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朝ぼらけ、夕まぐれ。

突然立ち上がって数日間頭の中に居座る言葉がある。ここのところは「朝ぼらけ」と「夕まぐれ」がセットになってぷかぷかと浮いている。彼は誰だか誰そ彼かは知らないが、誰かがそこにいる。「ぼらけ」とは「開け」「仄明け」あるいは「朗け」からの転訛だと諸説あるようだ。「まぐれ」は「目暗れ」らしい。いずれにしても何かがはっきりとしてくる、または曖昧になるその間際ということにしよう。

人さらいがやってくるのはこういう時間帯なのだろう。誘拐ではなくあくまでも「人さらい」。またの名を「神隠し」。痕跡は残さず、あとにはただ風も吹いていない。そういえば、GEISHA  GIRLSの曲に「Grandma  Is  Still Alive」というのがあって、身代金を要求する誘拐犯との電話のやりとりなんだけれどこれがおかしいのなんの。作曲は坂本龍一教授であります。 

「夜明け」や「夕暮れ」がこの世の正しい営みの上に訪れる予めわきまえられた感傷ならば「朝ぼらけ」と「夕まぐれ」は、現(うつつ)から抜け出す扉をそっと開け、手招きをする蠱惑の響き。「夜の散歩をしないかね」とキヨシローに誘われるのは「夕まぐれ」、歩き疲れたころに訪れるのが「朝ぼらけ」。あるいは「夜明けの縁をさ迷う人々」のためのシェルター。Yes or Noに疲れた時にやってくる時間のベンチ。

シーナ(椎名誠)が「失踪願望」の続編を出した。失踪とか蒸発の誘惑とというのは歳とともに増していくのだろうか。彼の年齢までまだ10数年もあるのだが、安定とそいつはパラレルなのかも知れない。安定は喪失でもあるのだ。


見出しの写真は「Shinsin」さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。



 

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