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吉田拓郎「ah‐面白かった」アナログ盤

吉田拓郎のラストアルバム(多分)「ah‐面白かった」のアナログ盤が届く。CDにはないショートストーリー付、ジャケットも違う。ファンはこういう商売にあっさりと乗る。このサイズだからこそのジャケ買いだと改めて手にして思う。わが家にはひょっとこ風の男がセーラー服を着たサザンオールスターズ「ステレオ太陽族」のジャケットが壁に飾られている。思い切りセンスが悪いという人もいるようだが、このサイズだからこそはじけられたアートワークだと思う。ちなみに吉田拓郎においては「今はまだ人生を語らず」のジャケットが一番のお気に入り。煙草を手にいかにも不遜な男は、思春期の小僧にこんな大人になりたいと錯覚させるに十分だった。

手元に届いた「ahー面白かった」のジャケットは、帽子を手にした白い服の女性が青空の下を歩いているさわやか度100%の写真。モデルは奈緒さん。ナチュラルなキュートさで個人的にも好きな役者だ。奈緒さんはお若いのに吉田拓郎のファン。以前も東京国際フォーラムへの参戦を自らのインスタだったかにアップしていた。アートディレクションとコスチュームデザインは篠原ともえ、題字は堂本光一(これはCDも同じ)。

齢50を迎えた吉田拓郎にとってKinki Kidsと出会った「LOVELOVEあいしてる」はまさに再生の場だった。固定された(多くは誤った)拓郎像を壊すべく彼は果敢に望み、新しい生命を得た。あの番組がなかったら吉田拓郎はもう「死んで」いたのは間違いない。

年齢ととともに彼はまた「旧知」の人々と距離を置くようになる。とりわけ同世代の「フォークシンガー」と呼ばれる人たちと(吉田拓郎をフォークシンガーと呼ぶ人もいるかと思うが、もともと彼にその志向性はない)。近年、BSなどで時折彼ら「フォークシンガー」がユニットを組んで歌っていたりするのに遭遇するが、いくつかある好きな歌もさっぱり伝わってこない。昔の歌をただ懐かしんで歌われても、老人会の余興を聴くようで心はちっとも踊らない。古い歌にも今の息吹をちゃんと吹き込んでほしい。吉田拓郎が距離を置いたのは彼らを見ると至極合点がいく。

奈緒さんのアルバムジャケットを見ていてふっと浮かんだ吉田拓郎の歌。

白いたんぽぽの落下傘
ふーっと息を吹きかけて
えくぼポツンと微笑んだ
風の静かな午後でした
   話しかけていいですか
   目かくししてもいいですか
   そんな言葉をすり抜けて
   両手広げて大地を蹴って
   青空を青空を飛ぶ少女よ
   もっと もっと もっと もっと 
            綺麗な絵になりなさい

いつも遠くを見ているね
心は風の化身かな
草の香りに横たえた
くちびる指でたどりたい
   話しかけていいですか
   目かくししてもいいですか
   苦しい胸の早鐘を
   空が淋しく見ているね
   青空を青空を飛ぶ少女よ
   もっと もっと もっと もっと 
            綺麗な絵になりなさい

飛び方さえも忘れさる
そんな大人になる前に
   青空を青空を飛ぶ少女よ
   もっと もっと もっと もっと 
            綺麗な絵になりなさい

松本隆「この歌をある人に」


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