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環境に配慮したイノベーション:流通業の脱炭素とサステナビリティの取り組み

こんにちは。企業経営において、利益の追求とともに重要視されるのが環境対応です。流通業界がこれから取り組むべき方向性について、グローバルな環境面や政策に関する基本的な情報やイノベーションの方向、流通企業における具体的な取り組み事例を紹介しているのが、『流通情報』2024年1月号です。
ここでは、そのポイントを紹介します。


「環境に配慮したイノベーション:流通業の脱炭素とサステナビリティの取り組み」のポイント

⚫国内外の脱炭素政策を解説脱炭素の取り組みが流通業の企業価値向上につなげられる可能性とは?

⚫ソーシャル・イノベーションの創出それをさらに普及させるための責任ある消費とは?

⚫企業の取り組み事例~ご担当者様からの報告
✔アスクル(eコマース)
ー環境配慮の取り組みと、商品環境基準
✔三菱食品(食品卸売業)ー「統合報告書」より、脱炭素の取り組み

⚫DGS、食品小売業の環境対応
✔ドラッグストア大手の対応事例ーウエルシア、マツキヨココカラ、ツルハ
✔食品小売業のサステナビリティーアンケート結果から見えたこと

「環境に配慮したイノベーション:流通業の脱炭素とサステナビリティの取り組み」をもう少し詳しくご紹介します

(公財)流通経済研究所 常務理事
山﨑 泰弘
(『流通情報』1月号「特集にあたって」より一部加筆)

 人口減少が進む国内市場では、既存需要が縮小していくことが見込まれており、ドメスティックな事業基盤にある流通業にとってビジネスモデルの変革が求められ、DX の推進が注目されている。流通業にとって従来の延長線ではなく、創造的な変革であるイノベーションが、事業継続のために必須の取り組みと考えられているからであろう。

 一方、世界中で発生している異常気象を目の当たりにして、人々の地球温暖化に対する危機意識が一段と高まってきている。こうした背景もあり、温室ガスの排出を減少させる脱炭素(カーボンニュートラル)の目標を設定し、目標達成に向けた取り組みを推進することが、国、産業、企業にとって強く求められるようになった。この世界的な潮流は、流通業にとっても例外なく対応不可避な課題としてのしかかっている。まさに、環境へ対応したイノベーションが流通業に求められていると言えよう。

 しかしながら、流通業における脱炭素の対応やサステナビリティの取り組みは端緒についたばかりであり、他社の事例を見ながら取り組みを進める企業も多いと考えられる。
 
 今号の特集では、「環境に配慮したイノベーション:流通業の脱炭素とサステナビリティの取り組み」として、流通業界がこれから取り組むべき方向性について、グローバルな環境面や政策に関する基本的な情報イノベーションの方向、流通企業における具体的な取り組み事例を紹介することとした。

 では、ここでそれぞれの論文を紹介しよう。

○流通業が注視すべき国内外のカーボンニュートラル政策と、テクノロジーの動向について

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター 齋藤 晃太郎

 この領域の重要性を示す背景や国内外の政策をわかりやすく解説している。調査によると、多くの日系企業が収集・開示したESG データを企業価値経営の意思決定に活かすことはできていないと感じているが、その必要性は強く認識している。GXイノベーション技術を用いた新ビジネスや事業収益を超えた新たな企業付加価値の創出という攻めのアプローチが期待されるとしている。

○流通業界におけるイノベーション:ビジネス・イノベーションからソーシャル・イノベーションの創出へ

武蔵大学 経済学部 教授 大平 修司

 流通業がSDGs の取り組みを進めるにあたって、ソーシャル・イノベーションの必要性を説いている。社会的課題の解決を通して、新しい社会的価値を創出し、経済的・社会的成果をもたらす革新であるソーシャル・イノベーションの事例として、株式会社クラダシの取引プラットフォームの活用によるフードロス削減を取り上げ、普及に至るまでの課題を提起している。それは、消費者の消費行動についてである。社会的課題の解決を実践する消費者はまだ少数であり、消費者自身のモラルや倫理性で責任ある消費をすることが期待され、そうした意識の高まりが流通業のソーシャル・イノベーションの創出につながっていくとしている。

○アスクルの脱炭素の取り組み 地球の明日(あす)に「うれしい」を届け続けるために

アスクル株式会社 マーチャンダイジング本部
グリーンプロダクトマネジメント 渡辺 昭一郎

アスクルの脱炭素経営を目指す背景などを説明したうえで、アスクル商品環境基準を用いた環境スコアについて事例を交えて紹介している。BtoB サービスにおける顧客反応から幅広い業種・企業がこうした環境対応商品へ高い関心を持つことがうかがえる。環境スコアの掲載はPB 商品だけでなく、賛同する大手メーカーのNB 商品でも掲載され始めているということから、今後は、他の流通業でもこうした環境基準の取り組みが進むことが期待される。また、こうした環境スコアが普及することで、一般消費者のエシカル消費の後押しにもつながることだろう。

○統合報告書を中心としたサステナビリティ実現への取り組み事例紹介

三菱食品株式会社 経営企画本部 サステナビリティグループ マネージャー 橋本 公尚

 食品卸売業の果たす社会的機能や役割などをステークホルダーに周知するために発行した統合報告書から、環境対応についての具体的な取り組みを紹介している。三菱食品では、食品流通にとって大きな課題である食品廃棄や卸売業の主たる機能である物流対応などを含め、脱炭素、サステナビリティ実現に向けて様々な取り組みを実施している。ただし、同社はサプライチェーンの中間に位置していることから、Scope3の測定では上流の間接排出が事業活動全体のCO 2排出量の99.5% を占めることが確認されている。このため仕入先メーカーや物流委託先との協力で削減アクションに取り組むとしており、影響力が大きな最大手企業が率先して取り組むことで、食品業界全体
が脱炭素
に向かうことが期待される。
 拙著の事例研究では、国内小売業界で急激に存在感を高めているドラッグストア企業のうち、年間売上高が約1兆円となる3社の統合報告書から環境対応の取り組みについて整理した。いずれの企業も環境対応への取り組みは端緒についたところであり、今後の取り組みの深化により、日用品流通業界における脱炭素の方向が期待される。

○食品小売業におけるサステナビリティへの取り組み:アンケート結果からの現状と課題分析

公益財団法人流通経済研究所 上席研究員 石川 友博
公益財団法人流通経済研究所 研究員 寺田 奈津美

 食品小売業に対してサステナビリティへの取り組みに関する調査を実施し、その結果から食品小売業における課題や今後の取り組みに向けて提言をしている。調査で明らかになったことは、人手不足で十分な対応ができないという組織的な課題とサステナビリティの取り組みを将来に向けた投資ではなく、コストとして捉えているという本質的な課題である。消費者や従業員の意識が変化する中で、経営戦略としてサステナビリティの推進をどう取り組むか、業界としてどう協調していくか、という点などについて提言している。

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