マガジンのカバー画像

小説『虹の振り子』

24
中編小説『虹の振り子』をまとめています。 国際結婚と家族の物語です。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

小説『虹の振り子』16

第1話から読む。 前話(15)から読む。 <登場人物>  翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父      芳賀朋子:翔子の母           芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母       芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父         ジャン:翔子の夫(イギリス人)  鳥越玲人:翔子の従兄  * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 08  タクシーは切妻屋根のある門の前で停車した。  門をくぐると、竹林の小径を思わせる小柴垣に守られた竹がエントランスまで続く。縦

小説『虹の振り子』15

第1話から読む。 前話(14)から読む。 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 07  竹林の小径の入り口でタクシーを降りた。  まだわずかにそぼ降る雨が残っていた。  小柴垣に囲われまっすぐ天に伸びる竹が、高い先をしならせ両側からなびき、小径を天蓋のように覆う。このくらいの雨なら傘は要らない。笹が微小な雨粒のヴェールをまとい、下から見あげる緑はいっそうあでやかで清冽だった。  映画やドラマの撮影でなじみの竹林の小径は、野宮神社からはじまり大河内山荘へと抜ける。

小説『虹の振り子』14

第1話から読む。 前話(13)から読む。 <登場人物>  翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父      芳賀朋子:翔子の母           芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母       芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父         ジャン:翔子の夫(イギリス人)  鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 06  翌日は、朝から細い雨が降っていた。  軒を跳ねる規則的な雨音で翔子は目を覚ました。  朝食の準備を手伝うつもりでいたのだが、

小説『虹の振り子』13

第1話から読む。 前話(12)から読む。 <登場人物>  翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父      芳賀朋子:翔子の母           芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母       芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父         ジャン:翔子の夫(イギリス人)  鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 05 「いいかい、翔子。人は揺れながら生きているんだよ。現代と過去、未来との間を、振り子のように」  ――えっ?   翔子は膝に抱えた

小説『虹の振り子』12

第1話から読む。 前話(11)から読む。 <登場人物>  翔子:主人公 芳賀啓志:翔子の父      芳賀朋子:翔子の母           芳賀登美子:啓志の母、翔子の祖母       芳賀仁志:啓志の父、翔子の祖父         ジャン:翔子の夫(イギリス人)  鳥越玲人:翔子の従兄 * * * * * 第3章:帰宅――<ホーム> 04 「暑くなってきたね」  陽は射しこまずとも、ぬるく居座る熱気はすべりこむ。  父は立ち上がると、書斎机の前の窓を閉め、エアコンの