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なぜ「斬奸状」なのか~創作大賞感想




舞台はヴェトナム


Yukitaka Sawamatsu氏の書く作品は、在住する東南アジアの空気を纏っている。異国の雰囲気が表われている街や生活の写真は、アート作品かと思うほど。それと相まって、なんとも言えずアジアン風で、しかも硬派な雰囲気を醸し出している。




海外勤務初めて。家具会社初めて。
そのヴェトナムの会社で待ち受けていたのは、個性の強い三人の長老。
個性が強いという言葉では表わされない。
強烈な個性。
強烈な自我。

なんせ 「開発」担当は”女狂い”
「品質」は”ギャンブル狂”
そして「設備」は”アル中”なのだ。

無視されたり仕事を教えてもらえなかったり、洗礼を受ける。
しかし、こちらの武器は「挨拶」
どうにかして突破口を見つけようと奮闘する。

バトルがあり、そうして、長老たちとの距離を縮めていく。


斬奸状


作品「H氏への斬奸状」と「続・H氏への斬奸状」の中心は、この3人のなかでも、一番やり合い、手こずり、そして一番印象に残っているH氏だ。

斬奸状(ざんかんじょう)
悪人を切り殺す時、その理由や思うところを明らかにするために書き記した文書のこと

コトバンクより抜粋

作者は作家沢木耕太郎氏を敬愛している。
「斬奸状」という言葉も、沢木耕太郎のノンフィクション「テロルの決算」から取っている。


なぜ斬奸状なのかは、後で述べることとする。


大川弁

この作品の魅力の一つが、長老たちの使う「大川弁」だ。

福岡県大川市は家具の街として知られる。3人の長老はその出身だ。

 どげんでんされん

「どうすることもできない」という意味である。
 
             なんばしょっとね!

長老たちの大川弁が、何ともいい雰囲気を出している。当事者たちは必死かもしれないが、読む方は、つい心が和む。

いや、優しいことなんか言っていられない。その中で、長老、H氏のやりたい放題が描かれる。Sawamatsu氏はH氏に胸ぐらをつかまれ、やりあい、<戦争>(ゲーテ)状態になる。


行動の理由

 私は今まで仕事を通じて、いろいろなお年寄りを見てきた。

お年寄りは個性が豊かである。素直なお年寄りもいるが、周りを振り回す頑固者もいる。年をとるほど、ヘンクツになる。(私かもそうかもしれない)

だが、お年寄りは周りに迷惑をかけたいのではない。その行動の裏には理由がある。(そう習った)

言葉と心が違うなんてこと、ざらにある。

それから、たとえば、育ってきた道。

どんな家に生まれて育って、どんな仕事をして、どんな生き方をしてきたのか。それらは、現在のお年寄りの生活や行動に色濃く反映されている。
(と習った)


年齢が分からないので、お年寄りではないかもしれない。しかも、長老やH氏の行動は、それだけで説明できるほど、生半端なものではないと思う。

だが、どんなに周りが「大変」と思う人でも、自分の事を認めてもらいたいと思っている。実際には迷惑をかけているから、認めてもらいにくいのだけど。

周りだって、振り回されながら、「しょうがねーなー」と思っているかもしれない。愛しているのかもしれない。


結局、何を言いたいかというと、そして、私はH氏のような型破りの人に惹かれるのだ。好きと言って良い。

ただし、私は気が弱いので、目の前で怒鳴られたら、縮こまってしまうと思う。



H氏は、Sawamatsu氏に、「自伝を書いてくれや」と頼むのだ。しかも「炎上」するように書いてほしいと。
それって、どんな要求だ?笑ってしまう。

「炎上」がH氏の自己表現なのだろう。


なぜ斬奸状なのか~沢木耕太郎

H氏は突然逝ってしまう。

「死の力」だ。
「死」は亡くなった人との関係を変えることもある。

では、改めて問う。

作者は、なぜここで「斬奸状」という言葉を使ったのだろうか。

H氏を切り捨てるためだけに、これを書いたのだろうか。

私は、それだけではないような気がする。


切り捨ててはいる。
大変な思いをさせられた。
切り捨ての理由や思いも明らかにしている。

「不倶戴天の敵」としても、「極めつきの下衆野郎」としても。



でも・・・


この後に続く文章、H氏に対する思いは、前編の初めの方で、ご自身で書いておられる。是非読んでもらいたい。


最後に


この作品の魅力のもう一つは、若かった作者が、異国で長老たちとバトルして鍛えられ、また協力したりして、仕事人として力をつけていく、つまり、立場もわきまえず生意気な言い方をするなら、成長していく姿が心にしみるのだ。

それを言うと、作者は怒るだろうか。
「そんなつもりで書いたのではない」と。



*ヘッダー写真はお借りしました。
何とSawamatsu氏の写真でした。

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