見出し画像

【短編小説】全てから自由になったらどうなるんだろう。~自由っていったいなんだ?~③【中編】(全4話)

自由にも種類があるのかもしれない。


 20xx年5月12日午前10時10分・拠点時間

 俺はこれまでやった要領で、好きなマンガを好きなだけ出した。ふと疑問ができた。このマンガはどこから出てきたのか。でもめんどくさいので、世に出ている本のコピーだと、仮定した。しかしその仮定から、さらに疑問がわいた。

 もしお金(現金のお札)を出したら、その金はどこから来るのか。以前、ドラマか何かで見た記憶がある。ある男がひとつだけ願いを叶えられる。その男は、一億円ここに出してくれ、と願う。要望通りに一億円が出る。しかしそのお金は、精巧に作られた偽札だった。お札に書いてあるナンバーが全部いっしょだった。男はあえなく御用となったとさ。

 つまり、正式に認められたお金と言うのは、日本銀行で刷られたお金だけだ。小銭はいくらでも複製できるが。もし俺が、『十億円を手にする自由を!』と願えば、どうなるか。どこか(銀行の金庫とか)の金が瞬間移動して俺の手元に来る。または、人間にも機械にも区別がつかない、ナンバーもバラバラな、完璧な『偽札』。どっちにしても犯罪だ。しかし、証拠がいっさい残らない完全犯罪。 だが、『完全な自由』を手に入れた俺には金自体の価値がほとんどなくなった。ちょっと考えただけだ。 どうでもいいや。マンガ読も。

 スーパーフリーダムマンガタイムきらら。秘密基地の中でポテチとコーラを飲みながら、貪るように好きなマンガを読みふけった。そういえば、まだ出ていない未来のマンガも自由の力で読むことができるのか。うーん、なにかもったいない気がする。まあ、それもそのうちに。あせらないでいい。

 俺が夢中でマンガを読んでいるのを見て、ポコタも興味を持ったらしい。肉球をうまく使ってページをめくっている。ムムム、とか、フニャ!?とか、カッコいいニャア!とか楽しそうに読んでいる。ポコタもマンガの魅力のとりこになったらしい。ちょっとかわいい。

「あなたも『見た目は子供、頭脳はふつう』のビミョーな名探偵になってみないかニャ?」
「ウミャアアアアン!和也を生き返らせてあげてくれニャ!」
「金髪のツンツン頭にしたり、ピンクにしたりもできるニャ。」
「そろそろカッコいい必殺技を作るころじゃニャイか?ポコタストラッシュ!とか。」

 一見冗談を言っているように聞こえるが、そういえばそういうことも全部実現できるんだなあ、とマンガを読みながらぼんやり思った。ポコタストラッシュはダサいからやらないけど。

 なんとなく思ったことをポコタに聞く。
「なあ、ポコタ、質問いいか?」
「なんニャ?今ちょうどアリ編が一区切りしたから答えるニャ。」
「もし『世界平和』を願ったらそれは叶うのか?」
「うーん、答えはイエスでもありノーでもあるニャ。願い自体は実行されるニャ。でもおすすめしませんニャ。『平和』の定義があいまいすぎるニャ。人によって平和とは何か、千差万別ニャ。あなたにとっての世界平和か、UNO大統領にとっての世界平和か、万人の平均をとった世界平和か。最悪、地球にとっての平和ということで、人類がガンとみなされ、消滅するかもしれないニャン。これらはポコタの意見でしかないけど、とにかくどうなるか予測不能ニャン。」
 少し間をおいて、ポコタは続ける。
「ちなみに、逆に『争いに満ちた世界』なら分かりやすいニャ。でもそれをやるかどうかは、あなたの良心にまかせるニャ。」

 うーん、なんか重いなあ。マンガで楽しかった気分が少し冷めてしまった。休憩がてら外へ行って、空を飛ぶ練習でもするか。引きこもりはほどほどに。

        ▼

        ▼

        ▼

 結局マンガタイムは100時間くらい続いた。もちろん、休憩や睡眠時間もあり、実時間2週間くらいだと思う。そんなに長く家にいなかったら家族は大さわぎなので、時計の時間はちょこちょこ戻していた。こうなってくると時間感覚がわけわからなくなってきたので、実時間時計でも作ろうかな。

 ここでやっと、俺はやっと、そろそろ学校にも行ってみようかな、と思い立った。ここまでの話でだいたいわかると思うが、俺は基本、ひとり遊びが好きだ。一人っ子というのもあるかもしれない。でも、娯楽あふれる現代、あと、まだ『自由の力』が自分の周辺しか使えない(使わない)環境なら、俺の行動もおかしなことじゃないかもしれない。

 学校がキライって程じゃない。何人か楽しい友達もいるし。というわけで、20xx年5月12日午前10時10分、拠点時間に戻り、さらに2時間戻し、俺は学校に行った。現実の時間だとポコタと会って一晩しか経ってないのか。変な感じ。

 学校では久しぶりに級友に会ったが、向こうからしたら俺はきのうも学校に来てて、いつもと同じ一日の始まりだった。ただ、「あれ、お前なんかかわった?」と聞いてくるやつもいた。この間いろいろあったことで、無意識に態度が変わっていたのかもしれない。

 友達と久しぶりに会うのは楽しかったが、やはり授業は退屈だ。せっかくだから、『自由の力』で、ちょっといたずらしてみようかな。心の中で念じる。
(先生の持つチョークを自在に動かせる自由を。)

 先生が手に持っていたチョークがひょい、と手を離れ宙に浮く。そしてトンボのように教室中を飛び回る。みんなが「!?」と驚き大騒ぎになった。「キャーキャー!」「なんだこれ!?」「スマホスマホ!」「俺の念力だぞ!」
 先生の頭の上に止まり、バリン、とこなごなになり先生は粉まみれ。相変わらず、『自由の力』はちょっとしたことでも大騒ぎになる。でも、これくらいならいいよな。

 そんな感じで、『自由の力』とたまに日常生活を送る日々が続く。

         ▼
         
         ▼
       
         ▼

 20xx年5月26日午前10時10分、
 最初の拠点時間から二週間が経っていた。26日が今の拠点時間だ。この間、ほんとうに色んなことがあった。実時間ではもう一年くらい経っていた。(実時間時計も作った。)

 大きなところで言うと、人類初の別の惑星に行った。つまり火星に降り立った。もちろんいきなり『火星に瞬間移動する自由を!』と何の準備もなく行ったわけじゃない。瞬間移動は最初は近隣の県、北海道、外国(中国、エジプト、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパ、南極)、とじょじょに距離を伸ばしていった。それに伴い、身体のほうもだんだん、どんどん強化していった。暑さ寒さに耐えうる身体。銃弾もはじき返す強靭な鋼のような身体。36時間、呼吸しなくても大丈夫な身体(なぜか時間制限をもうけた。全く呼吸しないというのは何か違う気がした。)真空でも…と考え得る限り強い身体にしていった。本当にゲームのプログラムを書き換えるような、チート能力だ。若干の後ろめたさを感じつつ、俺は浮かれていた。

 一年も経つと空を飛ぶのもマスターしていた。重力の向きも変えれるようにして(自分の周りだけ)、空を8の字やら一回転やらほぼ自在に動けるようになった。大騒ぎにならないように透明になろうかと思ったが、時間停止で同じ効果だと気づいた。
 瞬間移動とのコンボでエジプトの空を飛んだのは圧巻だった。

 マンガの世界に入り込み、主人公とともに冒険するというのもやった。ポコタ曰く、夢の世界に入るようなもので、今時で言うとVR(仮想現実)的なものニャン!ということらしい。マンガの世界を荒らすのも気が引けるので、それでいい。俺の好きなキャラと話したり共闘したりするのは、まさに夢のようだった。

 ちょっとした…いや、かなり大きな失敗もした。『人類のすべての英知をインプットする自由を!』と願った。とたん、膨大な知識の波が頭の中に入ってくる。頭が痛い!痛すぎる。その中で何とか心を落ち着かせ、『俺の脳の記憶容量を莫大に増やす自由を!』となんとか願う。頭の痛みが治まる。しかし、もっと巨大な知識の波が押し寄せる。さらにひどい頭の痛み!俺はさらに記憶容量を増やす。頭の痛みが治まる。しかし…、とキリがない。俺はあきらめて頭の痛みの中、『さっきまでの願いを全てリセットする自由を!』と唱える。頭の痛みも膨大な知識も去っていった。『さっきまで』というあやふやな願いでうまくいったのは運がよかった。少しだけ残った知識でわかったのは、英知と言うのは知識の量だけではなく質、徳、人間性など、様々な要素が複雑に絡み合った高尚なもの、だということだけだった。それも断片的に。

 それから、俺の尊敬する音楽のアーティストに会った、会ったんだが…。ここからこの『完全な自由』の能力に少し疑問が生じ始めた。
 時間を止めてテレビ局の楽屋に忍び込む。そしてその人の近くに行く。時間再生。その人はいぶかしげに俺を見る。この尊敬する人の名誉のため細かくは言わないが、けっこう辛辣なことを言われた。いきなり知らないやつが現れたんだ。しょうがないことだ。俺は念じる。
(【この尊敬する人】と友達になれる自由を。)
 とたん、その人は親し気に、ひさしぶり!って感じでフレンドリーになった。その時の俺は尊敬する人と話ができて、舞い上がっていて、うれしくて、何の疑問も抱かなかった。

 ポコタは言っていた。あらゆる事、物、者を自由にできる。
 一番怖いのは、『事象』ではなく、者、つまり『人の心』を自由にできることだ。

 拠点時間に戻る。20xx年5月26日午前10時10分。いつものようにさらに二時間過去に。そしてたまにの学校へ行く。

 学校ではここ最近のいろいろな怪奇現象についてのうわさで盛り上がっていた。全部俺がやったことだが、実時間一年以上に対して学校は数日しか行っていない。正直、小さなこと、どうでもいいことと思っていた。

 その日の昼休み、ある男が俺をにらんできた。そしてすれ違いざま、俺に「殺すぞ。」とささやく。なぜそんなことを言われたか。心当たりがあるような、ないような。それもどうでもよかった。ただ、そんなことを言われて何も感じないような温厚な性格でもない。これくらいならいいかと、俺は『自由の力』で遠くにいったあいつの頭を軽くなぐった。あいつはしゃがみこむ。はたから見たら何も起こらずあいつが急にしゃがみこんだだけと見えるだろう。そして俺は思う。思ってしまった。

(俺がその気になれば、お前なんてこの世から消し去ることだってできるんだぜ。)

 20xx年5月27日午前10時10分

 拠点時間が一日進んだ。この間俺は考えた。というより悩んだ。俺は人の心を自由にできる。この人と恋人になりたいとか、こいつと親友になりたいとか、果てはアイドルや新興宗教の教祖のように、大人数の人間の心をつかむことができる。しかしそれは本当の恋人だろうか。本当の親友だろうか。

『完全な自由って、もしかして絶望的に孤独なんじゃないか?』

「なあ、ポコタ。もし俺がポコタの心を操ったら、ポコタは怒るか?」
「変な質問ですニャ。心を操られたら、怒るも何も、なにも考えられないニャ。」
「だよなあ。」

 ここで俺は、根元的な、とても大切な、疑問を心に抱く。
 自由という概念の解釈。
『完全な自由』 は 『本当の自由』なのか?

 俺はこの日、《《ある重要なことを自由の力で願った》》。


 《終編につづくニャン!》



一億円ください じょーく