポスターや夥しい看板の前で「好きなものを選びなさい」と言われ選んだのが「ラブ・バック」という映画。感情を持ったワーゲンがレースで活躍する話。かなり楽しかった感覚だけが残っている。父親は弟にも同じ年頃に同様の試みをしていて、弟は「ベルモンドの怪盗二十面相」を選択した。父親は高校の頃「映画評論家になるのもいいか」なんて思ったりしたらしく、子どもにも積極的にこの世界に触れさせたかったようだ。小学生の頃、テレビ放映された「北北西に進路をとれ」を部屋のあかりを消して鑑賞に付き合わされたこともあった。

高校から20代にかけてあれだけ観た映画を近頃はさっぱり観ていない。家でも観ないことはないのだが、ゴミ箱が視界に入ったり、あまつさえ外界の音が容赦なく侵入してくる環境でというのはどうも作品世界に入りにくく積極的になれない。市内にシネコンはあるのだからシニア割を利用してどんどん観ればいいと思うのだが上映される作品は限られている。わずかの交通費で行けるミニシアターがいくつもある環境というのは東京にしかないし・・・。若い頃の意欲がないことへのいいわけと言えなくもないけれど。


見出しのイラストは「Asami」さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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