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流通における事業変革とデジタル・シフト~講演内容、即日まとめました「流通大会2023」<2日目>

こんにちは。「流通大会2023」2日目が終了しました。初日に続き、本日も講演内容のポイントを研究員がご紹介します。

まとめと一言:公益財団法人流通経済研究所 主任研究員 鈴木 雄高


講演の概要

1.変わる小売業の方向性

株式会社カスミ 代表取締役社長
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 代表取締役副社長
山本 慎一郎氏

○概要
 
首都圏にスーパーマーケットを528店舗(2023年1月26日現在)展開するU.S.M.Hは、現在、「デジタルを基盤とした構造改革を推進し、次代の礎を築く」を掲げ、様々な取り組みを進めています。
 ニューヨークで1月に開催された、NRF(全米小売業協会)の「Retail's Big Show」で実感したことを踏まえて、カスミで開発するignica(イグニカ)で実現する顧客体験について解説されました。カスタマージャーニーのパターン数は急増しており、2023年度には4年前の約100倍になる予定だそうです。また、1つのアプリでOMOのシームレスな連携の実現を目指すためのローカル・フルフィルメント・ストア(LFS)など、具体的な取り組みについてお話いただきました。
 顧客への提供価値も変化しています。自社運営の植物工場で生産したレタスの販売、米国企業と独占販売契約を締結した植物由来代替肉などの商品の話や自社がブレイクスルーしていくための実験の場としての位置付けもあるという店舗の新フォーマット「BLANDE(ブランデ)」について紹介していただきました。
 また、サプライチェーン変革の重要性を強調し、課題に対応するためには、業種の垣根を超えて議論をする場を設定する必要があると指摘されていました。


カスミ 山本慎一郎社長 ご講演の様子

○研究員の一言
 
米国のスーパーマーケット・ホールフーズは、アマゾン傘下に入ってから変革を続けてきましたが、再びローカル色を強めた売場づくりに回帰しているそうです。カスミではアプリの活用やLFSの導入を通じて、顧客体験の強化やエリア内顧客の利便性向上を図ろうとしています。今後、技術を活用して地域密着の度合いを高め、ブレイクスルーしていくことを楽しみにしています。

2.小売ビジネスモデルの変化とメーカー・マーケティングの対応

公益財団法人流通経済研究所 理事
中央大学大学院 戦略経営研究科 教授
中村 博

○概要
 
はじめに、「小売ビジネスのSカーブ」を解説されました。小売業の経営者は「3つの隠れSカーブ」を意識しなければならないとし、生き残るには、提供価値の向上、ケイパビリティ、人材育成が必要ということです。
 また、「小売業の4つの提供価値」について解説し、4つの象限のいずれかでリーダーとなること、これに加えて他の象限も強みにすべき、と説明しました。
 店舗DXを技術の種類等によって分類し(例:BOPIS、ライブコマース、リテールメディア、ショールーミング)、国内外の企業事例を紹介されました。また、研究結果を踏まえ、小売業は、店舗とネットの双方で購入するオムニチャネル・ショッパーを増やすことが重要であると考察されています。少し先の未来の話として、ある有名ブランドのメタバース店舗を紹介しました。
 ラッセルの感情円環モデルを踏まえつつ、脳波測定データを示しながら、顧客体験を強化するには、楽しさを高め、ストレスを低下させることが重要であると解説しました。楽しさを演出することで促進が期待できる「非計画購買」を、新たな見方で分類する必要性にも言及されました。

中村教授による講演の様子
中村による講演の様子 by スタッフ

○研究員の一言
 
実店舗における買い物行動の研究事例などを豊富に盛り込んだ内容は、近い未来に店舗が、そして、顧客体験が、どのように変わるのかを想像させてくれる、ワクワクするものでした。ショッパーの店内外での行動を研究している身としては、改めて非計画購買の重要性を実感し、さらに研究を深めたいと思いました。

3.日清食品における事業構造改革に向けた取り組みについて

日清食品ホールディングス株式会社
サプライチェーン構造改革プロジェクト部長 兼 DX 推進部長
日清食品株式会社
取締役 Well-being推進部長兼 サプライチェーン企画部 管掌
深井 雅裕氏

○概要
 
クリエイティブとフードテックで世界の食をリードする“FUTURE FOOD CREATOR”を目指す日清食品は、主力ブランドをさらに強力なブランドに育成する「今ある価値の最大化」に加え、「今はまだない価値の創造」にチャレンジしています。その実現のために、マーケティング戦略と販売戦略があり、これらを、人材育成や組織風土改革、DX、人材確保などの施策で支えているとのことです。「今はまだない価値」として発売した「完全メシ」はヒット商品になっています。
 マーケティング戦略の事例として、意外にも長い歴史を持つカップライス事業の取り組みを紹介していただきました。100億円ブランドに成長した「カレーメシ」ですが、成功に至るまでは試行錯誤を続け、ねばり強く取り組んできたといいます。
 2年前にDX推進部を立ち上げ、NBX(NISSIN Business Xformation)を推進しています。デジタル技術を利用したビジネスモデル変革に取り組んでおり、業務プロセスの自動化によって作業時間を大幅に削減してきました。また、従業員を、定型業務や物理的制約から解放し、生産性の高いワクワクした働き方ができるように、そして、クリエイティブな業務に集中できるように、改革を進めています。他にも、従業員の well-being可視化し、モニタリングすることで、生産性向上につなげる取り組みを進めています。
 その他、人材育成や、公募のポスト拡充、フィジカルインターネットの取り組み(ビール会社との共同配送)など、注力している取り組みをご紹介いただきました。

○研究員の一言
 
「カレーメシ」が人気商品として定着するまで、カップライス事業の成功をあきらめずに改善を続けてきたというエピソードから、安藤宏基氏の著作※のタイトルの通り、「勝つまでやめない」ことの大切さを実感しました。
 深井氏は、毎日、血圧や心電図を計測して可視化し、ご自身の体調を管理しているそうですが、事業においても従業員のWell-beingを可視化して、状態を絶えず把握することで、生産性を高めようとしているということでした。個人としても、組織としても、参考になる内容でした。
※安藤 宏基 著『勝つまでやめない!勝利の方程式』(中公文庫)

4.2023年の日本経済の展望

株式会社第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
永濱 利廣氏

○概要
 
米国の長短金利差、原油先物価格、貿易収支などの推移を踏まえ、米国・欧州・中国の景気動向を予想した上で、2023年日本経済のシナリオについて解説しました。日本経済は回復していくと見て良いのではないか、とのことです。
 企業による設備投資計画は2022年度に大きく伸びています。これは、主に、コロナで止まっていた設備投資の再開、DX、GX(グリーントランスフォーメーション:省エネ関連など)、レジリエンス強化(生産拠点の国内回帰など)の取り組みによるものだそうです。企業の設備投資額は引き続き増加するだろうとの見方を示していました。
 消費者物価が上昇する中で、実質購買力が挽回するためには、企業が賃上げをすることが望まれますが、既に大幅な賃上げを発表している企業がある一方で、中小企業などは対応が難しいケースも多いのではないかとのことでした。
 今後の日本経済における明るい材料として、インバウンド消費のお話がありました。コロナ禍で縮小したインバウンド消費が回復し、大阪万博が開催される2年後には再び市場規模が大きくなっている可能性もあります。
 その他、日銀執行部人事による日本経済への影響、政府の電気代軽減策の影響などについても解説されました。

○研究員の一言
 
グローバルな観点でマクロ経済の動向を捉え、今年、そして来年以降の日本経済の展望を解説してくださいました。国内のメーカーや小売業、卸売業、ITベンダーなどの方の中には、日常業務ではマクロな視点での経済をみる機会がない方もいらっしゃると思いますが、ご自身の、あるいは皆様の企業の、2023年の取り組みの方向をチェックする意味で、本講演の内容は是非視聴いただきたいと思います。

<注>
各講演の「概要」は、筆者がリアルタイムで聴講した内容をもとに記述しています。聞き違いなどを含んでいる可能性がある点にご留意ください。また、「研究員からの一言」の内容は筆者個人のものです。

【動画解説】「流通大会2023」3日間・全講演の解説



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