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「イラストレーター安西水丸」展

没後8年の回顧展。地元・佐倉市立美術館で開かれているとあっては行かねばならない。水丸さん(村上春樹の影響でこう呼ぶのが一番落ち着く)は3歳から15歳までを南房総の千倉で過ごしたいわば千葉県ゆかりの人物。勝手知ったる美術館と用足しついでの気軽さで入ったら、とんでもない。せいぜい1時間位だろうと高を括っていたのが、思いのほかの充実ぶり。時間指定の宅配便が頭の隅をよぎる。

装丁、絵本、広告、エッセイなど世に広く知られた「仕事」から、幼少期の「作品」、デザイナー時代、「ガロ」に掲載された漫画、嵐山光三郎・村上春樹・和田誠といった作家との交流から生まれた作品たちなど500点以上が紹介されている。

500点余の水丸ワールド。

イラストの魅力は言うまでもないが、曲者なのは挿絵にしばしば添えられている文章。いや、添えるという表現は正しくない。思わずニヤニヤと読み込んでしまい、鑑賞時間をさらに引き延ばす。

「シネマ・ストリート」の挿画。「荒野の用心棒」「道」「座頭市物語」「火の鳥」「スタンド・バイ・ミー」「錆びたナイフ」など。

似顔絵が似ないと打ち明ける水丸さんに村上春樹が返したのは「でも水丸さんには矢印という強い味方があるじゃないですか」。それから水丸さんにとって矢印は強い味方になったという逸話が面白い。ナイフを持った男に堂々の<石原裕次郎→>。

佐倉市の紀行エッセイ&スケッチ「鳥瞰図のなかを歩く・城下町佐倉の一日」
漫画「普通の人」原画。「電車のなかでそれとなく中吊り広告を見て頷いているおじさん、若い女の脚にそれとなく目を走らせる中年サラリーマン、空席を物色している買い物帰りのおばさん、車窓に映った自分の髪型を気にしているОL、どれもこれもみんな普通なのだが、実はそこに怪しい狂気がひそんでいることは誰も気づいていない」いかにも。

こちらもどこに水丸さんの「狂気」が潜んでいるのかつい探してしまう。時間がいくらあっても足りない。

広告はつい見てしまう。東芝、東京ガスの新聞広告。
懐かしすぎる!色指定。80年代の自分を思い出す。
嵐山光三郎、村上春樹、和田誠3氏のコーナーも。

「結局のところ、水丸さんは絵を描くだけではなく、最初から最後まで、安西水丸という一人の人間を絵というかたちで表し続けていたのだという気がする」というのは村上春樹の言葉。そう、表向きの明るくユーモアのある作風に騙されてはいけない。そこには水丸さんのタダならぬ「情念」が隠されているのだ。

会期中の館内カフェの特別メニュー。この日は売り切れ。残念!

分厚い作品集とTシャツを買ってしまった。ご近所で思わぬ大盤振る舞い。


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