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目に映るすべてのことはメッセージ~ロピア京都ヨドバシ店は気付きの宝庫~

 こんにちは。先日、私用で大阪に行く際、新幹線から在来線への乗換駅である京都駅で下車しました。せっかく京都に来たので、好きな寺院でお気に入りの仏像を見たいとも思ったのですが、時間の都合であきらめざるをえず、その代わりと言っては何ですが、京都駅の近くにあるスーパーマーケット「ロピア京都ヨドバシ店」で買い物を楽しみました。
 今回は、そこで目にしたユニークな取り組みを紹介します。

主任研究員 鈴木雄高


図1 春の夜に輝く京都タワー
出所:筆者撮影(撮影日:2023年4月某日)

 上の写真(図1)は、京都駅の北口を出てすぐに撮影した京都タワーです。夜空をバックに白く輝くタワーが美しいですね。京都タワーの裏手に回り込むと、そこには京都ヨドバシがあり、地下2階にスーパーマーケットのロピアの店舗があります。

ロピアの特徴

 今回訪れた「ロピア京都ヨドバシ店」の取り組みを紹介する前に、ロピアの特徴を確認しておきます。

✔ 神奈川地盤のスーパーマーケット
✔ 2020年8月までは関東のみに出店、2020年9月から他の地方にも出店
✔ 「ロープライスのユートピア」を略して「ロピア」
✔ 出自が精肉専門店「肉の宝屋」であり、精肉が強み
✔ 大容量商品を低価格販売
✔ 販促物のサイズが大きく、目立つ
✔ ショッピングモールの核テナントにもなるほど集客力が高い
✔ 誰が呼んだか知らないが「日本版コストコ」の異名あり
✔ 会計は現金のみ、ショッピングカート利用時に100円が必要(後で返却)

 思いつくままに、ロピアの特徴を挙げてみました。ロピアの「ロ」が「ロープライス」の意味であり、低価格販売を前面に打ち出しているスーパーマーケットです。

ロピア京都ヨドバシ店のユニークな取り組み

 それでは、ロピア京都ヨドバシ店の取り組みを見ていきましょう。今回、私が注目したのは、来店客に向けたメッセージです。この店舗が行っている様々な施策には、どれも明確な意図を感じました。

自社のモットーを目につく場所に掲げる

 例えば、お店の入り口付近には、経営理念が掲げられていました。そこには、モットーとして、

1.同じ商品ならより安く
2.同じ価格ならより良いものを
3.楽しく感動できる、愛に満ち、愛されるお店です

と書かれています。店に掲げられたこの言葉を、立ち止まってじっくりと読む買い物客は多くはないでしょう。しかし、週に何度も店舗を訪れるうちに、記憶に刷り込まれている、ということは、十分起こりうることです。
 アメリカのスーパーマーケット、「Stew Leonard's」の店舗には、「Our Policy」として、

Rule1: The Customer is Always Right!
Rule2: If the Customer is Ever Wrong, Reread Rule1.

という「Policy」が掲げられていますが、ロピアはここから学んだのかもしれません。
 なお、Stew Leonard's の売場では、ぬいぐるみが置かれていたり、模型の汽車が走っているなど、買い物客を楽しませる工夫が随所に見られるのですが、ロピアは、こうした取り組みも参考にしている可能性があります(ロピアでは、肉売場に「キン肉マン」のぬいぐるみが置かれていたり、お菓子売場の天井付近に設置されたレールを汽車が走っています)。

「あなたの好みをわかっていますよ」ということを伝え、信頼を得る

 さて、再び、ロピア京都ヨドバシ店の取り組みに戻りましょう。
 青果売場の壁際に、「京都○○市場で仕入れて30年」と書かれたボードが掛かっていました。一見、何の変哲もない掲示物と思われるかもしれませんが、私はこれを、来店客の信頼を得る上で大事なメッセージだと感じました。ロピアが関東以外の地方に出店をし始めたのは2020年9月のことで、2021年11月にオープンした当店が京都府1号店です。開店から1年半に満たない現時点では、いまだ、多くの買い物客にとって、ロピアは謎のベールに包まれた存在。しかも、関東地盤のスーパーマーケットなので、自分たちの食の好みをわかっているのか?と、仕入れの目利きに対して、疑問を抱いている人も少なくないでしょう。そのような人に対して、このボードは、青果の仕入れ担当者が京都の市場で長年仕入れていること、ひいては、消費者の嗜好を理解していることを伝えています。

「何となく」ではなく「意図のある」表現

 続いて、精肉売場に目を向けます。スーパーマーケットの精肉売場の壁面には、「MEAT」などと英語で書かれていることがありますが、大抵はデザイン面でのこだわりは感じられず、無地の壁だと何となく寂しいから、とりあえず書いた、という程度のものに思えます。これに対し、ロピア京都ヨドバシ店の場合、壁には、牛肉の部位の名称が、ひらがなで大きく「さーろいん」、「しゃとーぶりあん」、「らんぷ」等と、踊るようにダイナミックな筆跡で書かれ、各部位の写真と見まごうような美しくリアルな絵と、説明文が添えられていました。入り口付近に掲げられているモットーと同じく、念入りに読む人は少数派だろうと思いますが、店内アートとも言える迫力のある表現は、文字を読まずとも、ただならぬ熱量を感じさせるものですし、説明文を読めば各部位の特徴を知ることができます。「何となく」書かれた「MEAT」とは全く異なる、明確な意図を感じさせる表現でした。

ロピア京都ヨドバシ店の取り組みから学べること

 最近、流通業界では店内に設置したデジタルサイネージで買い物客に対して購買を促進するメッセージを伝える、「リテールメディア」に注目が集まっています。新しい技術を上手に使うことも必要ですが、これまで、「何となく」行ってきた取り組みを、いま一度見直して、「明確な意図を持って」行うことも重要です。
 店内に経営理念を掲げている点も注目に値します。このようなメッセージは、バックヤードに掲出していることがありますが、店頭に表示することで、従業員は、来店客も目にしていることを意識します。来店客に対して経営理念を宣言している以上、従業員もこれを意識して働こうという気持ちになるはずです。
 経営理念は、企業のWebサイトに掲載されていますが、これを見る来店客はほとんどいないでしょう。従業員も目にする機会はほとんどないと思われます。これはもったいないことですね。小売店舗は、ロピア(というか、Stew Leonard's )に倣って、経営理念を堂々と店内の最も視認率が高い場所に掲出することを是非検討してみてください。

■関連動画

ほぼ週刊流研ニュース:千葉市の食ブランド「千(せん)」、京都ヨドバシ「ロピア」、岩手県「マイヤ」2023年4月12日(水)

※動画開始15分くらいから「ロピア京都ヨドバシ店」の取り組みについて解説しています。本稿で紹介しきれなかったチラシについても説明しています。