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スーパーマーケットの常識を超えた存在「ファインズたけだ」

公益財団法人流通経済研究所
主任研究員 鈴木雄高


「日本一面白いスーパー」は「テーマパーク」だった!

はじめに、あるスーパーマーケットの店舗に対する、ネット上のクチコミを1つ紹介します。

楽しかったです。Instagramをみていきましたが、アツアツセール、また友達を誘って行きたいです、アツアツセールもお得、お魚などもお得でした。

GoogleMap「ファインズたけだ」クチコミより

「楽しかった」はともかく、「また友達を誘って行きたい」というコメントは、およそスーパーマーケット訪問者のものとは思えません。お客様を虜にし、友達を連れて再訪したいとは、まるでテーマパークに対するコメントのようです。

続いて、同じお店に対するネットのクチコミをもう1つ紹介します。

自宅から2時間かけてお店にお伺いしました…
が副社長さんとはお会い出来ず
見間違えかもしれませんが、どこかに土日祝11時からと16時からパフォーマンスがあると書いてあったので16時前に待機してましたw
又近々行きたいので土日祝の詳細教えてください
新鮮なお魚、お刺身お肉にお惣菜などを購入できたのは良かったけど一番の目的副社長さん見れず残念でした

GoogleMap「ファインズたけだ」クチコミより

まるで、ミッキーマウスに会いにディスニーランドに行ったものの、お目当てのミッキーに会えず残念だった、必ずリベンジを果たしたい(再訪したい)という投稿のようです。

「日本一面白いスーパー」を標榜する「ファインズたけだ」

上で紹介したのは、佐賀県伊万里市にある「ファインズたけだ(ファインズTAKEDA)」という、全日食チェーンのスーパーマーケットに対するGoogleMap上のクチコミです。

■ファインズたけだ 公式Webサイト
https://smat-takeda.com/

ファインズたけだは、株式会社SMATが運営しているスーパーマーケットで、2023年9月末現在、店舗数は「1」です。

わずか1店舗のスーパーマーケット、ファインズだけだですが、「日本一面白いスーパー」を自称しています。

「楽しいスーパー/スーパーマーケット」という表現を聴くことはあります。サミットは、2017年度から「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」というビジョンを掲げていまし、スーパーマーケットの利用者である私たち消費者も、「あの○○スーパーの売場は楽しいよね」というようなことを言います。しかし、「面白いスーパー」とは、一体どのようなお店なのでしょうか?

百聞は一見にしかず、百読も一見にしかず、ファインズたけだのInstagramかTikTokで公開されている動画をチェックしてみてください。さすれば、一目瞭然です。

■ファインズだけだ 公式Instagram
https://www.instagram.com/fines_takeda/

■ファインズだけだ 公式TikTok
https://www.tiktok.com/@fines_takeda

異次元のSNSフォロワー数を誇る「ファインズたけだ」

下表は、ファインズだけだと、有力なスーパーマーケット(食品スーパー)、および、各種小売業のいくつかのチェーンの、Instagram、TikTok、X(旧Twitter)のフォロワー数と、YouTubeチャンネル登録者数を比較したものです。

出所:筆者が各企業のSNSアカウントを直接確認して作成。

この表で取り上げたスーパーマーケット各社のSNSの運用状況を見ると、XやInstagramのアカウント、YouTubeのチャンネルを開設している企業は多い反面、ほとんどのスーパーマーケットはTikTokのアカウントを持ってないことがわかります。

ファインズだけだは、InstagramとTikTokのフォロワー数が特に多く、取り上げたスーパーマーケットの中では最多です。YouTubeチャンネル登録者数も他社を大きく引き離して、最多でした。ファインズたけだがSNSで大いなる支持を獲得していることがよくわかりますね。

なお、表の下半分(線より下)には、総合スーパーやコンビニエンスストア、アパレルショップなどの、SNSアカウント/チャンネルのフォロワー数/登録者数が掲載されていますが、スーパーマーケットを大きく上回っている企業が多いです。スーパーマーケット各社のSNS活用は、他業態と比べ、遅れていると言えるかもしれません。もちろん、スーパーマーケット企業は、店舗を展開している地域が限定的であるなど、他業態の企業と単純には比較できない面もあります。が、ファインズたけだのように、各SNSの投稿内容が、スーパーマーケット業態としては異例の支持を受けている企業もあることを踏まえると、工夫の余地は大きいとも言えそうです。

地域の大手チェーンにも負けない高評価

それでは、ファインズたけだは、地域の競合店舗と比べて良い評価を得ているのでしょうか。今回は、簡易的に調べてみます(あくまでも、無料で、素早く、簡単に、という条件下での確認であることにご注意ください)。

GoogleMAPの検索ウインドウに「佐賀県伊万里市 スーパーマーケット」と入力して検索すると、明らかに無関係な店舗を除いて、44件(44店舗)がヒットしました。GoogleMAPでは、その店舗・施設に対する評価を☆の数(1点から5点)で表すことができます。評価件数が1以上ある店舗は、44店舗中の34店舗でした。今回は、評価件数が5以上の25店舗について、評価スコアを見ることにします。

出所:GoogleMapで「佐賀県伊万里市 スーパーマーケット」で検索して
ヒットした店舗情報より作成。2023年9月29日時点。

GoogleMAPにおけるファインズだけだの評価スコアは、大手スーパーマーケットチェーンの店舗に勝るとも劣らない高さです。また、1点から5点の内訳をみると、最高点の「5点」をつけている人が最も多いことがわかります(下の画像参照。比較対象のA店は大手スーパーマーケット・チェーンの店舗で、伊万里市に所在しています)。

出所:GoogleMAPのクチコミ情報のキャプチャを元に作成(一部画像を加工)。
右の店舗は実名を伏せるためA店としている。2023年9月29日時点。
出所:GoogleMAPのクチコミ情報を参考に作成。
2023年9月29日時点。

書き込まれているクチコミの文章に多く登場するキーワードに注目すると、大手チェーンのA店のクチコミ文章に多く登場する語は、スーパーマーケットのに対する評価や感想として想定の範囲内との印象を受けますが、ファインズだけだの場合、「動画」、「社長」、「インスタ(Instagram)」、「tiktok(TikTok)」、「SNS」と、「InstagramやTikTokなどのSNSに投稿された社長の動画」に言及しているものが多いことがわかります。

異彩を放っていますね。どこまでも異彩を放っています。

上でInstagramやTikTokのURLを紹介したので、既に、ファインズたけだが、SNSでどんな動画を発信しているかを視聴済かもしれませんが、以降では、コンテンツの内容について確認してみましょう。

社長と副社長がSNSコンテンツの制作・発信を牽引

スーパーマーケットのSNS投稿といえば、特売情報や料理のレシピ情報などを思い浮かべる向きも多いかと思いますが、ファインズたけだが発信しているコンテンツは、趣を異にします。かつて、玉川大学の神谷渉教授が「コンテンツ発信力、みがけ」というメッセージを発していましたが、ファインズたけだの磨き抜かれたコンテンツ発信力には神谷氏も驚くのではないでしょうか。

ファインズたけだのSNS投稿の魅力は、何と言っても、「面白い動画」です。コンテンツの主役は(揚げたての揚げ物をアピールする動画などは多いのですが、私に言わせれば)商品でもなく、売場でもなく、社長である兄の竹田智史氏と、副社長である弟の竹田温史氏です。

キャスト(出演者)として目立っているのは、何と言っても、歌に踊りに全力投球の温史氏(副社長)です。しかし、智史氏(社長)も負けてはいません。特技のキレのあるブレイクダンスには、1度見たら忘れられない不思議な魅力があります。なお、コンテンツの企画や動画編集は主に智史氏(社長)が担っているそうです。

この二人の絶妙なコンビネーションが、スーパーマーケット店舗としては類を見ない程に磨き上げられたコンテンツの作成と発信、そして、ファンの獲得につながっていると考えられます。

「面白い動画」を制作し、SNSに投稿することで、冒頭で紹介したクチコミの投稿者のように、

動画を見てファインズたけだ(または社長・副社長)のファンになる

店舗に行って買い物をする

という行動をとる人が大勢いるのは、お分かりかと思います。

投稿されるコンテンツが、一般的なセールスプロモーションやお客様へのメッセージとは一線を画した、面白いエンターテインメント(娯楽)作品として、更に人気を博せば、

動画を見てファンになる

店には行けないので、ネット通販で買物をする

という購買行動を行う人も増えるはずです。今後はネット通販にも力を入れ、SNSのコンテンツ制作においては、外国人視聴者にとって面白いものに挑戦するそうなので※2、ネット通販の配送の仕組みを整備することが前提にはなりますが、越境ECで外国に住むファンにも商品(や、場合によってはエンターテインメント作品)を販売する未来がやってくるかもしれませんね。

おわりに~従来の事業の枠から飛び出すためには工夫が不可欠

日本には、ローカル・スーパーマーケットが今なお数多くあります。地方では人口減少が著しいことから、ローカル・スーパーマーケットは、近隣住民を相手に小売事業を行うだけでは、経営が厳しくなることは確実です。今回紹介したファインズたけだのように、遠隔地からの来訪者を増やす取り組みをしたり、外国に住む人にも商品を販売するなど※3、工夫するこことで、従来の事業の枠を飛び出せるかもしれません。

最初はほんのちょっとしたチェンジ
だが未来にとっちゃ大事なチャレンジ
(略)
武器はたゆまぬ K.U.F.U.
武器はたゆまぬ K.U.F.U.
武器はたゆまぬ K.U.F.U.
武器はたゆまぬ K.U.F.U.
常に研究
常に練習
知恵を結集し
君をレスキュー

RHYMESTER「K.U.F.U.」(作詞:宇多丸・Mummy-D)

注釈

※1:冒頭の画像はCnavaの画像生成AI機能によって生成したものです(「日本一面白いスーパー」と入力して出力された9枚の画像を使用して作成)。
※2:参考文献は以下の通りです。日経XTREND「地方発ヒット 第8回 佐賀の“日本一面白いスーパー”がTikTokでファン獲得 250万回再生も」(2023年2月13日)https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00616/00009/、2023年9月28日閲覧
※3:首都圏で店舗を展開するスーパーマーケットのベルクは、外国での需要獲得を目指しており、今年、タイに住む人を対象とした越境EC事業を始めました。参考文献:PR TIMES 、株式会社ベルク Press Release「越境EC(タイ向け)のお菓子のサブスクリプションサービス『amechan』を開始します」(2023年6月7日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000106383.html、2023年9月29日閲覧