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涙の上書きシリーズ

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ジワっとくる話、涙モリモリな話をピックアップしてます。 ほぼフィクション、創作も少しございます。
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記事一覧

光男

光男

(3129文字)

光男は夢を見ていた。
粗末な薄い布団に包まり、彼は幸せな夢を貪る・・。

目の前のテーブルには見た事の無いような豪華なご馳走が並び、
それを片っ端から延々と食べ続けていた・・。

若い女性達が、光男の好きな料理ばかりを尽きる事なく運んで来る。
しかし何故か、いくら食べても腹は膨れない・・。

やがて、遠くから静かに優しいメロディーが聴こえて来る。
そう、体に染み付くほどに聞き続

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Moved soul No.01

Moved soul No.01

    「V」
(2597文字)

その日の横須賀は曇天で、六月だと言うのにかなり蒸し暑かった。

僕はお昼過ぎに友人と横浜駅で落ち合い、京浜急行で横須賀へ向かう。
目的は単なる野次馬心で、その日の横須賀での大規模なデモを見に行く事だった。
相当な混雑が予想された市内中心部を避け、郊外の「汐入駅」で下車すると、もう既に目の前の海浜公園の広場では、大きな赤旗とドカヘルマスクの集団が海に向かって大声を

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Moved soul No.02

Moved soul No.02

One coin story

(1963文字)

北国のある駅裏のバスターミナルでのこと。
その日は小雪がちらつく寒い日だった。
僕は仕事を終えて帰りのバスを待っていた。

やがていつもの家路路線のバスが来て僕は乗り込む。
始発から乗る客の特権で最後列の私的指定席へ座る。ほぼ100%日々そこは確保出来ていて、たまにハズレると少しガッカリした。

やがてすべての座席が埋まり、通路もほぼ隙間が無いほ

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Moved soul No.03

Moved soul No.03

YAMAHA FG-240

中学生の頃、土日になると僕はいつも街中のある楽器屋へ通っていました。
その楽器屋の規模は大きくて吹奏楽器からピアノまで全てが揃う有名店でした。
僕のお目当てはそこのギターコーナーで、高くて買えない名器を見ては溜息をつきながらあれこれと触りまくっては試し弾きしていたのですが、
お店側からしたら、冷やかしの小僧が今日も来て、折角ピカピカに磨いた高級ギターにベタベタ手垢を付

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佐々木先生

佐々木先生

公立高校2年生のサトーは、粗野でヤンチャな男だったが、いわゆるヤンキーにも成り切れない中途半端な小僧だった。

ただ、意外にも音楽の素養はそこそこにあって、他人に決して見せない繊細な一面もあった。
彼は小さな頃から様々なクラシック音楽に触れて育った生い立ちがあり、
この頃は盲目の作曲家、ホアキン・ロドリーゴの
「ある貴紳のための幻想曲」
に心を奪われていた。

ハンディキャップをまるで感じさせない

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佐々木先生 「Plus+」

佐々木先生 「Plus+」

前回の佐々木先生のお話には、実は続きがあって、
サトーが高校を卒業した後のエピソードを少し。
それは中々にドラマチック。

それは現在進行的なドラマではなく、過去に完結している出来事が現在を駆け抜けると言う・・もう自分でも

「何言ってるか分からない」

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卒業後のサトー。

何度も言っているが、在学中のサトーの素行は良くなかった。
二度の停学と、い

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