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授業をさぼって陽のあたる場所にいたんだよ。

期末試験が終わって夏休みを待つのみになった今頃のような気がする。高校生になって初めての夏休みだ。気がするだけでまったく違うかも知れない。なにしろ半世紀近く前のことなので、そういう前提にする。

昼休み、突然Tその1が5時限目の数学さぼっちゃおうかと言い出した。近くにいたTその2が提案に賛同する。部活動も出身中学も違うTその1とTその2とは、夏休みに3人で奥多摩の御岳山ハイキングに行こうと予定を立てていたから、何かと一緒に行動することが多かったような気がする。8月に入ると1年生は戸隠方面へのバスツアーというイベントが組まれていた。日中は初心者向けのトレッキングコースを歩き、夜はキャンプ。クラスメイトの距離を一気に縮めるいい機会、といったところだ。もちろん楽しみではあったのだが、どうもこの3人はそれだけでは飽き足らなかったらしい。個人的には恒例の家族旅行(弟がまだ小学6年生だったので欠席というわけにもいかない)もあったので、忙しいったらありゃしない。

向かったのは屋上だ。今はどうだか知らないが屋上は自由に出入りができた。みんなが教科書を広げているとき、オレたちはこんなに心地いい風に吹かれているんだぜ。小高い丘の上に立つ学校の、さらに屋上はすこぶる見晴らしがいい。世界から遠くはなれて愛も叫んじゃいそうだが、叫んだら最後サボっていることがばれてしまうので恋人たちは正しく密やかにいなければならない。男3人はいったい何を話していたんだろう、何にも話さずただぼーっとだったかも知れない。しれっと何ごともなかったように6時限目の席についたちょっとくせになりそうな背徳感。

とはいえ高校3年間で屋上に上ったのはほんの数えるほどしかない。表向き進学校だったのでそうそう授業をさぼるなんてこともできないのだ(別にさぼらなくても行けるけれど)。もっと足を運んでおけばよかったかな?とほんの少しだけ思ったりして。

見出しの写真は「稲垣純也」さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。



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