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[SF小説]人工世界 ‐ The artificial world ‐ 7

「……さん、わかりますか?」
僕は硬いベッドの上で起こされた。夢と現実の狭間で、どうしてこの人はわかりきった事を続けざまに訊いてくるのかと憤りながらも、礼節を装って淡々と答えるよう努めていた。
「お名前は?」
「レンです」
「今日の日付は?」
「10月1日」
「ここはどこかわかりますか?」
「それは……わかりません」
「合格です。問題無いですね」
白衣の女の人はそう言うと、部屋から出ていった。
「ここはどこなんだろう」
僕は白い部屋の中にいた。窓は一つもなく、蛍光灯の白い光に照らされている。もう少し寝ようと目を閉じるが、どうも落ち着かない。何か大切なことをやりかけていたような…… 淡い意識の中で考えていると、足音が2人分近付いてきた。
「君がレン君かぁ。大分無茶をしたねぇ」
高そうなスーツを着た男だ。先ほどの白衣の女の人を連れている。
「私はウォーリーだ。もちろんコードネームだが。こちらはメイ君。このターミナルの施設長だ。知りたいことがあれば彼女に聞いてくれ」
メイは会釈をした。ウォーリーは続けた。
「ハルト君については無許可で一般人を作戦に動員するというかなりの軍規違反をおかしたわけだが、h2000の急襲からその一般人を守り抜き、転送装置で退避しおおせたということで評価はしたいと考えている。h2000がオペレーターを直接狙えたということについては我々にも責任があるわけだしな」
そうだった。僕はh2000に襲われて、おそらく転送装置? とかいうやつでここに飛んできたんだ。
「ハルトは無事なんでしょうか!? h2000はどうなったんでしょうか?」
「彼は無事だよ。負傷して比較的短時間でこちらに来たからな。でもリハビリは必要だ。左腕を機械に換えたわけだから」
そうだった。ハルトは僕をかばって左腕を切られたんだ。あのとき僕がすぐに動けていれば。
「h2000はすぐにこちらの送ったh2100が撃破してくれたよ」
ウォーリーは続けた。
「ハルト君の軍規違反についてだが、なかったことにできる可能性がある。君を正式にうちの隊に迎えたい」
「え、僕……ですか?」
「そうだ君だ。ハルト君と同様、優秀なオペレーターだと聞いている。それにちょっとした時間のズレに目を瞑れば、君は一般人ではなく一人の隊員として戦闘に参加したことになる。ハルト君は軍規違反ではなかったということになるわけだ」
大学にもそんなに行ってないし、別に問題はないか……
「入らなかったらハルトはどうなるんですか?」
「どうにもならない。ただリハビリのついでに更生プログラムを受けてもらうだけだ」
うーん。ずっとダイブしてても文句言われないわけだし、別にいいか。
「わかりました」
「おお、良かった。よろしく頼むよ」
ウォーリーが手を伸ばし、硬い握手をした。
「あの場所からダイブするんですか?」
「ああ、そのことだが」
ウォーリーは思い出したように言った。
「h2000による襲撃事件があってから、当面全てのオペレーターは本部からダイブしてもらうことになった。端末を分散させて敵から位置を特定されないようにしていた訳なんだが、特定されるようになってしまった今、分散していては守り切れんからな」
「電気代もバカになりませんしね」
メイが補足した。
「転送装置はとんでもないエネルギーを使うので、緊急退避を乱発されたら、お金が保ちません」
「そういうことだ。さて、」
ウォーリーはスーツのえりを正した。
「レン君。君に仮想空間防衛隊本部を案内したい。コンディションを十分に整えて、ハルト君に匹敵する働きをしてもらわないといかんからな」

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