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【11/1】これがホントの哲学だ(戸田山和久『哲学入門』を読む①)《基礎ゼミレポート》

はじめに

本日から、基礎力向上ゼミ(@ソトのガクエン)のテキストは戸田山和久『哲学入門』(ちくま新書)になりました。今回は、ソトのガクエンの代表小林が「序 これがホントの哲学だ」についてまとめてきたものをもとに、新たにご参加いただいた3名の方を加えた計7名の皆さんといっしょに議論をいたしました。

戸田山和久とは?

当日のスライドより

戸田山和久氏は、高校生や大学入学初年度の学生を対象とした『論文の教室』(NHKブックス)や『教養の書』(筑摩書房)などでは、軽快な語り口とユーモアにあふれた文章を書かれる一方で(ほんとうに真剣にふざけておられます)、ご自身の専門である科学哲学においては、認知科学とカント哲学の類似と相違を論じたり(「カントを自然化する」)、実在論論争についての専門的な著作(『科学的実在論を擁護する』)のある方、日本では類を見ないユニークな哲学者(哲学研究者)です。
専門的な論文や著作のなかでも、戸田山氏のユーモアや機知が垣間見られることがありますが、個人的な読書経験としては、たとえば「教養とは何か」というきわめて抽象的な問題について、「ファイトクラブ」や「トゥルーマン・ショー」といった映画作品を例にあげ、具体的かつ説得的に論じられているのが印象に残っています。

戸田山氏の哲学のスタンスとしては、哲学とは科学的知見にもとづいているべきであり、精神(意識)それ自体の自律的な実在を主張したり、心身二元論を堅持する、デカルトに代表されるような哲学には批判的な立場を取るところに特徴があります。

ありそでなさそでやっぱりあるもの

さて、本書『哲学入門』(ちくま新書)では、哲学の主題とは「ありそでなさそでやっぱりあるもの」について考えることであるとされます。「ありそでなさそでやっぱりあるもの」というのは、具体的には、意味、情報、目的、機能、価値、道徳、自由意志等で「存在もどき」とも呼ばれます。

では、価値がなぜ「存在もどき」と言われるのかを考えてみましょう。例えば、1万円は1万円分のものが買えるという「価値」を持ちます。一般常識的な立場からすると、そのような「価値」があることを疑う人は誰もいません(「ありそう」の部分にあたります)。しかし、この世界のありとあらゆるものは、例外なく、物理的なものであるという唯物論の立場に立てば、1万円は単なる紙切れに過ぎず、どこにも1万円分の「価値」は見当たりません(「なさそう」)。とはいえ、私たちは1万円で実際に物を買うことができますし、1万円をもらえると嬉しいことからも分かるように、そのような「価値」は存在しないのだと強弁するには無理があるわけで、やはり「価値」の存在を認めざるをえません(「やっぱりある」)。
つまり、「存在もどき」とは、一般常識からするとあると思われているが、唯物論(科学主義)からするとなさそうに思える、けれど、やはりあるとせざるをえないものだと言えます。したがって、哲学が引き受けるべきなのは、物理主義のような「科学の成果を正面から受け止め」「存在もどきたちをモノだけ世界観の書き込む」というスリリングな課題であると戸田山氏は考えます。

存在もどきと唯物論的世界観界を調和させる三つの戦略

本書では、存在もどきを科学的世界観に書き入れる戦略として①還元主義、②行動主義?パースペクティヴィズム、③発生論的観点(進化論的モデル?)が紹介されます(※クエスチョンマークがついているのは、本書にはその名称が登場しないので、こちらで補ったものです)。そして、存在もどきが、原初的な物理的組成からいかに派生し発展するのか、そのプロセスを明らかにし、そのシナリオを作る③の戦略を本書は採用します。

☟☟☟①還元主義、②パースペクティヴィズム、③発生論的観点について話している箇所を切り抜いた動画です。ゼミの様子をご覧ください。☟☟☟


さらに、本書の立場は、科学的知見と科学的方法に立脚するので、本書が論じる存在もどきの発生プロセスもまた仮説であり、当然のことながら、反証される可能性を受け入れることになります。このように、「哲学説も科学的知見によって反証されることを認める立場、言い換えれば、科学の一部として哲学をやろうぜという立場を自然主義と」(34)言います。こうした自然主義の立場から、本書では、意味、機能、情報、表象、目的、自由、道徳、さらには人生の意味について論じられていくことになります。

当日の皆さんとの議論では、ここで言われている哲学には倫理学も含まれているのか、存在もどきは人間が不在でも存在すると認められるのかといった興味深い話題について意見を交わすことができました。


次回11月8日(火)22時からは、Fさんがリーダー(reader)担当となり、「第1章 意味」をできるところまでまとめていただき、これをもとに皆さんと議論を深めたいと思います。

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ソトのガクエンが実施しています、現代思想コース(基礎力向上ゼミ、古典読解ゼミ、サブゼミ、原書ゼミ、大学院入試情報チャンネル)はただいまメンバーを募集しています。興味・ご関心お持ちのかたは、HPをご覧ください。ご登録は、HPPeatixnoteいずれかをご利用いただけます。皆様のご参加をお待ちしております。 


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